消しゴム少年その6
次の日、陸は遅刻せずに登校してきた。
教室に向かうと、廊下に砂井が立っていた。
「陸君。私の消しゴムは、もういいのよ」
「大丈夫だよ。負けることはないから絶対」
「けど、あの消しゴムにはいくら陸君でも勝てないと思うの」
「ちゃんと秘策を練ったから。必ず勝って見せるよ。君の消しゴムは必ず取り返すよ」
心配していた砂井だったが、陸が自信たっぷりに語るので、要らぬ心配をしたと思った。
「わかったわ。私、陸君の事を信じてる。がんばってね」
そして、その日の昼休み。
陸と孝明と砂井は山田先生が来る前に給食をさっさと食べた。
食事を食べないと集中力がでないらしい。
他の児童は先生と陸が対決するとは知らないので、食事をいつもと同じように食べていた。
「昨日も言ったけど、先生にあれを気付かれないようにしろよ」
孝明は念のために言った。
「分かってるって」
陸は見つからない自信があったので、孝明の忠告は、無駄に聞こえた。
「ならいいが。くれぐれも消しゴムの裏を見せるなよ」
「何度も言わなくても分かってるって」
いやそうに答える陸。
扉が開いた。山田先生だ。
右手にはあの巨大消しゴムが握られている。
「じゃ、早速始めようか」
山田先生は陸のところへやってきて言った。
無言でうなずく陸。
「始めにじゃんけんをするんだったな」
「ええ、そうです」
陸が答えないので、孝明が答えた。
「じゃんけんー。ぽん」
先生の掛け声と共に両者、手を前に出す。
先生がチョッキ。陸はグーだ。
「先手はお前のようだな」
陸と先生は自らの消しゴムをその場に置いた。
相手との距離は5センチだ。
陸は先生の消しごむに狙いを定めた。
先生がどの程度の実力があるのかわからないので、なるべく早めに倒してしまう必要がある。
始めの一撃で倒してしまえば、反撃されることはない。
陸は全力で指を弾いた。
巨大消しゴムは狙いやすく、真中に消しゴムは当たった。
巨大消しゴムは大きく吹っ飛ばされるが、机の端から2センチのところで止まった。
どうやら、大型消しゴムは孝明が思っていたより重かったようだ。
「まずいなー」
陸は呟いた。
次は先生の番だった。
素人らしい指使いで弾いた。
先生は真っ直ぐ飛ばしたかったのだろうが、消しゴムは思ったようには動かなかった。
陸の消しゴムに当たったが、かすっただけ。
わずかに吹っ飛ばしたが、先生の巨大消しゴムも勢い余って、机の端まで飛んでいった。
「今よ。陸君。今なら、少し当てれば、先生を倒せるチャンスよ」
「その通りだ。このチャンスを逃すな」
確かにチャンスだが、気をつけないといけない場面でもある。強く弾きすぎてしまっては、相手の消しゴムだけでなく自分の消しゴムも机の下に落ちてしまうのだ。
力の加減が必要だった。その点に気をつけて、自らの消しゴムに指を当てた。
「フィニッシュー」
陸は大声を上げながら、指を弾いた。
消しゴムは見事、巨大消しゴムに当たった。そして、巨大消しゴムは机の下の地面に落ちた。
「おっしゃー」
陸が歓喜の声を挙げた。
あまりの大声なので、クラスの視線が陸の方に向いた。
「やったな。陸」
「すごいよ」
孝明と砂井は陸を誉めた。
「先生がミスしてくれたので、何とか勝てたよ。いやー、相手が攻撃してきた時はやばかった」
陸は先生の方を向き、
「勝ったんだから、砂井の消しゴムは返してくれるんですよね」
「仕方ない。ほれ」
先生は消しゴムを砂井に投げた。砂井は見事にキャッチした。
「だが、陸。消しゴム当てばかりしてるんじゃないぞ」
「はいはい」
陸は先生の話を適当に流した。
「そう言えば、陸君。秘策があるって言ってけど、どんな秘策だったの?」
「それは、消しゴムの裏に鉛を・・」
言いかけて、陸は口を閉じた。しかし、既に遅かった。
「もしや・・」
先生は砂井から消しゴムを奪った。消しゴムの裏を見た。そこには鉛が埋め込まれいた。
「おい、陸」
「はい」
「先生はそのままの消しゴムで勝負しろと言ったよな。誰が裏に鉛を詰めていいと言った」
「でも、あの消しゴムがあまりに巨大だったから・・」
「でももクソもない。この勝負、いかさまにより、お前の負けだ。消しゴムは没収。そして、お前は今日から1ヶ月、消しゴム当て禁止だ」
「そんな~」
しょげる陸。
「約束だったよな。陸」
先生がにらみながら言う。
陸はうなずくしかなかった。
砂井の消しゴムも再び、先生に取られてしまった。