消しゴム少年その5
「と、言うわけなんだ」
陸は職員室のことを話した。
「それって、すごく不利なんじゃないの」
砂井が言った。
「でも、決まったことだし、後には引けない」
「勝てるの?」
「大丈夫だよ。絶対」
陸は強い口調で言った。
しかし、本音としては、勝てる見込みはなかった。
「私のために、そんなに一生懸命ならなくてもいいのに・・・・。もし、負けたら、1ヶ月は消しゴム当てできないのでしょ」
「そうだけど、元は言えば、俺のせいだし、俺が何とかするよ」
陸は孝明の家に来ていた。
大型消しゴムを倒す秘策が思いつかないので、孝明に相談にきたんだ。
「うーん、あの消しゴムとねー」
「なんとか。知恵を出してくれよ。普通にやったら、ほぼ100%負ける」
「わかったよ。しかし、どうしたものか・・」
孝明は腕を組んで考えていた。
「そうだ」
孝明は隣の部屋に行き、帰ってきた。
手には、大きいさいころが握られている。
「これは、あの巨大消しゴムと同じ重さだ。じゃ、まずこれにお前の消しゴムをぶつけてくれ」
大きいさいころを机の上に置いた。
「わかった」
陸は自分の消しゴムを机の上に置き、大きいさいころに狙いを定めた。
「おりゃー」
思いっきり、叫びながら指を弾いた。
大きいさいころは少ししか動かなかった。反対に、陸の消しゴムの方が大きく跳ね返された。
孝明はものさしを持ってきて、机の上に置いた。
そして、弾かれた距離を調べ始めた。
「2cmだな」
「あんなに強く弾いたのに全然だめだな」
「そうだね。学校の机の長さが1メートルだから、相手を倒すには50回は当てなければならないね」
「実戦でそんな連続して当てれるか」
「無理だね。こっちが一方的に攻めれるならともかく、相手と交互にやるのがルールだからね。相手を机の下に落とす前にこっちがやられるね」
陸はため息をつきながら、
「それじゃ、どうやっても勝てないじゃないか。お前なら何とかできると思ったけど、無理なのか」
「普通にやったらね」
意味ありげなせりふを言う孝明。
「何か、秘策があるのか」
「消しゴムに穴を空けて、鉛を埋め込めもう。そうすれば、重たくなり、多少はましになるはずだ」
「でも、山田先生に見つからないか。それって」
心配そうに聞く陸。
「大丈夫だよ。片面だけに穴を開けるのだから、見つからないさ。本番では、穴を開けていない面を上にすればいい」
「わかった。その方法でやってみるさ。相手と同じくらいの重さのけしごむでなら何とか勝てるさ。なんせ、俺は、消しゴム当ての達人だからな」
元気いっぱいに答える陸。
どうやら、いつもの調子が戻ってきたようだ。
「まあ、せいぜい頑張って砂井にいいところをやれよ」
陸は急に顔を赤らめた。
「なぜ、それを!?」
動揺のためか声が大きくなった。
「そりゃー、わかるさ。学校での日頃の態度を見ていればな」
「別に、僕はあいつのことはなんとも思っちゃーいない」
「別に、からかう気なんかないよ。ただ、ここで勝って彼女の好感度とやらをよくしておけよ」
「ああ」
陸は恥ずかしさのあまり、うつむきながら答えた。