消しゴム少年その3
次の日の学校。
朝早く登校してきた連中は、消しゴム当てに夢中になっていた。
陸は朝寝坊のため、まだ学校の来ていない。
「おーし、いいぞ」
すでに、消しゴム当てをやり始めてから数分たっているようで、かなり盛り上がってきた。
そこへ、昨日と同じように砂井が現れた。
「おはよう」
「また、来たのかよ。お前」
いやそうに言う慎治。
砂井はニヤッと笑いながら、
「今度はあなた達に負ける気がしないわ。余裕で勝つわよ。1度も負けずにね」
「えらく自信があるな。お前。その自信、しっかりつぶしてやるぜ」
「と、いうことは入れてくれるのね」
「ああ、いいぜ」
砂井は机の上に自分の消しゴムを取り出した。
その消しゴムは他のよりはるかに大きかった。
陸と別れた後、買いに行った特大消しゴムだ。
あまりの大きさに、砂井以外の人間は驚いた。
「それ、でかすぎないか」
「消しゴムは消しゴムよ!文句はないわよね」
大声で怒鳴った。
「まあ、いいさ。素人のおまえじゃ、俺達に勝てるわけないさ」
慎治は、大きな消しゴムの存在を過小評価していた。
「じゃ、はじめよう」
砂井の消しゴムに慎治は勢いよく消しゴムをぶつけた。
見事に命中したが、砂井の消しゴムは、ほんの少し動いただけだった。それどころか、慎治の消しゴムの方が跳ね返された。
「ええ!」
慎治は驚きの声をあげた。
「おい、なんだよ。この強さは」
「本当だ。こっちが攻撃したのに・・・これじゃ何のための攻撃か分からない」
慎治と孝明は、ようやく巨大消しゴムの力を思い知った。
「じゃ、私の番よ。それ」
砂井は自らの消しゴムをちょっとだけ弾いた。
本当に少しだ。
消しゴムは敵の消しゴムにヒットした。
軽くあっただけなのに、大きくふっとび、机の下に落ちた。
「強すぎるぞ。ハンデがありすぎやしないか」
「最初にこの消しゴムでいいって許可したのはあなた達でしょ。続きをやるわよ」
と、大声で怒鳴った。
「仕方ないか・・」
砂井の大声に圧倒されて、ゲームは続けて行われた。
次の番は孝明だったが、先ほど同じように、命中するものの大きく弾かれた。
「どうやっても勝てないんじゃないか」
落ち込んだ声をあげる孝明を無視して、砂井は続けた。
最後に残った消しゴムをあっさりとやっつけた。
「続けてどんどんやろうー」
砂井は歓喜の声を上げた。
その後も10数回のゲームが行われたが、ことごとく砂井が連勝した。それもあっさりと。
昨日、負け続けていたのがウソのようだった。
やはり、巨大消しゴムに変えた効果は絶大だった。消しゴム当てにとって消しゴムは勝敗を決める要因の一つという事を思い知らされた。
「そろそろやめないか」
いい加減負けつづけるのに飽きた慎治が言った。
「何言ってるのよ。もう一勝負よ」
砂井が威勢のいい声をあげたその時だった。
突如、背後に気配を感じた。
「でかい消しゴムだな。」
後を振り向くと、山田先生が立っていた。しかも、ものすごく怖い顔をしている。
「先生!?」
山田先生は巨大消しゴムを摘み上げた。
「これは誰のだ?」
「あ、私です」
即座に砂井は言った。
「消しゴムは鉛筆で間違って書いたものを消すためのものだ。遊ぶためのものじゃない!」
山田先生は大声で怒鳴った。
そのあまりの大声と恐ろしい顔にその場にいた全員の顔が青ざめた。
「没収だ」
山田先生は巨大消しゴムを持って、職員室に帰ってしまった。