最高の笑顔
久しぶりの投稿です。
世の中には『好きです』や『付き合って下さい』など、異性に言われたい言葉は山程ある。
僕も色々妄想した事もあった。シチュエーションや、言われた言葉に対しての返し。
もちろん告白される前提なので、このシミュレーションが役に立つ事はまずないだろう……と思っていた。
結果だけ先に言おう。僕は告白された。
でも、僕のシュミレーションが役に立つ事は結局無かった。
予想してなかった事に緊張したから?嬉し過ぎて、すぐにokを出したから?
違う。どれも違う。
僕は、今隣にいる彼女にこう言われた──。
『私の彼氏にさせてあげる』
開いた口が閉じなかった。
いや、こう言われたい男子も世の中にはいるとは思う。でも、少なくとも僕は何も言えなかった。
そして、彼女は僕に答えを言わせる事をしなかった。
うん……まぁ、とにかく……。
その日、僕に彼女が出来ました。
「ねぇ、春人!聞いてるの!?」
駅前のベンチに座ってボーッとしていると、目の前に人影が出来た。
「いてっ」
踏まれた。
男の尊厳を?いやまぁ、僕の尊厳なんて元々ないけど。
違う、そうじゃなくて。足を踏まれた。
「優香……何で僕の足を踏んでいるの?」
「なに?文句があるの?」
逆に文句しかないよ。
女の子の体重が軽いからって、踏まれたら痛いよ。しかも、ヒールのカカトで踏むから余計にね。
「春人が私の話を聞かないからでしょ!」
「……ごめんね」
ここで反論したら、確実に口論になる。
そして、口論した結果は僕の負けという未来しか見えない。
「いいわ、許して上げる」
いつもの事。いつもの会話。
もう慣れてしまったこの流れ……踏まれるのは慣れないけど。
「それで優香、今日は何の用なの?」
今日の朝、携帯に電話がかかって来た。
相手は優香。そして一言『今日の1時に駅前集合ね』と。僕が喋る暇すら与えず、電話は一方的に切れてしまった。
こちらの都合を考えない一方的な電話。普通なら怒ると思う。
でも、昨日の事、優香は学校で突然「明日って用事ある?」と聞いて来た。僕は特に用事も無かったので、素直に暇だと答えた。
その答えに満足したのか、優香は何も言わず教室に戻ってしまった。
その時は訳が分からなかったが、今なら分かる。僕と出掛ける為に、土曜日の予定を聞いて来たんだって。
だから僕は、その電話に怒る事もせず着る服を選び駅前へと向かった。
集合時間の40分前に到着するように。
40分、やる事もないのでベンチに座りボーッとしていたら足を踏まれ、現在にいたる。
「買い物に行くわよ」
「買い物?」
つまり、荷物持ちだ。
「そう、買い物。ほら行くわよ」
優香はさっさと歩いて行ってしまった。
僕はその後ろ姿を眺めながら、改めて思った……あぁ、僕には勿体無い人だな、と。
小笠原 優香。
僕と同じ、高校2年生。成績優秀、運動神経も抜群。
プロポーションも良く、身長が172cmある僕とも今履いているそれ程高くないヒールでほぼ同じになる。
髪もロングで、まさにお嬢様って感じだ。
唯一欠点を上げるとしたら、この高慢な態度だろう。
周りから見たら、見下しているように見えると思う。僕も最初はそう思ってた。
でも、違った。ある日、僕は知った……優香は素直になれないだけ。
本当にそれだけだった……。
「春人!早く!」
「うん、今行くよ!」
「優香……重いよ……」
「男でしょ!情けないわよ」
駅前から離れ、ショッピングモールにやって来た。
僕の想像通り、今日デートに誘われたのは荷物持ちのためだったようだ。
女の子の買い物は時間がかかると聞いた事があったけど……想像以上に時間をかけていた。
1番辛かったのは、女物の服屋での買い物の時。
僕の意見が欲しかったらしく、優香が満足する服を選ぶまでずっと試着室の前で待たされた。周りの女性の視線に耐えながら。
「こんなに服を買って……どうするの?」
僕の両手には服が入った袋が全部で5袋。
5日も着れば、同じ服が回ってくる程服に興味が無い僕としては、こんなに服を買う意味が分からなかった。
「ねぇ……優香ってばー」
「──るとの為に決まってるじゃない……」
「今、何て言ったの?」
休日のショッピングモールは人も多く、優香の声が上手く聞き取れなかった。
優香を追い掛け、優香の顔を覗くと顔を赤くしていた。
「なっ、何でもないわよ!」
「ちょ、優香!」
優香は突然走って行ってしまった。
「今……『春人の為に』って……」
そんな事を口にしながら、両手にある優香の服が入った袋を持ちながら、走って行ってしまった優香を追い掛けた。
「はぁ……優香、どこ行ったの……」
優香を探し始めて、30分が過ぎた。
体力は男子一般程度は持ってるつもりだったが、両手には袋。そして、休日で人の多いショッピングモールの中、人を避けながら優香を探すのには、なかなかの体力を使った。
「もう少し探して見つけられなかったら……その時はその時に考えよう」
座っていたベンチから腰を上げ、優香捜索を続行した。
「……はぁ」
周りを見渡しても人、人、人。
かなりの確率で、この中から優香を探し出すのは難しい気がする。
「電話も出てくれないし……」
まぁ、元々優香は僕の電話には出てくれない事が多いけど……。
「どうしたものかなー……って、優香?」
服の入った袋を持つ腕が痺れ始めた頃、ある店から優香が出て来る姿が見えた。
「やっと見つけた……おーい、ゆうかー!」
優香は僕の声に気が付いたのか、こちらを見ると同時に、手に持っていた小さな紙袋を後ろに隠した。
優香が出て来た店を見ると、アクセサリーショップのようだった。
「探したよ、優香」
「わ、悪かったわね」
後ろに隠した紙袋をよっぽど見られたくないのか、優香は僕に背を向けようとしなかった。
「まぁ……いっか。優香、帰ろう」
「う、うん」
僕と優香はショッピングモールを後にした。
「ねぇ、春人」
「なに?」
先を歩いていた優香は、相変わらず服の入った袋を持つ僕の方を振り向き、僕を呼んだ。
「今日って何の日か分かってる?」
「今日?」
今日……文化祭も終わり、2学期の中間も近くなって来た10月。何か特別な行事でもあっただろうか。
「はぁ……やっぱり覚えてない」
「ご、ごめん」
僕が口を開く事をしなかったため、優香は呆れ気味だった。
「今日はね……」
優香は顔を赤くしながら僕を見つめ、言葉を続ける。
「付き合い始めて半年よ」
あぁ、そうだった。今でも鮮明に覚えている。
唐突で衝撃で……僕の記憶に強く残っている。
「えっと……それでね」
優香はずっと持っていた紙袋を僕の方へと押し付けた。
「これ……記念と言うか何というか……プレゼント!」
「……え?」
押し付けられた紙袋を受け取り、中身を見ると、そこには綺麗に装飾されたペンダントがあった。
「春人、いつもなんか寂しいから。たまにはペンダントでもとか思って」
優香から、プレゼントを貰えるとは思ってなかった……。
「あ、ありがとう……あっ!ぼ、僕、何も買ってなくて──」
「ううん、いいの」
優香はいつもの、傲慢な態度ではなくあの日見た優しい目をしていた。
「いつも、私のわがままを聞いてくれて……素直になれなくて、キツく当たっても何も言わずについて来てくれるし」
僕は何も言わず、優香の言葉に耳を傾けた。
「そのね……えっと……何を言いたいかって言うとね」
優香は1度、大きく深呼吸をし顔を赤くしながら口を開く。
「いつも……ありがとう、春人」
そんな優香の顔は、夕日に照らされた最高の笑顔だった。
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