アクシデント
それは三回目の鉱山探検の日であった。
「あなたとの鉱山探索も二回を重ねましたが、やはり徒歩では限界があると思いました。…そこでっ!」
じゃーん! と手を広げた先にあったのは、一体の〈ファルシオン〉。
昨日の宴会の際に、アリシアは例のファルシオン乗りのおじさんの協力を取り付けていたのである。
「ふふーん、お見逸れ参ったか!」
「へへーっ」
これなら遺跡まで一っ飛びかとコウヤは思ったのだった。
「それではおじさんに感謝してーっ、しゅっぱーつ!!」
二人がコクピットへ乗り込んだ後、そのアリシアの言葉を合図におじさんが駆る〈ファルシオン〉は立ち上がって坑道の入り口へと進んでいった。
坑道内に入り進んでいく間、しばし沈黙が落ちる。
「な、なあアリシア」
先に口火を切ったのはコウヤだった。
「レイチェルさんやみんなには伝えるよ。任せなさい!」
「…アリシア」
「ーーじゃあねえ、最後に本当の気持ち言っていいかな? 本当の、私の気持ちっ」
そう言って、アリシアの雰囲気が変わる。
寂しそうな表情、…少しの間の沈黙。
「…や、やっぱり言わない! 言わないもん!!」
場を取り繕うアリシアだが、
「き、今日は下見だよ。そう言うことにしよう、うん」
「そうなの!? …じゃあ、じゃあねえ、今日からいっぱいお話しよ!」
「ああっ!」
そうして時間は過ぎていき、二人は辿り着いた遺跡の前で降ろしてもらった。
「ばいばーい!」
手を振って〈ファルシオン〉を見送るアリシア。
…そして遺跡に通じる穴の前。
「ここか…なんか懐かしいなおい」
そう言いながら二人が入り口を潜って中に入った…その時、
ーー突如としての強い揺れ。
かなり強いその揺れによって地面から大小のマギダイトが生えていき、…そして出口を塞ぐようにして、その直前に巨大なマギダイトの柱が突き出したのだ。
「な、これじゃあ帰れないじゃないか!?」
ーーそしてそれを合図とするかのように、ざわめく気配が無数。
身構えるコウヤとアリシアの前に、現れたのは一体のゴブリンであった。
「相手が一体なら!」
「待ってっ」
…そしてそのゴブリンが耳障りな叫び声を上げると、それを契機に大量のゴブリンが姿を現した。
ーーこの数週間の間で、遺跡はゴブリンの巣になっていたのである。
とにかく逃げるに然り。そうしてコウヤとアリシアは逃げ回っていたが、追いかけてくるゴブリンの数は増すばかり。
途中でアリシアがトラップを踏むなどのアクシデントも重なり、とうとう
遺跡の端まで追い込まれてしまった。
「絶体絶命、だね」
「余裕ぶってる場合かよっての」
そう言いながら、持っていたひのきのぼうとなべのふたを構えるコウヤ。
「…大丈夫だよ。あなたはちゃんと帰れるもん!」
言いながら、アリシアはガーディアンを二十体ばかり召喚。そしてその一体にコウヤを抱えさせた。
「お、おい!」
「…じゃあねっ」
「っ! アリシアっ!」
言い終わって、アリシアの指示によってコウヤを掴むガーディアンは、空高く、ゴブリンの集るその向こう側へと放り投げられた。