その名はヴァリアント
* * *
「こうなりゃやけだ、先手必勝!」
「あっコウヤっ!」
「はっはー相手がスライムならこれしきのことォ! …えっ、待ってちょっと待ってゴメン許してくださいなんでもしますからってあっあっ、わーっ!」
「言わんこっちゃ無い…」
* * *
およそ十分後。
アリシアとボロボロになったコウヤは、レイチェルの作ってくれた弁当を囲んでいた。
「いやーウォータースライムでよかったよ。最近現れ始めたゴブリンだったら手強いんだから」
もぐもぐとサンドイッチを頬張りながらのアリシアの講釈である。
「す、スライムなら楽勝だと思ったのに…」
そう言いながら美味さに感動の為か目から涙がにじみ出て、正座しながらの咀嚼であった。
コウヤはスライムなら楽勝ォ!と突っ込んでいった所を囲まれ袋叩きにされたのだった。ダサダサである。
スライムの攻撃である体の一部を硬質化させて繰り出されるビンタはまともに食らうとかなり痛い。
・・
たまたま通りがかったそれが助けに入っていなければ、今以上にただではすまなかったことは確かである。
「スライムとはいえ油断大敵だよっ! …私の出したガーディアン×10の後ろから出ちゃうからだよ? その後ろに居れば絶対安全なんだからっ」
「反省します…」
「本当に心配したんだから…あっお茶いる? 暖めなおしたんだー」
「もらうもらう」
それはさておき、アリシアの説明によると、マギダイトというのは水、炎、電気…といった各種の大気中の魔力を吸収する作用を持った結晶が凝縮されて出来た物質である…らしい。
この世界では広く一般に取れる資源であり、そこら辺の地面でも、深く掘れば量は少ないが採取することが出来る。
例えば今お茶を暖めなおすのに使われた携帯ストーブ。
これには熱を発生する為に炎のマギダイトが仕込まれており、魔力を放出させる為のスイッチを間に噛ませることで誰でも簡単に熱を扱えるようになるのである。
ちなみにこの携帯ストーブ、結構な高級品だったのだが型落ちとなり、マジックショップの商品棚で埃を被っていたところをアリシアの目に止まり、交渉の末安価に譲られたという経緯があった。
「ずずっ…ところでアリシアー、途中で俺を助けてくれたあのロボットって何ていうんだ?」
閑話休題、茶を啜りながらコウヤは尋ねた。
今回の戦いはコウヤの所為で防戦一方になっていた所を、偶々通りがかったそれ…全高六メートル程の大きな人型のロボットが、残っていたスライムをスコップで一閃。決着が付いたのであった。
乗っていたのはでコウヤのことを尋ねたあの壮年の男性で、アリシアとも顔なじみであった。
「んーたしかあれはファルシオンのⅣ型だったかなー。おじさんには感謝だねっ」
「そうじゃなくてさ、なんかあるだろ。モビルスーツだとかレイバーとか」
「? よく分かんないけど、ヴァリアントのことかなあ」
「ヴァリアント…」
「汎用に作られた、マギダイト製の人型ゴーレム! すごい昔に発明されて、今では普及が進んでこの鉱山でも採掘用に使われているの。
とっても強くてかっこいいんだよ!」
「確かに格好良かったな。ヴァリアントかぁ…」
寝転びながら、コウヤは自分を助けてくれたその姿を思い浮かべた。
「あんな簡単にモンスターを倒せるんだもんなー…あったらここを潜るのも簡単なんだろうなあ」
「そうだねー」
これまでの労を偲んでかぐてーっとなるアリシア。
しばしの間の沈黙。岩場の上に寝そべった二人をひんやりとした坑道の風が冷やしていく。
…それは誰ともなく言いかけて、
「…まあいつも以上にスライムたちが不機嫌だったのは、多分私が寝てた所を起こしちゃったからなんだけどね」
小さな声で言われたその言葉。
そう言われこれまでを思い返すコウヤ。…。……、…あっ。
「…お前かい!」
「むー、サーチアンドデストロイだよっ、見敵必殺なの。先に見つけちゃった物は仕方ないじゃん。つまりえーっと、いつもの癖な訳で…ご、ごめんなさい」
「謝ればよろしい。…はー、鉱山くんだりまできて何やってんだ俺達」
「うーっ…」
二人を再びの冷たい風が通り過ぎていった。
「…帰ろっか」
「…そうだねー」
元々今日の活動はコウヤの肩慣らしということで浅い階層で切り上げという計画であった。グダグダではあるが。
「さあ、それじゃあ気を取り直して、家に帰るまでが部活だよっ。気を抜かずに行こー!」
「おうっ!」
すっかり息の合った二人である。
なべのふたも受け取ることが出来、その後の帰り道での戦闘では二体のスライムを倒すことが出来たコウヤであったという。
* * *
その日の夜、寝台の上のコウヤは今までのことを思い返していた。
遺跡、魔法、モンスター、そしてロボット…
なんでも有りの二日間であった。帰ってきてからもレイチェルと客達に揉むに揉まれ…。倒れるように寝たのがついさっきのことであった。
「…本当に疲れた」
――しかし楽しかったことも事実だった。
「…はっ、いかんいかん。こっちの世界に染まりすぎている…」
そんな考えを振り払うかに様に足をジタバタさせるコウヤ。
「何とかして帰らないと…ぐー」
下からはまだ喧騒が聞こえていた。
この世界二回目の就寝である。