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ここはベルデの街










「…名前はコウヤ・オダギリ。歳はえっと、私と同じくらいと」


「おい」


それはさっきも説明したでしょーが! という非難の視線をぶつけてみるも、この少女…アリシア・コートベルグには伝わらなかったようで、


「?」


不思議そうな顔を少年は返されてしまった。


ぐぬぬと共に溜息である。


何故溜息かというと、アリシアによる責任者への事情説明の過程で、少年――小田桐コウヤは、この少女と同じくらいの幼い子供ということになってしまったのだ。


「…はあ」


――異世界。


ベルデの街のマギダイト鉱山。


さっぱり分からない。


此処が何処かは分かったとして、自分は何故こうなったのか。


「…はぁ」


この日七回目の溜息であった。


「ま、まあ色々大変だったな坊や。…しかし何だ。何も無かった遺跡に子供か」


しかしまあ、このトーマスと名乗ったベルデ・マギダイト鉱山の責任者が熱心に気遣ってくれるのも、自分が幼い子供ということになったからかもしれなかったし、つまりまあ、そんな嫌な事をグルグルと考えてしまうくらいブルーな精神状態だった。


何よりも崩れたかどうかは分からなかったが、あの場所から連れ出してくれた恩人でもある訳だし。

そんな訳で、少女を怒る気にはなれなかったのも確かである。


そうコウヤはトーマスによる話を聞きながらぼんやりと考えていた。


ブルーなのはそれだけではなく、なんでも鉱山の事務所は地震による混乱の影響で手一杯だとかで、その為教会もかねたこの学校の聖堂を使わせてもらっているのだが、


オルガンや本棚の陰から、アリシアの同級生らしい子供らがなにやらこそこそしながらじっと見ている。


じぃーっとみているのだ。さっきから。


自分もこのジャリガキ達の一員になるのかと思うと、コウヤは気が重かった。


「さて一通り説明したが、そろそろ来る頃合だな…あっ」


トーマスが言いかけたその時、立て付けの良い聖堂の扉がギィッと開かれ、


「…おおっ」


それは心からの感嘆か、


「やっこんにちは。コウヤ・オダギリ君でよかったかな?」



…その人はかなりの美人であった。



「さあ、しばらくの間坊やを預かることになった宿屋のレイチェルさんだ。挨拶しなさい」


うらやましいぞ、とボソッと呟くトーマス。


「私があなたを預かることになりました、〈猫の足跡亭〉のレイチェルです。よろしく♪」


「ど、どうもよろしく」


ーー煌めく金髪、眩いばかりのその笑顔。


シャイシャイボーイなコウヤは内心かなりのドギマギであった。


「こちらこそ! …ふふっ、うちのアリシアちゃんが猫の次に人間を拾ってきたって聞いて、お姉さんびっくりしたもの」



ん?


「…えっ、うちのアリシア?」


「私もレイチェルさんの所でお世話になってるの。よろしくね!」


――この付き合いは永くなりそうだ。


コウヤは何故だかそんな予感がした。



     * * *



それは壮大な物語であった。


この世界がアルスフィールという名前であること。そのルクドニア大陸のトリエステ自由国――

剣と魔法の創世記から幾たびの災厄を乗り越えての現代に至るまで。


おおよそこの国の小学生が学ぶ範囲であったが、その説明を聞くに及んで、コウヤは本格的に此処が異世界であると認識する必要があった。


…今は少しでも情報が欲しかった。


気になる美人・レイチェルさんの出現で俄然やる気を取り戻したコウヤはレイチェルとの顔合わせの後時間を作ってもらい、学校の案内を口実に、小学二年生にしては博学なアリシアに様々な話を聞かせてもらっていたのである。のだが…


「そして私達の今いるここがこの学校の部室棟でー、…むー、コウヤの反応つまんないー」


「え、いやまあ、学校って世界が違ってもそんなに変わらないとは思ったけど、なぁ…」


むくれるアリシアにそう説明してみせるコウヤ。


――本当は違うことを考えていたからであるが。


「ふふん?」


しかしある扉の前でアリシアの表情が変わった。…正確にはここへコウヤを連れてきたのである。


「それじゃあ今回の学校見学のメインイベント!――私は山から生まれた大地の子っ、そこでっ!この部活は世界に一つだけオンリーワーン!!」


「…鉱山愛好部?」


ファンファーレが鳴り響かん勢いで扉の前で立ち止まったアリシアが一気にまくし立てると、その表板に書かれた“ベルデ鉱山愛好部”。なぜかそれだけは読めた気がした。


「活動内容は鉱山の探検とその調査! 残念ながら創設三年目の今年も私を除いて部員数はゼロっ

…そこであなたに、この部活史上初めての部員になって欲しいの!」


「いやまあ待て、俺はこの学校の生徒じゃねえし…」


「細かいことはいいから、さあさあ!」


「細かくねえだろ!?」


お構い無しであった。


背中をぐいぐいと押すアリシアによって、コウヤはその部室へと連れ込まれてしまった。

そして後ろ手に扉を閉め、そのまま鍵を掛けるのをコウヤは見逃さなかった。


リュックにヘルメットなど物が雑然と置かれた部屋を見渡し、溜息をつくコウヤ。


「ふっふっふっ、ようこそ我が城へ」


「入らないし入れないぞ」


「いやー一目見たときから部員の素質ありだと思ってたんだよねー」


構わずアリシアは続ける。


「あの日ねえ、遺跡に行けば必ずきっと何かあるって感じたのっ。祭壇の前に行ったら、ぴかっと光ったらあなたが居て、驚いてたら何か変なこと喋りだして…。その後も色々あったよね。お、男の子のアレとか始めて見たし……コウヤ?」



棚に誇らしげに飾られた古いツルハシなどを眺めながら、コウヤは一人考え込んでいた。


――遺跡。遺跡である。


あそこに行けばもしかすると摩訶不思議的な力によって元の世界に帰れるかも知れない、いや帰れる。帰れるとして、再び鉱山の中へと行く為には…


「もしもーし」


「おおぅ! ――待てよ、じゃあ部員になれば鉱山の中にいけるのか!!」


「う、うん。そうだけど…」


そうであるならば、


「前言撤回だ。是非俺を部員にしてくれ!」


「っ、よろこんで!」



(元の世界に…帰る!)



固い、決意であった。





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