君は本当にダメな人間だな
「プリュネ、君は本当にダメな人間だな」
婚約者カラモスからの言葉に、プリュネはシュンと肩を落とす。
「君と婚約して早五年、一体いつになったら僕の求める女性になれるんだ?」
「……すみません」
「謝罪なんて小さな子供でもできるだろう? 大して美しくもなく、知性と教養もまったく足りない。君みたいな女を妻に迎えなければならない僕の気持ちを考えてほしいよ」
カラモスはそう言って深いため息をつく。
今日は二人が定期的に開催しているお茶会の日。プリュネはこのお茶会が大嫌いだった。
婚約者であるカラモスはプリュネより十歳も年上で、名家ではあるが爵位のない平民出身の男性だ。本来ならば、由緒正しき伯爵令嬢であるプリュネの婚約相手にふさわしくない。ではなぜ二人が婚約を結んでいるのか――それは伯爵家の財政難が原因だった。
五年前、伯爵領は立て続けに大きな天災に見舞われた。大きな地震が起こって多くの人々が家を失い、まだ復興が完了していない状況で渇水に悩まされた。被災者たちの支援、農作物の不作による税収の減少、道路の修繕等が重なった上、プリュネの両親は自分たちの贅沢な生活を手放すことができず、完全な債務超過に陥ったのだ。
そんなときに援助を申し出てくれたのが実業家であるカラモスだった。
若くして商才に恵まれたカラモスは、事業で大きな成功を収めていた。彼は己の財産を伯爵領再建のために活用してほしいと申し出てくれたのだ。
プリュネの両親は当然喜んだ。これでなんとか生きていける。
けれど、当然タダというわけにはいかなかった。
当時、カラモスが強く欲していたものがある――貴族としての身分と名誉だ。
かくして、プリュネはカラモスと婚約を結ぶことになった。カラモスに唯一足りないものを補うために。
「あの……努力はしているのです。この間ご指摘いただいた私の髪の毛につきましては、カラモス様のお好みに合うようストレートに変えましたし、教えていただいた本につきましても全て読み終えて……」
「なにを偉そうに。そのぐらい当たり前だろう? 大体、この僕に指摘の手間を煩わせること自体が間違っている。その自覚が君にあるか? ないだろう?」
「それは……その、」
「いいか? 君のために割いているこの時間がどれだけ僕にとって無駄か、よく考えてくれ」
カラモスはまるで汚いものを見るかのような眼差しでプリュネを睨みつける。プリュネはまた「すみません」と返事をした。
「君は、この僕の妻になるんだ。頼むから僕の足手まといにならないでくれ。もっと僕を敬い、僕のためにありとあらゆる努力をしてほしい」
「ですから、その……」
「口答えをするな。誰のおかげで飯が食えてると思っている?」
カラモスはそう言って、プリュネの頭に紅茶をかける。プリュネはショックと驚きのあまり、椅子から転げ落ちてしまった。
「ふん、みっともない。さっさと起き上がってくれないか? そんなふうに倒れられたら、まるで僕が悪いみたいじゃないか。悪いのは出来損ないの君だというのに」
「カラモス様、私は……」
「口答えをするなと言っているだろう!」
髪の毛をグイッと引っ張られ、プリュネは思わず涙を流す。カラモスは最後にもう一度盛大なため息をつくと、プリュネを置いて部屋を出た。
(私は本当にあんな人と結婚をしなければいけないのかしら?)
侍女が持ってきた手ぬぐいで頭を拭きながら、プリュネはシュンと肩を落とす。
五年前、婚約を結んだときのカラモスはこんなふうではなかった。
『はじめまして、プリュネ嬢。急に婚約が決まって困惑しているだろう?』
第一印象は、物腰の柔らかい好青年。幼いプリュネにも丁寧に接してくれたし、気遣う様子も見せてくれた。
『君が嫌なら、この婚約はなかったことにしてもいいんだよ?』
そんなふうに穏やかに微笑まれたら誰だって優しい人だと勘違いをする。プリュネは二つ返事で結婚を決めた。
けれど、婚約以降カラモスは段々本性を露わにしていった。
『君はバカなのか?』
『こんな簡単なこともわからないなんてありえない』
『プリュネはどうしてそんなにダメなんだ?』
カラモスから言われてきた言葉を思い出すと、プリュネの胸は苦しくなる。
(私はダメな人間なんだわ)
何度も何度もそう思った。けれど、そのたびに『違う』と自分に言い聞かせ、カラモスの期待にこたえるための努力を重ねる。
しかし、カラモスがプリュネに満足することは一度もなかった。言われたとおりにやってもダメ、彼の考えを先読みして動いたところで不十分だと一刀両断にされてしまう。カラモスはプリュネのやることなすこと全てが気に食わないのだ。
『カラモス様との婚約を破棄させていただけませんか?』
たった一度だけ、プリュネは両親にそう頼んだことがある。
けれど、そのときの両親は烈火のごとく怒り狂い、プリュネに対して罵声を浴びせかけた。
『おまえは一体なにを考えているんだ!』
『二度とそんなバカなことを言わないで!』
『カラモス様に気に入られないおまえが悪い』
『もっと出来のいい娘だったならよかったのに……』
二人はプリュネがカラモスからどんな扱いを受けているのか知っていた。知っていて、あえて放置をしているのだ。
(昔はあんな人たちじゃなかったのに)
幼い頃の両親はただただ優しかった。優しくてお人好しで、けれど立ち回りが下手くそで。いざ自分たちが困ったときに誰からも手を差し伸べてもらえなかった。二人はカラモスに縋るしかない。彼に見捨てられたら生きていけないと思っている。だから、娘の犠牲など厭わないのだ。
いっそのこと、全てを捨てて逃げ出したいとプリュネは思う。けれど、プリュネは上手に割り切ることができない。
(カラモス様の言うとおり、私って本当にダメな人間ね)
プリュネは静かにため息をついた。
***
お茶会から数日後、プリュネは王都にある学園へ入学した。
(我が国の伝統に感謝しなければいけないわね)
他の新入生と一緒の列に並びながら、プリュネはそんなことを思う。
カラモスはプリュネが外出することを極端に嫌った。貴族の令嬢からお茶会の招待状が来ても絶対に参加を許さなかったし、街に買い物に出かけることも却下された。
学園入学についても『時間と金の無駄』だとか『意味がない』とか散々苦言を呈されたものの、貴族の令嬢として学園を卒業することは一種の義務に近いという事情により、なんとか説得に成功したのだ。
(学園にいる間だけはカラモス様から解放される)
そんなことを思ったプリュネだったが、寮へと到着した途端、己が間違っていたことに気づく。部屋にカラモスからの分厚い手紙が届いていたからだ。
(読みたくない)
一体どんな内容が書かれているのか――封筒を見るだけで胃がキリキリする。おそろしさのあまり、その日はどうしても開封することができなかった。
けれど、いつまでも先送りにすることはできない。返事をしなければさらに事態が悪化することはわかりきっている。
翌日、プリュネは休憩時間に校庭へ行き、カラモスからの手紙を開いた。
「うわぁ……」
思ったとおり。カラモスからの手紙は毒々しい言葉のオンパレードだった。
『君のせいで僕が恥をかくのではないかと心配だ』
『プリュネは僕にとって唯一の汚点だから』
『君はもっと、自分がダメな人間だという自覚を持ってほしい』
『学園に行くだけの価値が君にあるのか……』
「それ、呪いの手紙かなにか?」
とそのとき、背後から知らない声がし、プリュネはビクッと体を震わせる。
声の主は男性だった。無造作に整えられた金の髪に鮮やかな緑色の瞳、中性的な美しい顔立ちをしており、ネクタイの色からプリュネよりも上の学年だと判断できる。少し着崩した制服がオシャレで洗練された印象を受けるが、あまり貴族っぽくはないとプリュネは思った。
「い、いえ、違います」
「でも、似たようなものだろう? よくもこんなに毒ばかり吐けると思わないか?」
男性はまるで毒物でも触るかのような手つきで、プリュネから手紙を奪い取る。それから改めて中身を読み、ゲンナリとした表情を浮かべた。
「呆れた。これ、君の婚約者からの手紙なの? 本当に?」
「……はい」
プリュネはそう言って静かにため息をつく。
本当は婚約者からの手紙を他人に見せるべきではないだろう。けれど、誰かに共感してもらえるのはこれがはじめての経験だ。プリュネは内心嬉しく思った。
「ひどいな……ご両親に打ち明けるべきだよ。こんな男性と結婚をしても、君が不幸になるのはわかりきっているだろう?」
「いえ、両親は彼の本性を知っています。けれど、私よりもお金が大事だからと知らんぷりをしているんです」
「嘘だろう?」
男性は驚きに目を見開き「信じられない」とため息をつく。
(そうよね。これが普通の反応よね)
これまで誰も味方がいなかったので、プリュネは自分の感覚に自信が持てなくなっていた。散々『ダメな人間』だと貶められてきたのだから、なおさらだ。
けれど、こうして無関係な男性から『カラモスや両親がおかしい』と言ってもらえると、なんだかホッとしてしまう。
「ありがとうございます」
プリュネがお礼を言うと、男性は目を細めて笑った。
***
それからというもの、プリュネはカラモスからの手紙が届くたびに校庭へと持っていった。そこにはいつも、あのときと同じ男性がいて、プリュネと一緒に手紙を読んでくれる。
男性の名前はキーファー・サナウヴァル、歴史ある侯爵家の長男だ。
「まったく、毎度感心してしまうな。一体どうやったらこんなにひどい悪口ばかりが書けるんだろう?」
キーファーはカラモスからの手紙を読みながら、呆れたように笑う。それからペンを取り出し、ニヤリと口の端を上げた。
「こういうタイプって、自分が同じことを言われたらビックリするぐらい傷つくらしいよ。たとえば――そうだな、この『君程度の人間が、社会で通用すると思わないでほしい』って文章に『婚約者を傷つけるような人間にそんなことを言われたくありません』って返してみるとか? それよりも『君みたいなダメな人間のことをわかってあげられるのは僕だけだ』ってところに『自分のほうがダメ人間だとわかっていないあなたに、私のことがわかるとは思えません』って書いてみる?」
キーファーの言葉にプリュネはクスリと笑う。
キーファーは気さくで明るく朗らかな男性だった。おまけに才気煥発で思いやりに溢れており、側にいて心地がいい。
人間というのは不思議なもので、誰かが自分のかわりに怒ってくれるだけで、なんだか救われたような気持ちになるものだ。おかげで学園入学前の鬱屈した気持ちはどこへやら、プリュネはなんだか清々しい気持ちで毎日を過ごせていた。
入学から三ヶ月が経ち、もう一つハッキリとわかったことがある。それは、プリュネは決してダメな人間ではないということだ。
授業もテストもクラスで一番だし、教養面で劣っているということもない。もしも実家から出ることなくカラモスと結婚していたら、プリュネは一生劣等感を抱えたまま生きるはめになっていただろう。
「……そうですね。両親さえ許してくれるなら、私だって文句を言ってやりたいんです。けれど以前、彼との婚約を破棄したいって相談したら『バカを言うな』と叱られてしまいました」
事情を打ち明けながらプリュネは微笑む。キーファーはほんのりと目を見開くと、小さく息をついた。
「なるほどね……それは厄介だな」
「でしょう? だけど、やっぱり私はこのまま彼と結婚するのは嫌だなって思いました。だって、今のままじゃカラモス様の言う通り、本当にダメな人間に成り下がってしまう気がするんです」
プリュネはそう言って、すっくと立ち上がる。それからキーファーに向かってニコリと笑いかけた。
「――よかった」
「え?」
「プリュネははじめてあったとき『絶望しかない』って表情をしていたから」
キーファーの言葉にプリュネは恥ずかしそうに顔を背ける。身に覚えがありすぎる――プリュネは己の顔をペタペタと触った。
「本当は他人の手紙を覗き込むなんて失礼な行為だと思ったし、声をかけないほうがいいんじゃないかと迷ったんだ。だけど、あのままじゃ君はどこかに消えてしまいそうな気がして……プリュネの笑顔が見れて俺は嬉しい」
「キーファー様……ありがとうございます」
お礼を言いつつ、プリュネの胸が温かくなる。
もしもあのときキーファーに声をかけられなかったら、プリュネは今でも自分をダメな人間だと思いこんでいたかもしれない。心を殺して幸せになることを諦め、カラモスと結婚するしかないと嘆いていた可能性が高かった。
「上手くいくかはわかりません。だけど私、頑張ってみます」
***
けれど、それから数日後に事件が起こった。
「プリュネ!」
「カラモス、様……?」
教室で授業を受けているプリュネのところに、カラモスがやってきた。クラスメイトたちの視線がプリュネに突き刺さる。プリュネは急いでカラモスの元に向かった。
「どうしてここに? そもそも、今は授業中で……」
「婚約者に至急の用事があるんです。連れて行っても構いませんよね?」
「え? ええ……」
プリュネの疑問に答えないまま、カラモスは教師と勝手に話をつける。それからプリュネの手を引き校庭へと移動した。
カラモスは表面上微笑んでいるように見えるが、目はちっとも笑っていなかった。瞬時に危険を察したプリュネは、己自身を庇うようにして自分の体を抱きしめる。
「カラモス様、一体どうして……」
パン!と乾いた音が校庭に響く。気づけばプリュネはカラモスから頬をぶたれていた。
「どうして? 逆に聞くが、おまえはどうして僕が怒っている理由がわからないんだ?」
カラモスはプリュネの胸ぐらをつかみ、冷たい瞳でジロリと見下ろす。
「わかりませんよ。カラモス様はいつだって私に対して理不尽に怒っていらっしゃるじゃありませんか」
「理不尽? 僕が?」
カラモスがアハハ!と声を上げて笑った。
「違うね。僕をこんなふうにさせたのは君だろう? 全部全部プリュネが悪いんだ。君が無能で無価値でとことんダメな人間だから、僕が苦労をしているんじゃないか! おまけに、僕という素晴らしい婚約者がいながら、他の男にうつつを抜かしていることまで判明したんだ。許せるはずがない。怒るのは当たり前だろう?」
「うつつって……」
(もしかして、キーファー様と会っていたことを言っているの?)
カラモスは密かにプリュネの学園生活を監視していたのだろう。プリュネは腹立たしさに唇を引き結んだ。
「プリュネ、本当に君は救いようのないほどダメな人間だ。これ以上君をこの学園に置いておくことはできない。わかったらさっさと僕と――」
「お断りします」
プリュネはそう言ってカラモスの胸を強く押す。それからまっすぐにカラモスを見つめた。
「『僕という素晴らしい婚約者』ですって? 冗談を言うのはやめてください。大体、救いようのないダメ人間は私じゃない。カラモス様のほうでしょう?」
「は?」
カラモスの表情が醜く歪む。けれどプリュネは一歩も引かず、カラモスをさらに睨めつけた。
「口を開けばいつも否定的な言葉ばかり。カラモス様は以前『僕の気持ちも考えてほしい』なんておっしゃってましたけど、その言葉、そっくりそのままお返しします。私はあなたの道具じゃないし、血の通った人間です。嫌なことを言われれば普通に傷つきますし、腹も立ちます。あなたみたいな人間の婚約者にさせられた私の気持ちがわかりますか? わかりませんよね?」
「なっ……! おまえ、一体なにを……」
「なに、ですって? カラモス様が散々私に浴びせかけてきた言葉ばかりですよ? まさか、ご自分の発言も忘れてしまったんですか? 私に対して『バカ』だと何度もおっしゃったくせに?」
カラモスがグッと言葉を飲み込む。すぐには言い返す言葉が見つからないらしく、目が左右に泳いでいた。
「両親がなんと言おうと、私はあなたとの婚約を継続する気はないんです」
「そ、それは勝手だし無責任だろう? おまえとの婚約は僕からの資金援助の条件で……」
「『私と結婚させられる僕の身になってほしい』んじゃなかったんですか? あなたが『無価値』だと嘲る女から得られる身分がそんなに大事なんですか? そんなに嫌なら手放せばいいでしょう?」
プリュネの反論にカラモスが頬を真っ赤に染める。
「ふざけるな! 誰のおかげで今の生活が送れていると思う? 食事ができるのは? 綺麗な服が着れるのは? 学園に通えているのは? 全部僕がいるからだろう! 大体、僕との婚約を破棄するなら、君は全てを失うことになるんだぞ? 僕はなにも悪くないのだから――」
「悪いのはあなたですよ」
と、プリュネの背後から誰かが言う。
「キーファー様!」
「キーファー……ああ、あなたが。人の婚約者に手を出すなんて、侯爵家の人間というのは随分お行儀の悪いことをするんですね?」
カラモスはそう言って、キーファーに対して意地の悪い笑みを浮かべる。キーファーは真剣な表情でカラモスを見つめると、小さくため息をついた。
「婚約者がいるにもかかわらず、何人も恋人のいる人間に言われたくありませんね」
「え?」
キーファーの言葉にプリュネが大きく目を見開く。カラモスはギクッと体を強張らせると、急いで二人から顔を背けた。
「僕は別に……」
「悪くない、でしたっけ? 不貞行為を働いておいてよくそんなことが言えますね」
カラモスはしばらくの間黙っていたが、やがてハハハと笑い声を上げた。
「プリュネ、結婚前の火遊びぐらい、水に流してやってもいいぞ」
「……」
プリュネはカラモスを見つめつつ、眉間にグッとシワを寄せる。
「おまえだって、将来は贅沢な暮らしがしたいだろう? 今ここで僕を手放したら、プリュネは絶対に後悔するよ。悪いことは言わないから、僕と……」
「不正に手に入れたお金に価値があるなんて、俺には思えませんけど」
と、キーファーが口を挟む。カラモスは大きく目を見開いた。
「不正? 不正だなんて、そんな……」
「他人から騙し取ったお金を元手に事業を広げ、架空の経費を計上し、脱税を繰り返しているのに? 違法な高利貸しをし、薬物などの密売に関わり、実は投資に失敗してものすごい借金を抱えている上、国から目をつけられている状況で、将来裕福な暮らしができると思える人間がこの世にどのぐらいいるでしょう?」
カラモスの全身から勢いよく血の気が引く。プリュネはというと、はじめて知る事実に驚くばかりだ。
「よく考えてください。あなたの言うダメな人間は誰なのか、明白だと思いませんか?」
「〜〜〜〜!」
カラモスはなにも言い返すことができないまま、急いでその場から逃げ出すのだった。
***
あれから三年の月日が経った。
カラモスは学園での大立ち回りの数カ月後、役人に身柄を拘束された。プリュネが知らなかっただけで、彼は本当にたくさんの悪事に手を染めていたのだが、匿名の情報提供によって検挙に必要な証拠が揃ったらしい。全財産を没収された上、あっさりと処刑を執行された。
プリュネの両親はカラモスの資金源についてなにも知らなかったらしい。けれど、カラモスから資金援助を受けていたことや領地における事業提携などの実態を加味され、まったくお咎めなしというわけにはいかなかった。今では領地を没収され、名ばかりの貴族として侘しい生活を送っている。
【お願いだから私たちを助けて!】
そんな内容の書かれた手紙を読みながら、プリュネは静かにため息をつく。
(よく言うわ。私が苦しんでいたときに助けてくれなかったくせに)
カラモスと一緒になってプリュネを貶めていた人たちが慈悲を求めてくるなんて、本当に滑稽なことだ。
「どんなことが書かれているの?」
と向かいの席に座っている夫――キーファーが尋ねてきた。プリュネはクスリと笑いつつ、両親からの手紙を見せる。キーファーは黙ってそれを読みながら、どこか呆れたような表情を浮かべた。
「キーファー、両親に手を差し伸べない私ってダメな人間なのかしら?」
プリュネがキーファーに尋ねる。
「まさか。君は素晴らしい女性だよ」
キーファーの返事に、プリュネは満面の笑みを浮かべるのだった。




