2話 入学式
朝食を食べ終わり、必要なものの確認を終えて。
私達3人は、住んでいたこの家を離れ、学園内の寮に入る。
能力者という貴重な存在を死なせない為の対策だ。
ソラがドアノブを何回か押し、
「…よし。鍵も閉まってるわね」
「なら行くか!」
「うん!」
鍵を家のドアノブに引っ掛けて、私達は坂道になっているレンガ造りの舗装された道を歩く。
まだ朝早く、あまり人は街にいない。
それでも、昼間となれば賑やかなのがこの街、リストロムだ。
「ミム。今一度確認するけど、指輪とサングラスは大丈夫?」
ソラから言われた言葉を心に留め、私は顔と左手に触れる。
まあ案の定、指輪とサングラスに触れる。
「うん。全部大丈夫」
答えると、ソラは「ふうっ」と息を吐いて、
「平穏な生活が送れるといいわね…」
そう言った。
私は顔に浮かんでいた笑顔を消して、
「そうだね。3人だけってのも、辞めないと」
「だな。俺らも、もう少し人と関われって言われてきたし」
カイトの言葉には、苦笑いを浮かべる。
実際3人だけであの家で、なるべく人と関わらず生きてきたのは事実なので、心に刺さる。
ソラとカイト以外で、友人ができればいいけど…。
☆
「お、あれが…!」
「公立能力者育成学園!へぇ〜!思ってたよりずっと大きいわね!」
「早く受付してしまおうぜ!中も見てみたいな!」
カイトの弾んだ声に賛成し、私達は急ぎ足で学園の玄関口に向かった。
受付では、短いローブを纏った女性が生徒達をうまく誘導している。
まだ時間は早かったので、すぐに私達の番が来た。
「おはようございます。ようこそ学園へ。身分証明書はありますか?」
「はい。これを」
ソラがバッグから取り出した、3枚の紙。
女性はそれをじっと見た後、
「ふむ…。はい、大丈夫ですね!ミムさん、ソラさん、カイトさん、改めてご入学おめでとうございます」
その言葉に、心の中で大きなため息をついた。
今渡した紙は、村長のサイン入りの入学証明書。まだ冒険者登録をしていないので、実質身分証明と言ったらこれしかない。ちゃんと通ってよかったあ…!
安心していると、女性は席から立ち、廊下の方を指差す。
その方角には、看板のようなものがある。
「あの看板が、入学式が行われる講堂への案内をしてくれます。辿って行ってくださいね。何かあれば看板に触れば、道を示してくれます」
「へぇ、便利…。じゃミム、カイト、行くよ」
「ああ!」
私も返事をして、中に入る。
中は、埃一つない綺麗な空間だった。魔法の気配や、能力の気配もする。楽しみになってきた…!
数分後、私達は講堂に着いた。
どうやら自由席のようで、私達は3人で横並びに座った。端っこの場所で、左から私、カイト、ソラだ。
「ふ〜」と息を吐き、ぼうっと、誰もいない壇場を眺める。
数十分ほどして、後ろの方が騒がしくなってきた、と共に、肩を叩かれる。
「?」
後ろを振り向くと、あわあわした表情の女性と、強気そうな別の女性。
私が見たのに気付くと、強気そうな方は、後ろの方にいるあわあわしている方を指差し、
「貴方達!ここはリストロム辺境伯次女たるリリス様の席よ!別の場所に移動しなさい!」
私は「はあっ」と息をはき、
「ここは自由席なんですよ?早い者勝ちなんです。それとも、譲らなければいけない理由があると?」
強気そうな方に聞くと、彼女は声を張り上げ、
「そんなの、リリス様が『座りたかった』というのが理由でしょうがっ!」
えぇ…?まあ別に空いてる席なんて幾らでもあるし譲ってもいいんだけど…。
その"リリス"って人が後ろでずっとあわあわしてるのは…?自分から行く気なかったのに言われちゃったから慌ててる的な感じだよね…?
黙り込んでいると、ふと慌てていたリリスさんが、強気そうな方の腕を掴み、
「も、もういいですから!席なんてまだ空いてますし、取られたくらいで…!」
「ですがリリス様!平民には強気に行かないと舐められますよ!」
「私は別にそれでも…!」
慌てながら、リリスさんはこちらを見てくる。
薄紫色の前髪がかかる、金色の両目と目が合う。
彼女の顔がわかりやすく引き攣った。
今度はふるふると怯えるように、より強く腕を引っ張り始めた。
「リ、リリス様…?」
強気そうだった女性が、弱めな声で聞くと、リリスさんは緊迫した表情で、
「いいから!席なんて別にどうでもいいんです!」
リリスさんは引き攣った顔のまま、私達3人の方を見て、
「大変申し訳ありませんでした!入学式前にこんな騒動を起こしてしまって…!では!」
魔物から逃げるかのように、ダッシュで去って行った背中を、私達はぽかんとしながら眺めていた。
やがて、ソラが小さな声で、
「リリスって人…私らの能力を見たのかもね」
「…ああ、可能性は高いな」
能力を見る。即ち、鑑定する能力。
厄介だな…見られたくないものを見られてしまった。
後で対処するとしよう。




