セレスティーヌ、初めての夜遊び
王都の喧騒から離れた裏路地。重厚な扉の奥には、王太子の側近ロレンツが支配する闇カジノが広がっている。
アルベルトから合言葉と開催日程、そして裏帳簿の保管場所に至るまで完璧な報告を受けたセレスティーヌは、アジトに留まるはずがなかった。
「……ボス、本当に来るんですか?」
「当たり前でしょう。私の『作品』が仕上がる瞬間を、特等席で見届けないわけにはいかないわ」
漆黒のローブをまとい、フードを深く被ったセレスティーヌは、アルベルト、リノ、ゼノの三人を従え、隠し通路から潜入を試みる。
だが、オーナー室へ繋がる廊下の角を曲がった先、そこには既に先客がいた。
「——そこから動くな。不法賭博の現行犯で……ん?」
聞き覚えのある、凛とした声。
煌めく照明に照らされているのは、剣を引き抜こうとして固まっている兄・アルフォンス。そしてその隣で壁に背を預け、退屈そうにしている剣聖の姿だった。
「……セレス、ティーヌ?」
アルフォンスが、ひっくり返ったような声を出す。
セレスティーヌは隠れるのを諦めてフードを払い、優雅にカーテシーを決めた。
「あらお兄様。こんな夜更けに、奇遇ですわね」
「奇遇なわけがあるか!! なぜお前がこんな場所に……その格好はなんだ! そもそも謹慎中だろう!?」
妹の「アグレッシブすぎる夜遊び」を察したアルフォンスは、もはや悲鳴に近い勢いで詰め寄る。
「なにかあれば俺を頼れと言っただろう! 帳簿がどうとか、不穏な動きをしているとは聞いたが……まさか直接乗り込んでくるなんて! 帰るぞ、今すぐ帰るんだ!」
「お兄様、お静かに。不夜城の灯を消しに来ただけですわ」
平然と言い放つセレスティーヌを、アルフォンスの隣にいた剣聖が、射抜くような、けれど熱を帯びた瞳で見つめていた。
(……ほう。あの『お淑やか』で有名だった令嬢が、漆黒を纏って闇カジノを襲撃か。これほどまでに行動力がある令嬢だったとはな)
剣聖は、驚きを通り越して深い興味を抱いたように、低く笑った。
アルフォンスがいよいよ本格的な説教を始めようと息を吸い込んだ瞬間、セレスティーヌは背後の三人に鋭い視線を送った。
「アルベルト、リノ、ゼノ。……作戦変更よ。この場は一度引きなさい」
「えっ、あ、はい、ボス!」
三人はその場の殺気に気圧されながらも、ボスの「命令」を汲み取る。セレスティーヌは兄と剣聖を真っ直ぐに見据え、不敵に言い放った。
「ちょっと出遅れちゃったのが悪かったのね。ここは『公式な正義』に譲ってあげるわ。……お兄様、お話はまた後ほど。ほら、私を連れて一度アジトへ戻りなさい!」
「待て! 行かせるか! セレスティーヌ——!!」
アルフォンスの絶叫を背に、魔法使いゼノの補助とリノの煙幕が炸裂する。
次回、1/28投稿になります。
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