将を射んと欲すればまず馬を射よ
公爵邸を後にしたセレスティーヌは、御仕着せの馬車ではなく、目立たない貸馬車で時計塔のアジトへと向かった。
扉を開けると、そこでは先日買い与えた漆黒のローブに身を包んだ四人が各々作業をしていたが、セレスティーヌの姿を見るや否や駆け寄る。
仕立ての良い生地が微かな光を吸い込み、以前の落ちぶれた便利屋の面影はどこにもない。
「あら、少しは『ナイトメア』らしくなったかしらね」
セレスティーヌは、アルベルトが差し出した椅子に悠然と腰を下ろした。
そうして彼女が卓上に放り出したのは、第二王子エドワードの側近たちの名簿、その裏側にびっしりと書き込まれた、公爵家独自の情報網が捉えた「醜聞」の数々だ。
「いい、アルベルト。本丸を叩く前に、まずは周囲の『羽』を一枚ずつ、丁寧に、残酷に毟り取ってちょうだい。……手始めに、侯爵家の三男、ロレンツからいきましょうか」
セレスティーヌは扇子の先で、名簿の一箇所を鋭く突いた。
「彼は王都の地下で、大規模な違法闇カジノを経営しているわ。そこで吸い上げた民衆のお金を、王太子とその母である王妃に献上金として流している。王家が彼の摘発を黙認しているのは、その汚れた金が目当てよ」
「……王太子の遊興費は、破滅した家庭の涙でできている、というわけですか」
アルベルトの瞳が鋭く光る。
「その通りよ。リノ、あなたはカジノの警備体制と、裏帳簿の保管場所を特定しなさい。カイン、あなたはカジノの換気口から流し込むための『不快感はないが、記憶が曖昧になる薬』を用意してちょうだい。客たちには、何が起きたか気づかせないまま追い出すわ」
「任せてください、ボス。ちょうど新しい蒸留器を手に入れたばかりだし。」
カインが幸せそうな笑みを浮かべる。
「いい? 目的は摘発そのものじゃないわ。ロレンツが『王家への送金記録』を必死に隠蔽しようとする、その醜い瞬間を物理的に押さえること。王太子が聖女に貢いでいるその宝石が、民衆を破滅させて得た金で買われたものだと知られたら……。想像するだけで、三ヶ月の謹慎も退屈しなさそうだわ」
セレスティーヌは扇子を広げ、口元を隠して優雅に、けれど凍てつくような声で告げた。
「あのバカ王子の周りから、一人、また一人と人が消え、最後には誰もいなくなる。……何も持たない裸の王様になった彼に、聖女様がどんな顔を見せるか、今から楽しみね」
「御意に、ボス。今夜中に、不夜城の鍵を壊してきますよ」
アルベルトが不敵に笑い、四人の影がアジトから夜の街へと溶けていった。
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