新生•ナイトメア
「……まずはその服をなんとかなさい!」
アジトの埃っぽさを一掃するようなセレスティーヌの鋭い声が響いた。
彼女は扇子の先で、アルベルトたちが纏っているボロ切れを忌々しげに指す。
「いい、情報収集っていうのは『気配を消す』だけが能じゃないのよ。相手を気圧し、あるいは魅了して口を割らせる……見た目が悪ければ、まともな情報なんて入ってきやしないわ! そんな浮浪者のような格好で、私の組織を名乗るなんて許さないんだから!」
「い、今から買い出しに……?」
「当たり前よ。全員ついてきなさい。私の審美眼で、あなたたちを『見られる存在』にしてあげるわ」
困惑する四人を引き連れ、セレスティーヌが向かったのは王都でも指折りの高級仕立て屋だった。
公爵令嬢の突然の来訪に震え上がる店主に、彼女は一切の容赦なく命じる。
「この男たちに、最高級の漆黒の生地でローブを仕立てなさい。隠密性と機能性、そして何より——私を満足させる『威圧感と色気』を両立させること。予算に糸目はつけないわ」
「ボス、あの……この生地、金貨が何枚飛ぶんですか……?」
震えるアルベルトを無視し、セレスティーヌは次々と指示を飛ばしていく。
「カイン、あなたには耐火・耐酸加工を施した白銀のグローブを。素手で新しい薬を調合するなんて言語道断よ。ゼノ、杖を質に入れるなんて二度と考えないことね。魔力伝導率が最高の魔晶石をあしらった特注品を用意させるわ。リノ、あなたはもっと動きやすく、かつ闇に溶けるシルクを使いなさい」
その足で、彼女は魔法具店や化学兵器の専門店、さらには闇市場の武具屋までをも蹂躙した。
「これ、最新の蒸留器……!」「この短剣、触れるだけで凍りつく……!」と、カインやリノたちが子供のように目を輝かせるのを、セレスティーヌは冷徹に、かつ満足げに眺めていた。
買い物を終え、時計塔のアジトに戻る頃には、四人の手には抱えきれないほどの最高級品が握られていた。
セレスティーヌは侍従に一瞬で清掃させると、その上に、重低音を響かせて『袋』を置いた。
ずっしりと中身が詰まった、革の袋。隙間から零れ落ちたのは、鈍く輝く本物の金貨だ。
「……これ、全部使っていいんですか?」
アルベルトが喉を鳴らす。
「必要なもの、足りないものはここから買いなさい。実験道具でも、毒の材料でも、情報屋への袖の下でもね。いい? 私が欲しいのは『結果』だけよ。お金が足りなくなったらすぐに連絡しなさい。私の許可なく、安い仕事で小銭を稼ぐような真似は、二度と許さないわ」
彼女は窓辺に立ち、夜の街を見下ろした。
「……さあ、最高の舞台を整えてあげる。ナイトメア・ギルド——まずはこの王都の夜を、あなたたちの色で塗り替えなさい」
跪く四人の背中には、もはや悲壮感はなかった。
ただ、美しきボスの背中に、心酔しきった熱い視線が注がれていた。
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