婚約破棄!!喜んで!!!
次回は1/14午前6時頃に投稿の予定です!
そして卒業パーティー当日。
王立アカデミーの卒業パーティー会場。その重厚な扉が開かれた瞬間、喧騒は文字通り「消失」した。
現れたのは、これまでの「地味で控えめな令嬢」とは似ても似つかぬ、苛烈なまでの美貌を誇るセレスティーヌだった。
エスコートの騎士も連れず、ただ一人。夜の闇を凝固させたような漆黒の生地に、鮮血を思わせる深紅の刺繍が踊るドレスを纏い、彼女は堂々とレッドカーペットを闊歩する。
その視線の鋭さに、居並ぶ貴族たちは気圧され道を開けた。
「……セレスティーヌ・ド・ロシュフォール! 貴様、その破廉恥な格好は何だ!」
会場の中央、聖女をかばうように立つエドワード王太子が、顔を真っ赤にして怒鳴り声を上げた。その隣では、聖女がこれ見よがしに震えている。
「貴様が聖女に対して行った陰湿な嫌がらせの数々、証拠は挙がっている。本日をもって、貴様との婚約を破棄し、国外追放を言い渡す!」
急な婚約破棄に会場がざわめきに包まれる。
「そんな、セレスティーヌ様が……」
「あんなに大人しかったのに」
「でも突然あんな格好をするあたり、本当なのかも…」
心ない囁きが刺さる中、最前列にいたロシュフォール公爵夫妻が、怒りに震えて一歩前に出ようとした。愛娘にかけられた謂れのない泥。父の拳は白くなるほど握りしめられている。
だが、セレスティーヌは、扇子を優雅に広げて口元を隠すと、両親にだけ見える角度で「しっ」と悪戯っぽく、それでいて絶対的な自信に満ちたウィンクを送った。
(お父様、お母様。手出しは無用よ。この茶番、私が一番いい形で終わらせてあげるから)
両親が毒気を抜かれたように立ち止まるのを確認し、彼女は王太子へと向き直る。その瞳には、一滴の涙も、謝罪の念もなかった。
「……身に覚えのない罪状ばかりですこと。殿下、その『証拠』とやらは、後でゴミ箱に捨てておいてくださいませ。時間の無駄ですから」
「なっ……! 罪を認めぬというのか!」
「認めませんわ。ですが——」
セレスティーヌは、ふわりとカーテシーをした。それは王太子への敬意ではなく、舞台の幕を下ろす役者のような、優雅で冷徹な礼だった。
「婚約破棄、喜んでお受けいたします。これほど趣味の悪い殿方と一生を共にする苦行から解放していただけるなんて、最高の卒業祝いですわね」
会場全体が、凍りついたような静寂に包まれる。
セレスティーヌは、呆然とする王太子や、勝ち誇った顔が引き攣っている聖女には目もくれず、踵を返した。
「セレスティーヌ、待て! 衛兵、彼女を——」
「無礼ですよ、殿下。私はもうあなたの婚約者ではない。ただの公爵令嬢です。名前で呼ばないでくださいませ。」
背中で放たれたその一言には、圧倒的な威圧感がこもっていた。追おうとした衛兵たちが、その気迫に気圧されて動けなくなる。
コツ、コツ、とヒールの音だけが、静まり返ったホールに響く。
セレスティーヌは一度も振り返ることなく、まるで凱旋する女王のような堂々たる足取りで、光り輝くパーティー会場を後にした。
夜風が頬をなでる。彼女の口角が、愉悦に吊り上がった。
「さて。これで名実ともにフリーの『悪役』ね。……待ってなさい、『ナイトメア・ギルド』。私があなたたちを、世界で一番贅沢な悪党に仕立て上げてあげるわ」




