セレスティーヌと掃除
工場内部。魔導灯の淡い光が、潜入したセレスティーヌの艶やかな銀髪を妖しく照らし出していた。
「……ボス、見てください。これが彼らが『最新鋭の浄化魔導炉』と称して予算を注ぎ込んでいた装置の正体です」
カインが装置の基部を指すと、そこには塵が積もり、魔力供給のラインすら繋がっていない「ただの鉄の塊」が鎮座していた。
「ひどいものね。これを動かしているふりをして、お父様や王弟殿下に『浄化は技術的に限界だ』と泣きついていたわけ?」
セレスティーヌは扇をパチンと閉じ、冷徹な視線を工場の奥へと向けた。
「ゼノ、例の『打ち出の小槌』はどこかしら?」
「こちらです、ボス。伯爵の隠し執務室も特定いたしました。既に私の眠り魔法で中の衛兵たちは心地よい夢の中です。……ボスの歩みを止める者など、一人もおりません」
ゼノの案内に従い、セレスティーヌは伯爵の私室へ足を踏み入れた。金庫の中から横領の全容が記された「真実の帳簿」を取り出す。セレスティーヌはそれを指先でなぞり、冷たく微笑んだ。
「汚職の動かぬ証拠、確保しました。これは私が預かっておきます。殿下たちの首を撥ねる『最高のタイミング』で使うためにね。……さて、仕上げの時間よ」
セレスティーヌが合図を送ると、ゼノが工場全体を覆う巨大な隠蔽と防音の結界を展開した。リノが手際よく仕掛けた爆薬に、カイン特製の浄化薬を連動させる。
「撤収よ。ゼノ、転移の準備を」
「御意、ボス」
ゼノが指を鳴らした瞬間、セレスティーヌたちの姿はかき消えるように消え、次の瞬間には時計塔のアジトへと戻っていた。
ドォォォォォォォン!!
結界の内側で、紫の炎が工場を飲み込んだ。外には音も衝撃も漏れないはずだが、魔力の揺らぎを察知した近衛騎士団が数分もしないうちに現場へ駆けつける。
「火事か?……いや、これは……」
現場に到着したアルフォンスは、沈痛な面持ちで崩壊した工場を見上げた。
工場は跡形もなく破壊されているが不思議なことに周囲への延焼もなければ負傷者一人出ていない。そして、どす黒かった川面は不気味なほどに透き通った清流へと変わっていた。
アルフォンスは、落ちていた紫色の燃えカスを手に取り、静かに目を伏せた。
「……相変わらず、無茶を。法が動かないなら自分が動くというわけか」
確かな証拠は何一つない。だが、これほどまでに合理的で徹底した「私刑」を行える人間を彼は一人しか知らない。
「ハハハ、見ろよこの手際。騎士団が数年かけても解決できなかった汚染を一晩で全快だ。アルフォンス、お前の妹君は……なんていうか、敵に回したくないタイプだな」
剣聖が苦笑しながら、美しくなった川を眺める。アルフォンスは騎士としての規律と身内の危うい独走に対する懸念を抱えながら短く答えた。
「……ええ。ですが、これでようやく父上も動ける。彼女が残したこの『結果』を、無駄にはしません」
アジトの水晶を覗き込み、騎士団が事後処理に追われる様子を冷ややかに眺め、セレスティーヌは自分の美しい髪を指先で整えた。
「ふふ、お兄様。今夜は少し、空気が美味しいと思いませんか?」
手元には、王家の未来を左右する一冊の帳簿。セレスティーヌはそれを暗がりに隠し、次の「お掃除」へと思いを馳せるのだった。
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