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死亡フラグ回避に飽きたので、悪役令嬢らしく悪の組織をプロデュースすることにしました  作者: 高橋 淳


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10/15

泥舟の上で踊る2人

「嘘だ……ロレンツが逮捕されただと!? 証拠なんて、どこにもなかったはずだろう!」


王太子の執務室。エドワードは顔を真っ青にし、ガタガタと震えながら報告書を床に叩きつけた。

右腕であり金の管理を任せていたロレンツが、騎士団、それも軍の実権を握るあのお堅い「剣聖」アルフォンスによって捕らえられた。


「エドワード様、落ち着いてください。お顔色が優れませんわ」


傍らで優雅に茶を啜る聖女エルシャは、震える王太子の肩にそっと手を置いた。その瞳には慈愛が満ちている……ように見えるが、その奥底は驚くほど冷めている。

(チッ、あの無能……。よりによって剣聖に見つかるなんて。まあいいわ、あんなカジノの金、もう十分に吸い上げたし。これ以上関わったら私のイメージが汚れる)


「エルシャ……。どうすればいい、あの金は君への寄付にも使っていたんだ。もしバレたら……」

「そうですね、エドワード様? 私は『清廉潔白な聖女』として、ロレンツ様の悪事など何も知りませんでした。寄付金も、清い祈りへの対価だと信じて疑わなかった……。そういうことにいたしましょう?」


王太子の執務室。聖女エルシャはエドワードの胸に顔を埋め、震える声で囁いた。ロレンツという「集金装置」を失った今、彼女が真っ先にしたのは、汚れた金との絶縁宣言だった。

エドワードもまた、彼女の細い肩を抱き寄せ、力強く頷いた。


「ああ、もちろんだとも。君のような清らかな女性が、そんな卑劣な仕組みを知るはずがない。僕も被害者だ……。側近が勝手に僕たちの名前を利用していた。そう公表すれば、君の聖女としての名声も、僕の地位も揺るがない」


二人は固く抱き合った。エドワードは彼女の「聖女」という輝かしい看板と可愛らしい容姿を愛し、エルシャはエドワードの約束する「次期王妃」の座と湯水のように使える公金を愛している。この危うい共依存こそが、彼らにとっての「真実の愛」だった。

(さて、金の出所が一つ潰れたなら、別の場所から吸い上げればいいだけ。前世の知識を使えば、これくらいの危機、どうとでもなるわ)

エルシャは、おぼつかない足取りのエドワードを椅子に座らせると、慈悲深い女神のような微笑みで囁いた。


「エドワード様。失った資金を補い、あなたの威光を再び知らしめる名案がありますわ」


エルシャは、うっとりと夢を見るような瞳でエドワードを見上げた。


「神託が、北の『蒼天山』に眠る伝説の魔宝石を指し示したのです。あそこは誰も見向きもしない岩山ですが、深奥には国一つを買い取れるほどの富が眠っています。これを見つけ出せば、ロレンツ様の穴埋めどころか、私たちだけの豪華な離宮だって建てられますわ」

「蒼天山……? あそこはなにもない山だと記憶しているが。だが君がそう言うのなら間違いない! すぐに調査してみよう!」


それから数日後。開発の先遣隊から届けられた小さな革袋を、エドワードは狂喜乱舞して受け取った。


「おお……! 見ろ、エルシャ! 本当に出たぞ! 本物の原石だ!」


袋の中から転がり出たのは、親指ほどの大きさだが、確かに美しく輝く蒼い魔宝石の欠片だった。それを見たエドワードは、震える手で石を掲げ、子供のように笑った。


「素晴らしい……! 歴史上、誰も見向きもしなかった死の山から、これほどの宝が! 君はやはり、僕に勝利をもたらす女神だ! よし、直ちに国庫から大規模な予算を追加承認する。他の公共事業を削ってでも、蒼天山に全戦力を注ぎ込むんだ!」

「ふふ、嬉しい。エドワード様、これはまだ始まりに過ぎませんわ」


二人は宝石の輝きに照らされ、勝利を確信して熱い抱擁を交わした。

一方、その報告をアジトで受け取ったセレスティーヌは、くくっと喉を鳴らして冷笑した。


「……ふふ、あはは! 本当に、あの数粒の欠片だけで舞い上がっているのね」

「ボス? 表層からは確かに石が出たようですけど、何か問題でも?」


アルベルトが不思議そうに尋ねると、セレスティーヌは手に持った扇で地図の一点を叩いた。


「ええ、出るわよ。表層には、かつての噴火で弾け飛んだ『欠片』がわずかに散らばっているだけ。でもね、その奥を掘ろうとすれば、待っているのは『掘削不可能なほど硬い岩盤』と、地下水脈から漏れ出す『致死量の毒ガス』よ」


セレスティーヌの脳内には、かつて公爵家が秘密裏に行い、あまりの採算の悪さから封印した地質調査データが完璧に記憶されていた。

「あそこは太古の地殻変動で閉じ込められた、掘れば掘るほど災厄を撒き散らす『底なし沼』なのよ。宝石一つを得るために、国庫を三つ潰すほどのコストがかかる場所。だからこそ、我が家だって魔宝石があることを知りながらあそこを掘ろうなんて思わなかったの」

セレスティーヌは、窓の外で蒼天山への追加融資が決定したという号外を眺め、氷のような微笑を深めた。


「聖女様は『ゲームの知識』でそこに宝石があることは知っていても、現実の『工学的な地獄』までは知らなかったようね。……いいわ、やらせておきなさい。欠片を拾って浮かれている間に、国中の税金をあの毒の山に捨てさせればいい」


彼女はチェスの王太子の駒を、静かに盤外へと弾き飛ばした。


「さあ、二人の『黄金の夢』が、ただの墓標に変わる瞬間を楽しみましょうか」

次回、2/2投稿になります

よろしくお願いします。

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