(都合の)良い子ちゃん、辞めます
二話目は今日の夜6時頃投稿になります
鏡の中に映っているのは、絵に描いたような清楚な深窓の令嬢だった。
艶やかな銀髪は一筋の乱れもなく整えられ、瞳は伏せがちで、口元には控えめな笑みを絶やさない。
乙女ゲーム『ルミナス・ラブロマンス』における悪役令嬢、セレスティーヌ・ド・ロシュフォール。その本来の傲慢な面影は、今の私にはどこにもない。
転生して十年。私は、処刑台へ続く片道切符を破り捨てるためだけに生きてきた。
ヒロインへの嫌がらせ?
しないわ。する理由がないもの。
攻略対象への過度な執着?
あるわけないでしょう。あんなバカ。
壁に咲く一輪の野花のように、毒も害も、そして華もない「都合の良い女」を演じきって、ようやく卒業パーティー目前までこぎつけたのだ。
けれど、今日。
私は自室の鏡に向かって、誰にも聞かせられない呟きを漏らした。
「……この人生、めちゃくちゃごみじゃない?」
その言葉が口から出た瞬間、張り詰めていた何かが、ぷつりと音を立てて切れた。
この十年間、私がしてきたことは何?
あの馬鹿げた王太子の、鼻につく浮気現場を「見て見ぬふり」すること?
「聖女様、なんて素晴らしいお力ですこと(棒読み)」と、IQが低そうなヒロインを褒め称えること?
ふと、机に置かれた報告書に目をやる。
そこには、私の婚約者である第一王子が、例の聖女と睦まじく語らいながら、私の「罪状」を捏造し、婚約破棄を企てているという証拠が綴られていた。
努力の結晶が、これ。
慎ましく生きた結果が、濡れ衣を着せられての追放、あるいは死。
「……ふん。笑わせるわね」
私は、淑女の仮面を脱ぎ捨てた。
鏡の中の令嬢が、豹のように鋭く、妖艶な笑みを浮かべる。そう、本来のセレスティーヌが持っていたはずの、あの「悪役」特有の強烈な輝きを伴って。
「どうせ破滅する運命なら、最後に世界をあっと言わせてから死んでやるわ」
ただ死ぬなんて、私というリソースの無駄遣いよ。
私はクローゼットの奥から、ずっと封印していた派手すぎるからと仕舞い込んだままになっていた深紅のドレスを引き摺り出した。
「お淑やかなセレスティーヌは死んだわ。これからは、私の好きなように、悪役を演らせてもらうわよ」
まずは、そうね。
あの色ボケした2人に、本物の「悪」というものを教えてあげなくては。




