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観覧車はゆっくりと回り始め、夕暮れの遊園地を眼下に収めていく。ゴンドラの中は二人きり。外のオレンジ色の空が窓から差し込んで、流李の横顔を優しく照らしていた。
「わあ…高いね。街が全部見える」
「ああ。綺麗だな」
流李は窓に顔を寄せて、キラキラした目で下を見下ろしている。頭のピンクの花が三輪、夕陽に透けて淡く輝いていた。俺は隣に座ったまま、そっと鞄に手を伸ばした。
「(…今だ)流李」
「ん?どうしたの、剛くん?」
流李が振り返る。その瞬間、俺はハンカチに包んだものをそっと取り出して、膝の上に置いた。
「…これ」
流李の目が、一点を見つめて固まる。ハンカチを広げると、そこには俺の“二本の角”。
鬼人は定期的に角が伸びては、生活に困らないように切ったり削ったりする。昔は滋養強壮薬として高値で取引されていた。
俺は高校を卒業する時、流李に告白する日を夢見て、両方の角を根本から切って、大事に磨いて、細い銀のチェーンに通していた。
家族や流李の家族には伸びすぎたから、1回切り落としたかったと言ってあったが、多分俺の両親には角を切った真意はバレてるだろう。
流李が高校生になって、決心するまで時間が掛かった。切り落とした角が再び生え揃う位には。
「流李…鬼人が自分の角を渡すのは、求婚の証でもある…どうか、高校を卒業したら俺と一緒になって欲しい」
「えっ…良いの?」
「ああ」
俺はチェーンを持ち流李の首に掛ける。俺の心境は流李にウエディングベールを掛ける気持ちだった。
「…嬉しい」
流李は泣きそうな顔で微笑んでくれた。俺はその目尻の涙を親指の腹で拭ってやる。
「…あのね、剛くん。私も剛くんに渡したいものがあるの」
「?」
そう言って流李が鞄を開けて、中からハンカチを取り出す。今日1日漂っていた甘い香りが、一際強くなった。
流李は丁寧な、何処かもどかしい様な手付きでハンカチの結び目を解く。そこには真っ赤な菊の花が1輪咲いていた。
「!」
「あのね…今朝、咲いてたの…花人が赤い花を食べさせた人とは、番になれるって前授業で習った事があるの…剛くん」
流李は唾を飲み込んで意を決した表情で、俺に赤い花を差し出す。
「私の番になってくれますか?」
「…勿論だ」
俺は流李の両手を包むように握りしめ、流李の手の上から直接赤い花を食す。
甘い。
瑞々しい香りが口から全身に広がっていく。
まるで俺自身が流李のものになった気分だ。
「ご馳走様」
「美味しかった?」
「ああ」
「っ…!」
俺はゴンドラを揺らさない様に、流李の腰と膝に手を当てて、ゆっくりと自分の膝の上に引き寄せる。
「なぁ…番になった記念に…良いか?」
「…うん、良いよ」
俺は流李の許可を得てからゆっくりと柔らかい唇に口付ける。何度か角度を変えてリップ音を響かせて…そしてそっと舌を唇の間に割り入れる。
「ん…ちゅっ、んっ」
「ちゅる…ちゅ、ちゅ」
何度か舌を交えて甘い唾液を交換して、お互いに瞼を開けて俺達はゆっくりと離れた。
「…今日は一段と甘かったな」
「私も…剛くんのキス、凄く甘いって思った」
「そうか」
俺は流李をずっと抱き締めて居たかったけれど、ゴンドラはゆっくりと降りてゆく。人目に付きそうな高さになり、俺達は名残惜しく身を離して席に座り。何食わぬ顔でゴンドラを降りた。
「私の顔、赤くなってない?」
「ああ…俺も、大丈夫か?」
「うん」
そう内緒話をしながら俺達は手を繋ぎ、遊園地を後にした。




