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レイスバース【読み切り】  作者: 弥生いつか
第2話 赤い花
7/10

2

 

 観覧車はゆっくりと回り始め、夕暮れの遊園地を眼下に収めていく。ゴンドラの中は二人きり。外のオレンジ色の空が窓から差し込んで、流李の横顔を優しく照らしていた。


「わあ…高いね。街が全部見える」

「ああ。綺麗だな」


 流李は窓に顔を寄せて、キラキラした目で下を見下ろしている。頭のピンクの花が三輪、夕陽に透けて淡く輝いていた。俺は隣に座ったまま、そっと鞄に手を伸ばした。


「(…今だ)流李」

「ん?どうしたの、剛くん?」


 流李が振り返る。その瞬間、俺はハンカチに包んだものをそっと取り出して、膝の上に置いた。


「…これ」


 流李の目が、一点を見つめて固まる。ハンカチを広げると、そこには俺の“二本の角”。


 鬼人は定期的に角が伸びては、生活に困らないように切ったり削ったりする。昔は滋養強壮薬として高値で取引されていた。


 俺は高校を卒業する時、流李に告白する日を夢見て、両方の角を根本から切って、大事に磨いて、細い銀のチェーンに通していた。


 家族や流李の家族には伸びすぎたから、1回切り落としたかったと言ってあったが、多分俺の両親には角を切った真意はバレてるだろう。


 流李が高校生になって、決心するまで時間が掛かった。切り落とした角が再び生え揃う位には。


「流李…鬼人が自分の角を渡すのは、求婚の証でもある…どうか、高校を卒業したら俺と一緒になって欲しい」

「えっ…良いの?」

「ああ」


 俺はチェーンを持ち流李の首に掛ける。俺の心境は流李にウエディングベールを掛ける気持ちだった。


「…嬉しい」


 流李は泣きそうな顔で微笑んでくれた。俺はその目尻の涙を親指の腹で拭ってやる。


「…あのね、剛くん。私も剛くんに渡したいものがあるの」

「?」


 そう言って流李が鞄を開けて、中からハンカチを取り出す。今日1日漂っていた甘い香りが、一際強くなった。


 流李は丁寧な、何処かもどかしい様な手付きでハンカチの結び目を解く。そこには真っ赤な菊の花が1輪咲いていた。


「!」

「あのね…今朝、咲いてたの…花人が赤い花を食べさせた人とは、番になれるって前授業で習った事があるの…剛くん」


 流李は唾を飲み込んで意を決した表情で、俺に赤い花を差し出す。


「私の番になってくれますか?」

「…勿論だ」


 俺は流李の両手を包むように握りしめ、流李の手の上から直接赤い花を食す。


 甘い。


 瑞々しい香りが口から全身に広がっていく。


 まるで俺自身が流李のものになった気分だ。


「ご馳走様」

「美味しかった?」

「ああ」

「っ…!」


 俺はゴンドラを揺らさない様に、流李の腰と膝に手を当てて、ゆっくりと自分の膝の上に引き寄せる。


「なぁ…番になった記念に…良いか?」

「…うん、良いよ」


 俺は流李の許可を得てからゆっくりと柔らかい唇に口付ける。何度か角度を変えてリップ音を響かせて…そしてそっと舌を唇の間に割り入れる。


「ん…ちゅっ、んっ」

「ちゅる…ちゅ、ちゅ」


 何度か舌を交えて甘い唾液を交換して、お互いに瞼を開けて俺達はゆっくりと離れた。


「…今日は一段と甘かったな」

「私も…剛くんのキス、凄く甘いって思った」

「そうか」


 俺は流李をずっと抱き締めて居たかったけれど、ゴンドラはゆっくりと降りてゆく。人目に付きそうな高さになり、俺達は名残惜しく身を離して席に座り。何食わぬ顔でゴンドラを降りた。


「私の顔、赤くなってない?」

「ああ…俺も、大丈夫か?」

「うん」


 そう内緒話をしながら俺達は手を繋ぎ、遊園地を後にした。




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