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レイスバース【読み切り】  作者: 弥生いつか
第2話 赤い花
10/10

5

 

 1時限目が終わりトイレ休憩の時、流李を除いた俺達桃太郎組は男子トイレに向かう。


 その道中の話題だったが当然流李の事だった。


「…今日の流李、すげぇ甘い匂いと国分寺の匂いがしてた」

「ああ…アレだよな、絶対休日に何かあったよな」

「…小5からの付き合ってるって言ってたからなぁ。やっぱり咲いたんじゃねぇの?赤い花」

「やっぱそれか〜」


 秀一の言葉に涼は後頭部で腕を組む。そんな中で喜雨は顔を真っ赤にさせる。


「でっででででも赤い花って濃厚接触しなきゃ、咲かないんだろ?高校1年ではっ早すぎるだろ」

「いやー持った方だと思うぞ?だって性欲の強い、高校時代で手を出してねぇんだぞ?」

「大声でんな事言うなよ!」

「でもアレだよな、見るからに幸せそうで何か綺麗になった感じがするよな」

「なー…」


 脳裏では国分寺と流李がエロい事をする妄想が過ぎる。その考えを振り払う様に頭を振るうが、犬神としての鋭い嗅覚が流李から国分寺の強い匂いを感じとる。


「…けどヤッてる匂いはしてねぇんだよな」

「だからそういう事言うなって!」

「もしかしてキスだけで赤い花咲かせたとか?どんだけ純愛なんだよあの2人」

「授業で聞いたことあるけど…エッチするより、結構年月掛けるって聞くぜ?」

「お前等…でもあの2人だったら、あり得るかも」


 喜雨は平然と会話する俺と秀一の会話を聞いて、赤面しながら頷く。こいつの純情さも大概だな。


☓☓☓




 放課後、校門の少し手前で剛くんが待っていた。いつもより少し早めに教室を出たのに、もう来てくれていた。


「お待たせ」

「いや、俺が早かっただけだ」


 剛くんはそう言って、いつものように大きな手を差し出してくる。私は迷わずその手に自分の手を重ねて、指を絡めた。首にかかった角のネックレスが、歩くたびに小さく揺れて、胸の奥が温かくなる。


「寄りたいところって、どこ?」

「…ちょっと遠回りになるけど、いいか?」

「うん!」


 剛くんは私の手を引いて、いつもの通学路とは逆方向へ歩き出した。夕陽がオレンジに街を染めていく中、住宅街を抜けて、少し古びた神社の方へ向かう。


 そこは大昔に添い遂げた鬼人と花人が、巡礼の旅に出た場所の1つだった。


「ここ、子供の頃よく来たよね」

「ああ。流李が『お賽銭入れたい!』って毎回小銭持ってきて、俺に持たせてたよな」


 懐かしい記憶がよみがえる。小学校低学年の頃、剛くんがいつも私の後ろについてきてくれて。お賽銭を入れる時も、私の手が届かない賽銭箱に代わりに投げ入れてくれたっけ。


 神社の石段を上って、本殿の前に立つ。今日は誰もいなくて、静かだ。風が木々を揺らして、葉ずれの音だけが聞こえる。


「…ここで、ちょっと話したいことがあって」


 剛くんが私の正面に立って、珍しく少し緊張した顔をする。私はドキドキしながら見上げた。


「俺さ、流李と番になったこと…本当に嬉しい。でも、まだ高校生だし、卒業するまでは『ちゃんと待つ』って決めてた。でも今日、流李の匂いが俺の匂いと混ざってて…なんか、急に焦ったんだ」

「焦った…?」

「ああ。俺の角を首にかけてくれてる流李を見て、他の奴らに『あれ、俺のもの』って思われるのが…嫌じゃなかった。むしろ、もっと見せびらかしたいって思った」


 剛くんが苦笑いしながら頭をかく。いつも強気で頼もしい剛くんが、こんな風に照れるのを見るのは珍しい。


「だから、ここで約束したい。卒業したら、ちゃんと両親に話して、正式に番として…いや、夫婦として迎えたい。流李、俺を待っててくれるか?」


 …え? 頭が真っ白になって、言葉が出てこない。剛くんは私の沈黙を不安に思ったのか、慌てて付け加える。


「もちろん、無理強いはしない。でも俺は本気で――」

「待つよ」


 私は慌てて首を振って、剛くんの言葉を遮った。


「私も…剛くんとずっと一緒にいたい。番になった今、もっと剛くんのそばにいたいって思うようになった。だから、卒業まで待つ。ちゃんと、両親にも話す。剛くんが待っててくれるなら、私も待つよ」


 剛くんの目が少し潤んで見えた。大きな手が私の頰に触れて、優しく撫でる。


「…ありがとう、流李」


 そのまま、剛くんは私を抱き寄せた。神社の境内なのに、誰もいないから、ぎゅっと強く抱きしめ返した。首の角が剛くんの胸に当たって、カチンと小さな音がする。


「これからも、毎日手を繋いで学校行こうな」

「うん」

「朝起きたら、俺の匂いが流李の匂いになってるって思うだけで…もう、幸せすぎてどうにかなりそうだ」


 私は剛くんの胸に顔を埋めて、くすくす笑った。


「私も。剛くんの角がここにあるって思うだけで、毎日ドキドキしてる」


 夕陽が沈みかけて、神社の鳥居が赤く染まる。風が少し冷たくなったけど、剛くんの体温が温かくて、全然寒くなかった。


「帰ろうか。今日はおばさんに、俺が夕飯食べてくって言っといたから」

「え、ほんと?やったー!お母さんのハンバーグだよ、今日!」


 剛くんは照れくさそうに笑って、私の頭をぽんぽん叩いた。そしてまた手を繋ぎ直す。夕暮れの道を、二人でゆっくり歩いた。


 これからも、きっとこんな日々が続く。


 剛くんと私の、甘くて温かい日常が。


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