人間だけの髪の毛
掲載日:2025/11/08
ふと、思った。
人間の髪の毛だけ、最初から「切ること」を前提に生えてはいないだろうか。
犬も猫も、猿も馬も、毛はある程度で止まる。
だが人間だけは、放っておけば自分の身長を超えるほど伸び続ける。
もし誰もハサミを発明しなかったら、
きっと視界を奪われ、
自らの髪に絡め取られていたかもしれない。
自然界の摂理からすれば、それは明らかな逸脱だ。
けれど、その“無駄”の中にこそ、
人間という種の正体があるような気がする。
他の生き物は、与えられた身体のままを生きる。
人間だけが、自らの身体を“何度も整える”ことを前提にしている。
つまり髪は、もはや自然の器官ではなく、
人間の変容を許す柔軟な肉体なのだ。
人は元来、そこに意味を見出してきた。
美しさの象徴、宗教の儀式、喪の印。
髪を通して、人は自らの“決意”を知るのかもしれない。
髪は生きている。
だが、それをどう活かすかを決めるのは人間だ。
髪こそが自然界の摂理を超越した自己意思の存在証明なのだ。
人は、自らを何度でも作り直すために、生まれてきたのかもしれない。
今日も我々は、一本の髪を切りながら、
見えない何かを整えている。




