実は……まんざらでもなかったり?
ーーまぁ、嫌な予感というものは必ず当たるというのが、世の常、書の常でありまして。
「ユキさん! お待たせしーー……っ?!!」
台所への扉を開けたらそこは極寒の雪山でした。
……じゃない!
「さむっ!?!」
「あ、ナノカちゃん~! 今日暑いから、部屋冷やしといたよ~」
「……」
にっこり笑顔でサムズアップするユキさんにちょっぴり殺意が湧いてしまうのは……仕方ないよね。
無言で極寒の台所へ入り、うっすら雪の積もったテーブルの上に置いてあるやや湿っぽいビコビコ新聞の朝刊を手に取る。
「今日は! 暑くも寒くもない丁度いい気温です! むしろ朝はちょっと肌寒いかも? って書いてあります!」
目に入らぬかー! な勢いで新聞のお天気欄を見せつけ、いや、むしろ押しつける。お天気欄では雨降りコゾー君が天気を教えてくれている。ちなみに晴れはしょんぼり、雨は笑顔仕様です。
「あは、ほんとだ~」
「というか! テーブルだけ拭いておいてください、とお願いしたはずですけど?!」
「え? 拭いといたよ~?」
「……雪で拭いてあるのかわからないです」
「ありゃ? めんご~」
「……ユ、キ、さ、んー!!」
わなわなとユキさんに詰め寄ろうとしたところで、
「うお、さみーな」
「っ寒! てか、キキさん降ろしてくださいよー!」
キキさんが入ってきた。脇にはひょろ長の男性ーーキビを抱えている。
「ユキ……また冷やしたのか。ナノカ、大丈夫か?」
「は、は、い。と、と、りあえず、まだ」
さっきまでの熱も冷めだして、季節外れの温度にだんだん口が回らなくなってきた。
「え~暑いじゃん」
「暑いのはユキだけだ。……ったく。ほれキビ、出番だ」
「あでっ!」
どじゃん。と、音をたててキキさんがキビさんを降ろす。というか、また落としてる。
「あたた……、キキさん、もー!」
お尻を擦りながらキビさんが立ち上がる。キキさんに抗議しているけれど、それよりも早くしてもらわないと……手もかじかんできた。
「キ、ビさん、おは、やめ、に……」
「ナノカさん! これは大変です! どうしましょう?! とりあえずボクで暖まりますか?!」
くるりと後ろを向いたキビさんの大きな尻尾ががキラキラと輝いてみえてくる。あったかもふもふしたい……。
「え、あ、」
「馬鹿やってないで、炎、早くしろ」
「……は!! そうですよね! すみません! すみません!……それっとっ!」
キビさんが慌てて右手をかざす。小さい火の玉がそこかしこに現れ、台所全体が徐々に暖かくなり、うっすらと積もった雪が蒸発していく。
「ーーふぅ。こんなもんですね」
部屋の温度と雪が消えたのを見回して、キビさんが右手を握り混み、火の玉を消す。
「キビさん、ありがとうございます」
「いえいえ、お礼なんて! いつでも頼ってください! 先日も悩める方から相談がーー」
「それ詐欺だぞ。拒否しといたからな」
「えっ!? ……あんなに会社に知られたくないと必死だったのに詐欺!! あぁ、ボクはまたなんで……!」
キキさんにバッサリと言われキビさんがどよんと頭を下げる。頭の耳もしょんぼりモードだ。
「あは、詐欺の常套句だね~」
のんびりと言うユキさん。ちゃっかり椅子に座っているし。
「あぁあ……!」
「……あんまり気にしない方がいいですよ」
「そうそう~。キビくんのそれはしょうがないから気にしちゃダメよ~って」
「追い討ちかけんな」
「あでっ」
キキさんの拳骨がユキさんに落ちる。ユキさんがテーブルに沈んだ……。
「キビ、ナノカの言う通り、気にすんな。もう座っとけ」
「っ! はいぃ……」
バシリ。と、キキさんがキビさんの肩を叩く。
圧でキビさんの腰がさっきより曲がった気がする。
「さ、いつも通りの朝もやったし、さっさと準備すっか」
「あぅ!」
「あは、ぼくが凍らせてないのに、キビ凍っちゃった~」
……キキさん、止め刺してます。
「おまたせしました!」
キキさんに手伝ってもらってようやく朝食の準備完了。
テーブルへ並べるころにはキビさんもようやく解凍したみたい。ユキさんをちゃんと座らせようとしてくれてる。遊ばれてるけれど。
「準備ありがとうございます! ナノカさん」
「ユキ、ちゃんと座れ」
「……うぇい」
「えっと、今日の朝食メニューは、
キキさんーーバケ鳥、バケ豚、バケ牛の唐揚げと大盛りご飯
ユキさんーーイチゴ味かき氷にシャリシャリ苺グミとヒエヒエのバケプロテイン苺味
キビさんーー特大油揚げの超濃厚醤油味仕立て
私ーーヒト界日本食ショップで買ったお米の塩おにぎりとお漬け物です」
「よし、食べるか。ナノカ、頼む」
「はい。では、いただきます」
「「「いただきます」」」
ーーいつ見ても見た目のギャップ満載な食卓だよね。
四角いテーブル、隣に座るキキさんはあの量があの小さい体のどこに入っていくのだろうと思うくらい食べる。しかも早い。
前に座るユキさんとキビさんは幸せそうに食べてる。ユキさんは見てるだけで寒いし、キビさんは……濃い。
ある程度食べたところで、
「じゃ、食べながらでいいから朝礼するぞ」
「「はい」」「は~い」
キキさんから今日のお仕事確認。
「今日の水やりは?」
「ぼく~」
「……凍らすなよ」
「レジ担当は?」
「ボクです!」
「……金、余計に渡すなよ」
「管理は?」
「私です!」
「おぅ、頑張れ。 何か手伝ってほしいことがあったらいつでも言ってくれな?」
「はい! ありがとうございます」
キキさん、いつも気づかってくれる。ほんとに頼れるヒトだ。
「ちょっと、キキ~。ぼくらと態度違いすぎない?」
「……ユキは釘刺しとかないとダメになるだろ?」
「へへ~」
「褒めてない。ーー俺は植木鉢の移動とか力仕事するから、何かあったらホゥレンソォで連絡」
「「はい」」「はぁい」
ちなみにユキさんはいつも凍らして、キビさんは余計にお金渡しかけたりしてます。
あ、ホゥレンソォはここでの携帯みたいな物で、名の通りホウレンソウの形をした付喪神産の携帯です。詳しくはのちほど。
「あ、あと、ヌラ店長だが、」
「連絡あったんですか?」
「いや、荷物だけ送ると。朝イチに店に送ったらしい」
「そうですか……」
「すまんな、ナノカ。店長の居場所わかったらすぐ捕まえるから、もう少し頑張ってくれ」
「……はい」
「後、これ」
ちょっぴり気を落とす私に、キキさんがさらなる物を渡してくる。
「う……」
「キビと調整した。周りへの効果をより違和感なくしたから、そうそうバレないだろ」
「付け心地も良くしてみました!」
渡された物ーーネコ耳カチューシャを頭に装着する。この瞬間が恥ずかしすぎるのだ、いつも……!確かに前より付け心地はいいけれど。
「あは、いいね~。よりネコちゃんって感じ~」
「すんなりと馴染んでいるようでなによりです!」
「虎柄の服とも合って、ちょうどいいな。かわいいぞ、ナノカ」
「……ーーあ、りがとうございますーっ!」
もう、ほんと、なぜにこの年で、こんな格好をー!と叫びたいのを押さえ、照れ隠しでおにぎりを頬張る。
のが、私の今の日常です。