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かしこまりました、少々お待ちください、と言って、店員の男性は会釈して去っていった。
私はまたジュディに顔を寄せる。「あら、定番じゃない」
「こういうのは定番をひと工夫するからいいんだよ」
一理あるわね、と私は応えた。あの親しんだ味がこうも変わるのか、と思えることが肝心なのだ。
ティラミスは5分もしない内に運ばれてきた。運んできた店員の男性がまた離れたのを見計らって、さてさて、とジュディが呟いた。
「ホイットニー、手もとの粉チーズを取ってくれる?」
「まさか、ティラミスの上に粉チーズかけるの?」
そうよ、ジュディは微笑んだ。「カルボナーラの上にさらにチーズをかけるみたいに味が膨らむのよ」
まぁ、分からないでもない。チーズを使用したスイーツにさらにチーズを追加して不味くなることは考えづらい。よほどマイナーでトリッキーなチーズを使用しない限り。そして、テーブルに備え付けの粉チーズは、数ある中でもポピュラーなペコリーノチーズである。
「まぁまぁまぁ、ここは1つ騙されたと思って」
ジュディはそう言って、右手をこちらに伸ばしてにぎにぎとしてみせた。
「いいでしょう」と私は言った。「でも、キッチンの人たちが見た目にも気を配ってつくったものなんだから、そのへんしっかり考えてきれいにかけるのよ」
はーい、とジュディ返事をした。私は手もとにあった円筒状の粉チーズの容器を彼女に渡した。彼女は舌を出しながら集中した目つきでティラミス2つに粉チーズをまぶしていく。まるでカレーライスみたいに、茶色く四角い表面を約半分にこんもりとするかたちで盛った。彼女らしいのきれいに、私は幾分微笑ましくなった。
彼女は粉チーズの蓋を閉めてから、ふぅ、と1つ息を吐いた。そして、粉チーズをテーブルに置いてからキラッと笑った。「さぁ、召し上がれ」
ではでは、と私はケーキフォークを手にとって、チーズのかかった部分を切り分けて口に運んだ。
次話は明日の21時台に投稿予定です。




