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対して私とディアナの部屋はというと、何かしらの表現的衝突があるというのではないのだけれど、ジュディたちの部屋と比べ見ると、どこかしら寂しさが漂っているように思える。
私とディアナは互いが互い、部屋を飾り付けるということに熱心ではないのだ。学業や人付き合いに必要な、あるいは自分が自分であるために肝心の機能を整然と配置しているだけだ。色味もほとんどない。ジュディたちが虹色なら、私たちは灰色だ。その中核を成すのが数多の書籍であり、本棚も増設したそこはもはや書斎兼寝室といった様相を呈している。匂いもまるで図書館だ。さまざまな年代の紙とインクの匂いが幾重にも重なっている。女子の部屋かと言われると怪しい、どちらかと言えばジジくさい(いや、この感想は忌むべきジェンダーロールだろう。つい思ってしまうことは仕方ないとして、口に出すことは気をつけないといけない)。その点、ジュディたちの部屋はルームフレグランスにも気を付けて、ささやかな南国の果実のような風味を漂わせている。たまに嗅ぎにくる分にはとてもいい。もしかしたらジュディたちも、私とディアナの部屋に同じ感想を持っているかもしれない。
まぁいろいろと言ったけれど、自分たちの部屋を特別悪いものとは思っていない。自然体でいられる優しい場所だ。ジュディたちだってそうだろう。それが彼女たちの場合能動で、私たちの場合は受動なだけである。ただ、たまには能動にあてられるというのも悪いことではない。灰色のよさを知るためには、虹色に定期的に触れる必要もある。逆も然りだ。その実際的体験を、私は何度もしてきた。ちょっとした遠出も必要なく、ごく手短に。そういう補完関係を、私たち4人は具に構築できているのだ。それは黄金の宮殿すら足元に及ばないほどの貴重の財産である。
「どうしたのよ、猫みたいにじろじろと部屋を見渡して。いまさら、何度も来てるのに」
ジュディが目を丸くしながら言った。いけないいけない、流石に不躾が過ぎた。いくら友達の関係でも。
「なぁに、シンディがいないのをいいことにこのいい部屋を1日で散らかし放題にしないか心配になっただけよ」
「ちょっとぉ、それは失礼すぎるんじゃないかしら」
ジュディはそう言った後に、ふと思いたったみたいにぐふふと笑った。クレヨンしんちゃんみたいに。私が部屋を直接的に褒めたのがはじめてだから、そこに気付いて思わず笑みが溢れてしまったのだろう。やれやれ、様々なことをもう少しこまめに褒めてあげようかしら。私は微笑み反しながら思った。
次話は明日の21時台に投稿予定です。




