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「どう? 気に入った服はあったかしら?」


 ジュディが私の後ろから近づきながら言った。


 私は表情を整えてから振り向いた。「うーん、なかなかねぇ」


 私は手にとっていたTシャツをもとあったように畳んで置いた。


「やっぱり、ホイットニーのそれすごいわね」ジュディが言った。「テーブルとかに置いたりせずに、お腹に当ててくるくると畳むの。ほんとお店の人みたい」


「コツを掴めば結構簡単よ」私は応えた。「それに魔法がうまくなれば、杖をちょこんと振るだけでもっとはやく正確にできるようになるんだから」


 実際に少し離れたところで魔法を使える店員が、別のデザインのシャツを同時に4着くらいに宙に浮かせて畳んでいる。


「それで、あなたの方は何かいいものを見つけられたの?」


 とは言うものも、私は彼女が満足のいく服を見つけられたことを理解している。彼女の表情から、はやく自慢したくて仕方がない、という意思がびんびんと伝わってくるし、両手とも背中の後ろに回して何か隠しているしぐさをわざとらしくしている。私はあくまでも、彼女が求める言葉を返したのだ。


 ジュディはニコッと笑ってから言った。「うん! 私はちゃんと見つけたわよ。ほれ」


 ジュディは背後に隠していたそれをこちらに提示した。


 彼女が手に持っていたのは、たっぷりのフリルのついたグレーのミニスカートだった。ガーリーでミニマルで、一言でいえばかわいらしい装いだった。


 あら、と私は前置きした。「制服のスカートもまだ膝下にしてるあなたが結構な挑戦をしたじゃないの」


 入学式の日に見たあの清楚なワンピースしかり、彼女はこれまで長めのワンピースないしスカート、ドレスしか身に付けてこなかった。いま着用している制服の丈も、ちょうど膝小僧を隠すくらいだ(かくいう私もそれくらいであり、背丈の低いディアナはまだ成長期であることを希んでかさらに気持ち長いのを履いている。膝小僧をすっかりみせているのはシンディだけだ)。


「もう私もハイティーンだからね。こういう服を試してみるのもいいんじゃないかな-って」ジュディはむふーとした笑顔を浮かべる。「いまからこれに合うトップス探すのよ」


「へぇ、いいじゃない」私は言った。「気に入ったらそうい系もどんどん増やしていくの?」


 うん、とジュディは頷いた。「街道沿いのお店で働くことは2学期以降にしなさいって言われちゃったからね、夏休み以降じゃないとばんばん買えないけど、このお店ならお小遣いで何とかなるから、興味のあるものいくつか見繕って見ようかなって」


 入学式の日に街道沿いで2人でお茶をした際に、彼女が口にしたアルバイトの希望は、後日彼女の両親に伝えられた。しかし1学期は学校生活に馴れることを優先して我慢しなさいと説明されたらしい。しかし、さっそく私と同じくらいに仲良くなったルームメイト・友達もできて、金銭のいる友達付き合いの必要性を説くと、定期的な仕送りの増額を勝ち取ることができた(ちなみに、これは私の入れ知恵である)。そのお金を用いて、彼女はいま自分のまだ見ぬ可能性を模索しているのだ。微笑ましいことだ。私はその姿に、まだ純粋だった前世の同年代頃の自分を重ねる。


「とてもいいことよ」私は率直に言った。「私なんてこだわりというか、頑固なところがあるからあれだけど、あなたならシンディの着せ替え人形になるくらいがちょうどいいのよ。そのミニスカートだって実のところそうなんでしょ?」


「ああ、分かっちゃった?」


 ジュディは観念するみたいに笑った。

「先にイメージだとか、これまではこんな服を着てきたけど別のを試したいとか伝えたら、ちょちょーっと店内一緒に見てまわってこれをピックアップしてくれたのよ。私もすごく気に入って、じゃあこれからこれに合いそうなトップスいくつか手にとって試着しようって前にホイットニーに自慢しにきたの」


「あら、まだ試着してなかったの?」私は言った。


 うん、とジュディは頷いた。「鏡の前で合わせて見ただけよ。でも、それでも自分にぴったりだー、ってビビってきて、やっぱりシンディの見立てはすごいな-って」


 そう、と私は言った。「それで当のシンディが見当たらないんだけど」


「私がホイットニーに自慢しにいく間にディアナの服を見立ててあげるってお店の奥の方に行ったわ。ワンピースのコーナーがそっちにあるみたい」


「なるほどね」と私は応えた。そして改めて、ジュディとミニスカートを見比べた。「確かに、デザインや色合いだけなら、試着するまでもなくジュディとぴったりかもね」


「うふふ、そうでしょー」


「まぁでも、しっかり試着はしなさいよね。とりわけサイズを間違えたら後の祭りなんだから」


「分かってるよー」


 ジュディはずっと上機嫌だ。



「どや、自慢タイム終わったか?」


 店の奥の方からシンディが戻ってきた。隣にはディアナがいて、シンディに見立ててもらったであろうワンピースを携えている。


「ええ、満足したわ」


 ジュディはシンディの方に振り返って言った。


「ほうかほうか」シンディは微笑んだ。「ホイットニーも、なんか軽く見たろか?」


「――いや、私はもう少し1人で見てまわりたいわ」


「せやな」シンディが言った。「自分のこれってのがあるならそれが1番ええわ」


 思ったよりもあっさりとした返答が、私は少し気になった。


 ジュディとディアナはシンディのアドバイスのもと、『ベイビー・アイリッシュ』で無事に買い物を済ますことができた(購入品は『ベイビー・アイリッシュ』のロゴが入った紙袋に入れている)。ジュディは先のミニスカートが無事に自分の体にフィットしたのを確認すると、それとマッチする半袖の軽やかなトップスを2,3着と選り抜いた。ディアナは先ほど、シンディと一緒にジュディを呼びにきた際に携えていたワンピースだけを購入した。ブラウンを基調としたチェック柄のレトロ調で、彼女にとてもよく似合っていた。そのワンピースは値引きセール中で店内でもとりわけリーズナブルだった。だからまだ1,2着買える余裕があるはずなのだけれど、彼女の食指はそれ以上動かなかった。まぁ、理由は言われなくとも分かる。彼女がお金をかけたいのは服よりもまず読書に対してだろうから。


 『ベイビー・アイリッシュ』を出ると、次にシンディが贔屓にしているブランドの入るセレクトショップに足を運んだ。そのお店に入ってからのシンディはまさに怒涛の勢いで、文字通り私たちの付け入る隙がなかった。陳列された商品はどれも『ベイビー・アイリッシュ』のそれよりもハイソで、少なくともジュディとディアナは圧倒されていた。しかし、けっして近寄りがたいとまでの位置にあるわけじゃない。いまはまだ早いけれど、将来的にはどこかで身に付けられることができそうな親しみやすさも幾分あった。2人はこれらを身に付ける将来の自分を想像するみたいに商品を見やる。私はそれを微笑ましさも含めて観察する。そうしている間に、シンディは自身の買い物を速やかに終えて、戦利品を紙袋に収めていた。


 セレクトショップを出てから、通りの邪魔にならないとこでそれらを私たちに披露した。とりわけジュディが輝く目で反応した。


 少しして、シンディが言った。「後はホイットニーの買いもんだけやな」


 うん、そうね、と私は反応した。浮かない、乗り気じゃない感じがどうしても隠せなかった。すると、シンディがにっこりと笑った。


「実はな、こだわりの強いホイットニーでもここならってブランドを1つ知ってんねん」


「……へぇ」


 私はらしくない興味がわいてきた。


 私たちはシンディの案内のもと、通りの最奥手前にある脇道に入った。そこはどちらかといえばサブカル系やアバンギャルドなファッションを取り扱う小さな店が左右にポツポツとあった。


 私はたまらずに言った。「ねぇ、まさかここに並んでいるものが本当に私に合ってると思ってるの?」


「はっはぁ、まさか。ちゃうちゃう」シンディは上機嫌に答えた。「まぁ1周まわっておもろいかも知らんけど、そんな冒険じゃなくて確実に喜んでくれるようなとこがあるって調べてん。もうすぐ着くから、わくわくしてぇな」


 そう、と私は答えた。



 ほらここやで、と、シンディが私たちから見て右側を差して言った。


 脇道の先は王都を縦断する大きな川の1つに付き合ったている。シンディが指定したお店はその手前にあった。私はその店舗の外観を見た。前面をガラス張りにしているのは、大通りやこの脇道の多くに店舗と変わらない。ただし扉が引き戸になっていて、枠に温かみのある色の木材が使われている。その店舗が入っている建物はそれなりに老朽しているが、店内は清潔で真新しい。恐らくは別の店舗が入っていたのが撤退して、最近移ってきてオープンしたのだろう。


 私はそのまま数秒ボーッと店内を見て、急にハッ、となった。店内から見て1番印象的な位置に、商品を身に付けたマネキンがあった。そこまではよくある光景である。特段驚くことではない。私が驚愕したのは、マネキンが身に付けている商品にこそあった。


 マネキンは下にジーンズを履いていた。もちろん、この世界にもジーンズはある。しかし、マネキンは女性フォルムをしている。そしてジーンズはそこにぴったりとフィットしている。つまりはそのジーンズはレディースなのだ。


 私は、今世ではじめて、実物の女性用ジーンズを目の当たりにした。

次話は明日の20時台に投稿予定です。

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