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お待たせしました。短めの1部番外編を掲載してから2部本編の投稿を開始しようと思います。
「ホイットニー、ホイットニー!」
小さく鋭い針が幾万と降り注ぐように強力な日差しの下で、その太陽光線をものともしないみたいにジュディが天真爛漫に私の名前を呼んだ。
「そんな大きな声出さなくても聞こえてるわよ」
私は気だるげに言った。右手で右耳を覆って、首を横に振るジェスチャーを加える。左手の方では日傘を差して、日差しから逃れる努力をしている。しかし逆に熱が傘の内に籠るように私の顔の周りに停滞している。汗がじとりと顔にへばりつく。私は肩に掛けていた大きめのタオルで汗をふく。
私はタオルを肩に掛け直して言った。「そんな一桁の子供みたいなはしゃぎ方しちゃって」
「まぁまぁええやん」そう言って、シンディが後ろから歩いてきた。「いまは私たちしかおらんのやし」
「それはそうだけど」と私は言った。
「いやだってさ、とっても嬉しいんだもの!」ジュディが言った。「まさか夏休みにこの4人で集まれて、しかもこんな素敵なビーチで過ごせるなんて、本当に夢のようだわ」
「――うん、そうね」私は溜め息混じりに言った。次いでシンディを見る。「改めて、今日は招待してくれてありがとう」
夏休みに入って2週間が経った。現在、私たちはシンディの祖父が治める土地にあるプライベートビーチにお邪魔している。彼女の祖父(地域で名のある伯爵らしい)の別邸のすぐ側にあるこじんまりとした場所で、臨む海は水面から泳ぐ魚の姿がくっきりと見えるほどの透明感がある。白い砂浜は太陽によく焼かれて、波打ち際から少し離れるとサンダルなしでは火傷してしまうほどだ。本当に夢に描いたようなビーチである。
「お構いなくぅ」
シンディはにししと笑みを浮かべる。
「お待たせ」
少しして、別邸にある方からディアナが歩いてきた。
「お、お待たせいたしました」
ディアナの隣にいる小さな男の子が言った。私の弟の、ゲーリーだ。
私はシンディからこの度の招待の連絡を受けたことを両親に話すと、ゲーリーは子供らしく一緒に行きたいとせがんだ。私は速やかにシンディに連絡を取ってそのことを相談した。シンディからは、是非一緒にきぃよ、と気持ちのいい返事が返ってきた。私とジュディの両親同士が相談して、引率として私の父が私とジュディとゲーリーに付き添うことになった。その間、母はお手伝いさんとして町から通って来てくれている女性2人と悠々自適に過ごさせてもらうと笑っていた。
シンディの祖父の領地は鉄道を利用して2日も要した。今朝到着して、別邸でシンディとその両親と祖父母が快く迎えてくれた。少し遅れてディアナと彼女の父親が到着した。別邸の食堂で朝食を頂いて、少しして子供たち5人でこのビーチにやってきたわけだ(大人たちは別邸に残って、またいろいろな話をしている)。ディアナとゲーリーは別邸を出る前にお手洗いに寄ったため少し遅れて来たのだ。
「なんや、朝ごはん食べてた時と違ってやけに緊張しとるやないか」
シンディがゲーリーの様子を見て言った。確かに、朝食時のゲーリーは頼もしいくらいにもりもりと食べていたけれど(朝食は魚介サラダとオムレツに、ハムとチーズとスクランブルエッグにブレッドとドーナツと海辺の土地らしいメニューだった)、いまは頬を仄か赤くしてもじもじとしてしまっている。
「ああ、分かったで。お姉さんたちが水着でおるから恥ずかしいんやなぁ。もー、おませさんやなぁ」
シンディがいたずらな笑みを浮かべる。
次いで、ジュディがむふふと笑ってから言った。「そうか、そうか、ゲーリーくんもそういうことを意識しちゃう歳になったのか、感慨深いねぇ」
ジュディとシンディは2人してゲーリーに近付いて、ゲーリー顔を覗くように背を丸め顔を突き出した。それに対してゲーリーは、えぇと、そのぉ、と俯きがちに言い淀んでしまっている。
説明が後回しになってしまったけれど、私たちはただ海を眺めに来た訳じゃなく本格的に海水浴を楽しむつもりでビーチにやってきた。だから当然水着に着替えている。1学期最後の王都への外出の際に全員で購入したものだ。ジュディは白の短めのフリルワンピース、シンディは黒のオフショルダーモノキニ、ディアナは右肩ワンショルダーの青緑の長めのワンピースを身に付けている。ちなみに、私はカラフルな横縞柄のビキニの上に黒のショートパンツと背中が少し空いた白のレースを羽織っている。ゲーリーは子供らしい紺色の短パンだ。
「もう、そんなにからかったらかわいそうじゃない」
ディアナが言った。ゲーリーはさっと彼女の背中に回って隠れてしまった。
私はゲーリーの行動に一定の安心感を覚えた。ゲーリーは現在6歳、前世でいうところの小学1年生になった年である(もうそろそろ、魔法の片鱗をみせる歳だ)。このくらいになれば、無垢を装って身近な女性の体に不用意に接触するさもしい根性を垣間見せる男児も出現するのだけれど、少なくともゲーリーにそういう兆候はみられなかった。しかし、結局のところそれはスイッチの入るタイミングの話でしかない。それは有性生物のある種の運命と言って差し支えない。そしてゆくゆくは体格で勝る男の方が直接的な加害をするようになる。――恐らくはケビンも、そのスイッチに心悩まされた時期があっただろう。そしてきっと、それを適切に乗り越えて現在の誠実な彼になった。私もゲーリーが彼と同じ道をたどってくれることを願う。そして自覚的に協力を求められたら、私はそれを惜しまないつもりだ。ケビンとのやりとりが、私をそこまで思わせてくれた。それ以前の私は、きょうだいの成長に対して、強固な諦念の気持ちを持っていた。前世で幾つかの出来事がそうさせたのだ。
「いやぁ、それにしても照れた時の感じがホイットニーとそっくりやね」
「そうそう。それに仕草だけじゃやなく、目元とか顔のつくりもよく似てきたんだよね」
ジュディとシンディがくすくすと笑いあった。
「もう、そのへんにしてあげて」
こちらに飛び火をして来たので、私はゲーリーに近付きながら言った。するとゲーリーはディアナの背後から離脱して、半べそ状態になりながら、お姉さまぁ、と言って走ってきた。私は開いたままの日傘をそっと置いて膝をつき、ゲーリーの背中をよしよしと擦ってあげた。
私たち5人は、陽が空の頂点から沈みはじめて少しまで休むことなく遊んだ。海を泳ぎ、砂のアートを幾つかつくり、ビーチクミルなるスポーツ(魔法不使用)もやった。私は疲れ果てて、1度離脱させてもらうことにした。ゲーリーの面倒は赤ちゃんの頃から何かと世話を焼いてくれたジュディをメインに任せた。私は波打ち際から少し離れたところに予め設置していた木製の折り畳みチェアに横になることにした。腰かける前にタオルで体を拭いて、同じく開いて立てて置いたパラソルの日陰を調節する。満足がいって腰を沈めると、自然と目が閉じてしまった。波と風と4人のはしゃぐ声が心地よくて、いい具合のヒーリングミュージックになっている。無明の内聞こえる音楽は、私をまた別の素敵な場所に誘おうとしているみたいだ。
しばらくして、私の体は波の上にいるように振動しはじめた。いつの間にか体勢も変わって、背もたれが高くなっているような感触もある。私はおもむろに目を開いた。
ちょっと、作者のおねショタ趣味が漏れてしまいました(反省)
次話は明日の20時台に投稿予定です。




