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エピローグも前後半に分割して投稿します。そして明日の後半部の投稿で第1部を一旦完結させます。
あの日から、つまりは私がロバートを破滅させたその日から、約1週間――正確を期するなら8日――が経過した。今日先ほど、モータウン学園の1学期の終業式が終わった。入学式でも使用した大ホールに今日は学園生全員(レベッカを除く)が集合して(父兄の参列がないので、約1200×3+教職員という人数もまったく問題なくおさまった)、学園関係者のうだうだとしたつまらない話をさんざんに聞かされた。まぁ、入学式でも学園長とロバートの式辞の後は似たような感じだったけれど、パフォーマンスショーとそこから繋げた学園長のトーク術の感動の余韻にくわえ、ロバートへの敵愾が私の心を閉式まで振るわせ続けていたのだ。この度の終業式でも学園長の式辞はあって相変わらず話が上手かったけれど、パフォーマンスショーを伴ったそれとどうしても比較して心に響いてこなかった。いやそれよりも、当時と比べて私の学園に対する信用度が著しく毀損していることが主因かもしれない。そしてこの度の終業式では当然、ロバートの挨拶も登壇もなかった。彼は学園から、完全に除名された。
移動も含めて、その苦行は約2時間に及んだ。やっと自分のクラスの教室に戻れると、私は大きくため息をついた。隣のジュディも真似するようにため息をついて、私たちは顔を突き合わせてくすくすと笑った。そうこうしていると、ディオンヌ先生が1学期最後のホームルームを手短に済ませて解散を宣言した。ほとんどの生徒が――私とジュディも含めて――個別に先生に挨拶して、済ませると速やかに寮に戻った。明日から1ヶ月ちょっとの夏休みで、実家に帰る身支度をするためだ。
私も教室を出た廊下でいつものようにディアナとシンディと合流して、4人で寮に戻った。帰寮時の時刻は11時50分で、私たちはそのまま食堂に向かうことにした。今日の昼食分から、学年による利用の時間別けがないからだ。そして席が空いていることを確認すると、速やかに昼食を取った。時間別けがないので長居する訳にもいかない。会話もほどほどにして、20分ほどで私たちは席を立った。食堂を出るといつもの階段付近に移動して、会話の続きを10分ほどした。どちらかの部屋に入ればいいのに、もはや4人で会話をする際は、機密性が高くない限りはここで済ますことが習慣化してしまっている。
本当はもっと話していたかったけれど、私たちは仕方なく切り上げてそれぞれの部屋に別れた。勿論、それは帰省の身支度のためである。私たちはそれぞれの親にお願いして、4人共が14時半に学園に迎えに来てもらえる約束を取り付けた。後1時間と少しで身支度を完了させなければならない(学園生は今日から1週間は学園の滞在を許されていて、それぞれのタイミングで自分達の土地に帰っていく。でも大体は今日出立してしまう)。
私とディアナは部屋に戻ると、早速身支度に取り掛かった。私は一昨日から少しずつ纏めていたので10分と少しで終わったけれど、ディアナは持って帰る小説と置いていく小説の選定に難航してしまっている。私は自身のシステムベッドデスクに座りながら、それを微笑ましく眺めている。それが、今現在のことである。
さて、いい機会なので、あの日から今日までの出来事について、端的にさらっていこうと思う。
あれからレベッカは、教職員の1人に連れられて寮の自室に戻った。同じような格好でエイダも、ユキに連れられて自分たちの部屋に戻っていった。
「ホイットニーさん、改めてこれからよろしくね」
エイダの去り際にくれた一言が、私は嬉しくて仕方なかった。反対にレベッカは無言だったけれど、垣間見えた表情に、少なくとも拒絶的な色合いは認められなかった。いまの私にはそれだけで十分だった。
残された私とケビンはひとまず教職員に連れられて、9月ホール内の普段は教職員だけが立ち入れるエリアの1部屋に入った。彼がそうするように教職員に要請したからだ。部屋に遮音の魔法を展開して2人きりにしてもらうと、私はまずロバートの攻撃から守ってくれたことをケビンに感謝した。ありがとう、と、とりわけ飾らず素直に。彼ははにかんで、当然のことをしたまでだよ、と応えた。
「弟が誰かを傷つけようとしていたら、兄として止めないわけにはいかない。……私はその当然のことが、これまでできていなかったんだけどね」
私は彼に対して、うまい慰めの言葉をかけることができなかった。
「ごめん、空気を悪くしてしまったね」彼は言った。「いま必要なのは労いだよね、お互いの」
「……その通りね」
私たちはその言葉通り、お互いに今日までのことを労った。そして彼は、私が独りで闘っていた時のことまで遡り、慎重に推し量りながらそれを讃えてくれた。それはまるで古の叙情詩のように私の心に深く染み入ってきた。
お互いに言葉を出し尽くすと、彼から小さなケースを渡された。中にはラピスラズリをあしらったペンダントが入っていた。
「このペンダントには合計で90分ほど通話ができる魔力を込めてある。使い方は懐中時計の時と同じでペンダントの裏を擦れば接続しているもう一方のペンダントに知らせがいく」彼は服の下に身に着けていたそれを外して私に見せた。彼の着けていたそれにはトパーズがあしらわれている。「ただし、念話ではなく実際にペンダントから相手の声がして、こちらもペンダントに対して話しかけないといけないから、使う場所には注意するんだ」
ありがとう、と言って私はペンダントをケースに戻して通学かばんの中に入れた。「必要が生じたらまた連絡させてもらうわ」
彼は少し寂しい顔をした。もしかしたらいますぐ身に付けて欲しかったのかもしれない。
「別に、今日はこんないいことがあった、みたいな他愛のない会話のために使ってくれてもいいんだよ」彼は言った。「この前の馬車の中みたいにさ」
「……それだと1日で使いきってしまうかもしれないわよ」
私はそう応えたけれど、実際はとても慎重に使用すると思う。謂わばそれは、寂しい顔をさせてしまったことへのささやかな報いだった。
「ふふ、そうかもしれないね」
彼は歯を見せて笑った。
当然いつまでもとりとめなく話しているわけにもいかなく、私と彼は別れることになった。彼が先に部屋を後にして、私がその10分後に部屋を出た。
またね、彼は去り際にそう言った。
9月ホールの外に出ると、私は顔を伏せて早足で寮まで戻った。寮の扉をくぐると、エントランスで大勢のクラスメイト・同年生が私を待ち構えていた。当然その先頭には、ジュディとシンディとディアナがいた。
次話は明日の19時台に投稿予定です。




