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「ではまず、改めて確認をさせて頂きたいのですが、彼女は、エイダは殿下と対面してどのようなことを話されたのですか?」
「そうですね」と言って、ケビンは一呼吸をいれた。「順序通りに述べるのなら、まずロバートと私を間違えたことを謝罪されて、私がロバートと知り合いなのですねと質問すると、生徒会でお世話になっていることを楽しそうに話されました」
「ありがとうございます」私は言った。「――ちなみにですが、ことロバート様について話されている時の彼女の様子はいかがでしたか」
「――なるほど、やはりその部分ですよね」彼は言った。「エイダさんがロバートについて語っている時、そして私のことをロバートと間違えていた間の表情はとても特別なものに映りました。そう、まさに恋をしている顔でした」
「やはり、殿下もそのように思われるのですね」私は言った。「もちろん私も直接言葉で聞いたわけではありませんし、彼女自身何かしらの行動に移しているわけでもないのですが、身近にいて彼女がロバート様を慕っていることをひしひしと感じざるを得ません」
彼は応える。「もちろん、ただ好いているというだけで罪に問われることがないことは私が保証します。ただ……」
「――殿下が懸念されているところは、私のそれとおそらく一致していると思います」
「と、言いますと?」
そう問いかける彼の表情に、? の文字は浮かんでいない。
「彼女というよりはむしろ、不躾ですがロバート様の態度にこそ問題があると私は考えています。ロバート様は、エイダを利用しようとしています」
「……そう考えた訳を、詳しくお聞きしてよろしいですか?」
はい、と私は応えた。そしてロバートが食堂からエイダを連れ出してから、彼女を生徒会に引き入れた流れを他者が観測可能な範囲において説明した。そこに自身の見解、という名の前世から知識を加えて、レベッカがエイダへ振るった(であろう)暴力についても言及した。
「ロバート様がエイダを生徒会へ招き入れたのは、レベッカ様からの実際的な暴力を可能な限り遠ざけるためと考えるのが1番腑に落ちます。しかし、だったら最適解は自身は彼女に接触せず第三者を遣わせて陰ながら見守ることだと思うのです。それをしないのは別の目的があるからだと私は考えます」
「つまりそれは?」
彼は余計な口を挟まず私の言うことを聞いてくれる。
この先を話すことは、流石の私も少なからずの恐怖を感じてしまう。ケビンは少なくとも、治世に真面目な人物であると私は評価している。『オールウェイズ・ラブ・ユー』にて表現された範囲において。しかしながら、私がこれから話すこととそれを背景にした取引は、その治世にそれなりの混乱をもたらすことになるだろう。たとえそれが道義的に正しくても、大局で判断した際に彼はそれを除かなければならないと判断するかもしれない。ともすれば、不敬罪どころか国家反逆罪を適用して私を拘束しこの口を塞ぎにかかるかもしれない。それはやはり、父や母や弟にまで波及するかもしれない。これもやはり、1つの大きな賭けだ。そうさ、1つの物語の筋書きを改変しようとしているのだ。常に自身の安全が保証された場所からそれを行えるなんて虫のいい考えだ。よしんばそれが可能だとしても、私はその手段を選びたくはない。なぜなら、それはまさにロバートがエイダとレベッカを通して現在行っていることと同質だからだ。自身の欲望のために弱い立場の他者を操り、代わりに血を流させる。私の最も嫌う、恐らくは全ての世界線に巣食ってしまっている構造の1つだ。私はそんなものに頼らない。私は主体的な思考を死守し、そして自ら前線へ立つ。血を流すことを躊躇わない。それがいまの私の信念なのだ。
大丈夫だ、と私は自身に言い聞かせる。先ほども言ったように私はむやみやたら突撃するようなことはしない。きちんと勝算を計算している。そのための準備を私はずっと行ってきたのだ。もし祈ることがあるとすれば、それは彼が多くの物語のキャラクターと同じように個の犠牲の否定を世界の安寧よりも重んじる人であることくらいだ(ただし、それは為政者として不適格だとは思う)。
私は臆する心を抑え込んで、はっきりと言った。「ロバート様は、レベッカ様との婚約解消を企てているのです。学園内で継続的にレベッカ様がエイダに危害を加える状況へ誘導し、立場を悪化させたレベッカ様を切り捨てるおつもりなのです」
「ふーむ」彼も流石に素直な反応は返してくれない。「そうだったのか、とは現時点では言えませんね。これまでホイットニーさんが述べてきた学園内での出来事とその結論の間には速やかに結びつけられない大きな隔たりがあるように感じます」
私はひとまず彼が、ホイットニーさん、と敬意を持った呼び名を継続してくれていることに安堵した。そして彼の反応から、ロバートの闇と言える部分を彼も知覚していることを読み取った。
「もちろん、その隔たりの部分についてこれからお話しをさせていただきます。そして、私の話すことがけしてただの妄想でないことを証明するための証拠も準備しております」
「証拠?」ケビンは私の言葉を抜き出した。「……ひとまず、ホイットニーさんの用意した順序の通りに話していただいてよろしいでしょうか?」
「かしこまりました」私は答える。そして話しはじめる前に1つ唾を飲み込んだ。「――ロバート様が婚約解消されたい理由は主に2つあると考えられます。1つはロバート様自身がレベッカ様を疎ましく思いになっているということです。これは先ほども申しました通りレベッカ様の神経を逆撫でするような行動をロバート様は立て続けに起こしていますし、婚約者同士の間柄なら適切なフォローは比較的容易なはずです。でもそれが行われていないからレベッカ様はエイダとの接触を継続していましたし、過去にも複数の、ある意味で被害者を出してきたことは貴族の娘たちのなかではよく共有された話です。それはロバート様がレベッカ様に対して昔から婚約者としての必要な触れあいを行ってこなかったことの証明だと思います。あのレベッカ様の1種の狂暴性も、それによって形成されたものとも考えられます」
私はここで1つ間を置いた。すると今度は彼が口を開いた。「ここまで私たち兄弟と、そしてレベッカさんの身分を気にせずはっきりと言ってくださると、私としても話がしやすいです」
「と、仰いますと?」私は言った。
「レベッカさんの攻撃性については、正直に申し上げて生まれついての部分もあるのですが、その大部分はホイットニーさんの言うようにロバートが本当は自分のことをまるで見ていないという焦りや苛立ちによってもたらされたものなのです」
彼は『オールウェイズ・ラブ・ユー』のゲーム内で直接は描写されなかった部分についての答え合わせをはじめてくれた。
次話は明日の20時台に投稿予定です。




