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 9月ホール地下の大食堂に着いた時、時刻は12時50分になっていた。9月ホールの1階入口横に大きくて横長の階段があって、そこを降ると食堂の入口がある。入口の上に「セプタンブ」と建て書きがされている。


 メープル色を基調として横長のテーブルが幾つも並ぶオーソドックスな内装をしている。そして、寮の食堂と同じビュッフェ方式を採用している。ただし1度の利用数や規模が寮の食堂よりかなり大きいため(ここも魔法による拡張的空間が採用されている)、好きなものを好きな順に取るなんてことができない。入口付近から列に並んで、主菜・副菜・汁物(スープ)・主食のコーナーを順番に通って気に入った物をチョイスする。だからある程度、事前に選ぶ傾向を頭に思い浮かべておく必要がある。そこをあやふやにして、もし途中で()()()()()()()()()()()、それはそれは悲しいことになってしまう。くわえて、ビュッフェの性格上テイクアウトはできない。だからこそ、学内で最も広い空間を確保してある。


 まず私たちは空いている席を探して通学かばんで席取りをした。昼休憩がはじまってすぐに利用した生徒たちが食事を終えて退散しはじめている時間で、難なく4人分のスペースを確保できた。私たちはさっそく列に並ぶ。ジュデイ・私・ディアナ・シンディの順番で。しかし、待機の列はまだまだ長い。トレイを手に取れるところまで少し待たされる。私たちはその間に、列の横の立て看板に張り出された今日用意されている料理の名前を見て、何を選ぶか考えておく。2分をかけてゆっくりと列が進んで、重ねられたトレイの目の前にやってきた。私たちはそれぞれトレイを取る。そこから料理が並ぶところまでまた少し待つ。


 私は気まぐれに辺りを見渡す。そしてあるところで制止する。「あ……」


 私はわざとらしく声を溢す。するとそれにジュデイが反応する。


「どうしたの、ホイットニー?」


 ジュデイはそう言ってから、私の視線の先を見る。そこには、青みがかった黒い長髪の女の子が座って昼食を食べていた。まるで楽しくなさそうに。


 そう、その女の子はエイダだ。 



「なんやなんや、どないしたん?」シンディが続いた。


 ディアナも続く。「あの人、入学式で新入生代表挨拶をした人よね」


 そうやって言葉にしながらも、私たちは列の流れを乱すことなく着いていく。


 エイダは私たちから10mくらいの距離に、こちらを向いて座っている。カレーライス、あるいはハヤシライスを食べているようだ。エイダの向かいにはある女の子がいて、彼女に積極的に話しかけているようだ。その彼女こそ、エイダのルームメイトである平民の女の子だ。こちらからは後ろ姿しか見えないが、シルバーアッシュのストレートのボブヘアをしている。座った状態での見立てだけれど、エイダと比べると背が10cmほど高そうだ(私より少し低いくらいだろうか)。


「もしかして、ホイットニーが言ってた入学式前に仲良うなった女の子って彼女のことかいな?」シンディが潜めた声で問いかける。


「――そうなの」と私は答えた。「今日もまだ元気がないみたい」


 エイダはルームメイトの言葉にしっかりと反応して笑顔も浮かべようとしているけれど、俯きがちで表情は常に濃い影を落としている(だから私には気付かない。勿論、それを見越していまここまで接近しているのだ)。明らかに無理をしている。その会話の内容はここからでは聞き取れない。しかし、ゲームと同じなら私たちが先ほどしたような初授業がどうだったという他愛のない話のはずだ。ストーリーにさして重要な内容ではない。


「でも、友達がいて一緒にご飯を食べれているようでよかったね」ジュデイが言った。


「その点はね」と私は応えた。


「1人だったらあれだけど、友達もいるならそっとしておいてあげましょう」


 ディアナが言った。寄り添える意思を示してくれただけで、私はとても嬉しく思えた。


「それにしても、()()()えらいべっぴんさんやなぁ」シンディはポツリと言った。



 私たちは並べられた料理を選び取っている間も、チラッとエイダの様子を伺っていた。3人とも本当に優しい。そして皆が自分の分を取り終えられた時、そのイベントが起こった。


 突然、複数の生徒が席を立って気を付けをした。食堂の入り口を向いて。私たちを含め他の生徒は、わけも分からず――勿論、私は分かったうえで――入り口の方へ目をやる。そこにいたのは、実に意外な人物だった。いや、それはあくまでも「オールウェイズ・ラブ・ユー」に対してメタ視点を持たない私以外の人々にとっての話だ。私たちのいまいる世界が筋書きのあるドラマだと理解しているものにとって、それはむしろ当然の()()()()()だった。――勿体ぶる必要もないだろう。そこにいるのは、この学園の生徒会長兼この国の第二王子、かの憎きロバート・ファーガソンだ。 



 ロバートはレベッカと同じように食堂を利用しない。ただし、それはレベッカとまた違った理由によってだ。レベッカの場合それは自身と家の経済状態の誇示であるのに対し、ロバートの場合それは王族としての伝統だ。現在の王室と学園は謂わば同い年であり、その長い歴史のなかで数多の王族が通園してきた。そう、()()だ。王族は寮に入らず、毎朝王宮から通っている。王宮もとい王都は学園から10kmほどしか離れておらず、箒で空を飛べばものの10数分で到着してしまう。それ故、王族がまだ箒に乗れない間は、王室専属の箒ドライバーの後ろに乗っけてもらい、箒に乗れるようになればその箒ドライバーに随伴してもらいながら自ら飛行して学園と王宮を行き来するのだ。それを666年も続けてきた。最初は専用の寮部屋を用意する案もあったが、様々な問題があってそれは実現されなかった。


 食事(昼食)にしたって毎回王室専属の料理人がやってきて、王族分は別に作ってしまう。ロバートの場合、それを生徒会室で食していた。だから、いまこうやってロバートが学園の食堂に顔を出すのはとても珍しいことなのだ。


 席を立って気を付けをした生徒たちは頭を下げて、おはようございます! と挨拶をしていく。それを見て、まだ座っていた他の生徒も(エイダとそのルームメイトも)どんどんと立ち上がって挨拶をして行く。私たちもトレイを手にしたまま挨拶をする。「学園の生徒は身分に関わらず対等」が現在の学園の方針とは言え、王族相手となれば畏敬とまではいかずもやはり線引きは存在してしまう。とりわけ入学式のような行事ではない私的な時間・空間においては。しかし見ていて面白いのは、1年生と上級生で反応が随分と違うことだ。王族のある種の特別待遇について1年以上を見てきた先輩たちは、ロバートの登場に何かしらの問題が発生した可能性を頭に過らせているようだが、1年生の多くはふつうに食事に来たのだろうか? という些事くらいにしか思っていなさそうだ。


 ただし、エイダは違った。エイダは彼を見て恐怖を感じているように見える。トラウマを想起しているのだ。エイダはロバートに、先日にレベッカから受けた暴力の残像を見出だしてしまっている


「おはようございます」ロバートは挨拶を返した。「お食事中のところ邪魔をしてしまい申し訳ございません。どうぞ続けてください」


 勿論、1年生の多くがなぜ生徒会長がそんな断りをいれるのか理解していないような顔をする。


 彼は気持ち早足で食堂を移動する。その目的は勿論、エイダだ。

次話は明日の19時台に投稿予定です。

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