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最初、この作品は「前作は自分の書きたいものを書いたから、今度はなろうでウケるものを書こう」ってはじめたんですが、どうしても自分の書きたいもの、つまりは「村上春樹の語る総合小説を自分なりに」という欲にどうしても負けてしまう。

 

 私とシンディの洗濯乾燥機はその作業を停止していた。私はその蓋を開けて、中の洗濯物を確認する。洗濯物は全てふかふかに乾いた状態であった。私はまずバスタオルを1つ取り出してそれを揉んでみた。まるで焼きたてのパン生地のような弾力があった。私はその感触を少し楽しんでから、折り畳んで持っていた薄めのバッグを広げてそこに入れた。


 私は前世でも数日おきに同じことをしていたことを思い起こす。いま目の前にあるものより一回り大きい規格のものを私は持っていた。洗濯は言うまでもなく、雨の日だけでなく晴れの日でも――いまと同じように――乾燥機能を用いていた。外で洗濯物を干すことは一切しなかった。勿論、最初は外に干していたのだけれど、いわゆる下着を干してはならない、わざわざ男物を買って一緒に干さなければならないという自衛のもとに行っていた。それが結局馬鹿らしくなって、外に洗濯物を干すどころか部屋の外から女が住んでいるという痕跡を目につく限り消し去った。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そうしなければ、女は安住を得ることができないのだ。男がまるで柔軟剤のCMのようにおおっぴろげに外に洗濯物を干せる中、女はまるで悪いことをしているようにこそこそしなければならない。前世において特に悔しかったことの1つだ。そしてそれは、『オールウェイズ・ラブ・ユー』の世界においても変わらない。女子寮には洗濯乾燥機があり、男子寮には洗濯機しかない。つまりはそういうことだ。くわえてこういった差異を一部の男は優遇だ、男性差別だと宣ってきた。ほんと、ふざけないで欲しい。何の気兼ね無く一般生活を送れることこそが優遇と言わずなんと言うのだ? あほくさい。


「性能は十分のようね」


 ディアナは私の洗濯物を見ながら言った。


 そうね、と私は応えた。そして洗濯物を全て回収できると、隣の給水室で水を飲んでから部屋に戻った。


 部屋の中に入ると、私はさっそく洗濯物を畳んで収納にいれた。ディアナは私の作業をじーっと眺めていた。


「畳むのとても上手なのね」彼女が言った。


「ええ」私は作業を続けながら答える。「少し心得があってね」


 前世でアパレル店員をしていたことがあるから、なんて流石に言えない。


「次に私が洗濯した時、コツとか教えてもらえるかしら?」


「勿論よ、喜んで」私は答えた。



 洗濯物を収納し終えると、22時半まで読書の時間になった。ディアナはハードカバーを、私は文庫本を広げる。やっと『孤児たちはみな唄う』の最後のお話を読み終わるも、まだ時間があるので頭からさーっと通して読み直した。そしてちょうど22時半になったので、ディアナに声をかけた。案の定反応はないので、また肩を叩く。


「毎度ごめんなさいね」彼女は言った。「で、『孤児たちはみな唄う』は読みきれたかしら?」


「ええ、しっかりとね」


 まさか、いまから語り明かそうなんて言わないよね?


「いまから語り合おうと言いたいところだけど、明日も朝早いし明日の放課後にしましょうか」


 私は内心ほっとする。「ええ、そうしましょう」


 私とディアナは廊下に出て給水室で水を飲むあるいは汲んでから、部屋に戻って歯を磨いた。そしてベッドに入って横になり、おやすみを言い合った。


 明日から5限目までみっちりと授業がある。そしてまた、()()()()()()()が立て続けにある。しっかりと備えなければならない。目を瞑ると泣き疲れもあってか、森の深部のように静かで重い眠りが速やかに訪れた。



 明朝の起床は5時40分だった。今日の1年生の朝の食堂の利用時間が6時40分からだからだ。今日は昨日と違い、私の方が先に目を覚ましたようだ。薄暗く静かな室内で、ディアナの控えめな寝息だけが耳に入る。私はベッドから出て彼女をお越しに行った。まるで呪いの針に刺されてしまったように穏やかに眠る彼女の横で私は、起きて、朝よ、と声をかける。彼女は読書をしている時と違い、私の声掛けに猫のようにピクッと反応を示してごそごそと僅かに蠢いてから目を開いた。


「おはよう」私は言った。


「おはよう」ディアナも素直に返した。「――あなたが昨日の朝言ったように、寝起きの顔を見られるってやっぱり複雑ね」


「でしょう」私は応えた。「でも安心して、あなたも日中と変わらずもちもちの頬っぺたをしているわ」


「それは、どうも」


 彼女はそっけなく言った。



 私とディアナは交代でシャワー浴びて歯を磨き準備をする。そして6時半になると部屋を出て階段付近に向かった。いつものごとくジュディとシンディが待っていて、私たちは雑談をしながら食堂へ赴き、速やかに朝食をとった(今日はワッフルを使用した所謂ベルギー風だった)。食事を終えるとまた速やかに自分達の階に戻って、登校時間の約束をしてからジュディとシンディと別れた。 


 昨日の新入生オリエンテーションは8時半からだったが、通常授業の日は9時からHRがあり、9時半から50分授業10分休憩の1コマが3つ、12時半から1時間の昼休憩を挟んで2コマ、最後にホームルームをしておおよそ15時40~50分、それで放課となる。そこからは自由時間だ。クラブ活動をするもの、街道沿いの店舗で短時間勤務をするもの、予習・復習をするもの、読書をするもの、怠惰を貪るもの、人それぞれだ。それが私たち1()()()()()()()1日である。その合間を縫って、これから『オールウェイズ・ラブ・ユー』の様々なイベントが発生していく。


 私とディアナが部屋に戻ったのは7時半だった。ジュデイとシンディと約束した時間にはまだ1時間ほど猶予があった。ディアナはいま読んでいる本が後40分くらいで読み終わるから、このまま続きを読んでしまいたいと言った。


「『孤児たちはみな唄う』の感想は今日の放課後、時間を気にせず語らいましょう」


 ディアナは続けて言った。生き生きとした表情で、昨日の約束の再確認をした。


「ええ、そうしましょう」


 しかしいまにして思えば、1時間以内という時間でコンパクトに収めてもらった方が私としては都合がよかったかもしれない。


 とりあえず登校の準備を考えて、8時15分までそれぞれの時間となった。ディアナはさっそくシステムベッドデスクにハードカバーを広げて読みはじめた。私も再度『孤児たちはみな唄う』を頭からサーッと読み直す。今度は10分ほど時間が余ったので、先に歯を磨いて今日使用する教科書を通学かばんに摘めた。そうしていると、決めた時間の2分前にディアナがハードカバーを閉じて、実に満足そうな表情を浮かべた。


「これですっきりと授業を受けられるわ」ディアナは言った。「私は学校の休憩時間にこまめに読書をすることが、どうしてもできないからね」


「そうでしょうとも」私は言った。「もしあなたと同じクラスだったら、学校での読書時間の捻出に協力してあげられるんでしょうけどね」


「そこまでしてもらうとまるで介護されているみたいだから、逆に嫌かもね」彼女は応えた。「この部屋の中だけで私は十分に嬉しいわ」



 ディアナが歯を磨き通学かばんに教科書を摘めている間、私は1時間目の魔法史の――つまりはディオンヌ先生が担当する――教科書の冒頭に目を通した。「はじめに」という項にモータウン学園の簡単な設立の歴史が記されている。きっと今日の授業で、先生も触れてくれることだろう。私は念のため、その説明がゲーム上でされたものと相違がないかだけ確認した。そしてそれに、1文字の違いもなかった。


 ディアナの準備が整うと、私たちはさっそく部屋を後にする。ずっしりとした通学かばんの重みが、とても懐かしいものに感じた。

次話は明日の20時台に投稿予定です。

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