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私はここで、駒の差し手を幾分緩めることにした。盤面上に手を伸ばさず、腕組みや顎に手を当てたりして考える時間を増やす。しかし決めたら手迷いなしにピシッと駒を動かす。これと定めた時の大胆さは無くさない。さて、これでジュディに何かしら影響を与えることができるか。
「んふんふー、ホイットニーも少し苦しくなってきたのかな?」ジュディはそう言うと、前線で隣接していた私の駒を1つ取った。「あぁ、赤だぁ。まぁそうだよね」
流石に、これだけではジュディの心を揺さぶることはできない。私はまた少し考えるポーズを入れる。しかし、その全てを思考に当てているわけじゃない。1手やゲーム全体の時間制限を求めていない以上、あえてどっしりと時間を使うことは空気を支配するのに有効だ。ただ、けして余計な慎重さや臆病さを出してはいけない。それでは空気あるいは流れが逃げてしまう。つねづね、私のおおよその敗因はそれなのだ。
私はとりあえず、もう1つ前線で隣接していたジュディの駒を取った。すっと確認すると、青い幽霊だった。私は1つ息を吐いた。これでお互い3駒ずつになった。
「ふふふー、命拾いしたねー」
ジュディはずっと楽しそうである。
そうね、と私はそれ以上のことを言わない。
さて、ここで一旦、盤面に隣接する駒はなくなった。それぞれが1手同士前進させても、駒が取られることはない。盤面がすっきりしたここいらで配置の詳細を述べてみると、私の駒は私の方から見て縦3マス目の左から1番目(青)と4番目、縦4マス目の1番右(先ほどジュディのコマを取った場所である)。彼女の駒は縦5マス目の左から2番目と4番目、縦6マス目の2番目。駒の状態としては青が1つの私の方が不利かもしれないけれど、全体のラインとしては前進も後進もしやすい点は有利かもしれない。繰り返すが、けして絶望的な状況じゃない。背を見せなければ、私は勝つことができる。
「うん、こうだ」
彼女はそう言って、縦5マス目左から2番目の駒を前進させた。
対して、すかさず私は、縦3マス目の左から1番目、青の幽霊を1つ後退させた。
次話は明日の21時台に投稿予定です。




