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 ガイスターというゲーム、名前は知っていた――もっといえば前世から耳にはしていた――けれど、これまでプレイする機会に巡り合うことはなかった。1人でも遊べるようなゲームは積極的に動くことができても、複数人が前提のゲームはなかなかそうはいかない(それは私が前世にテレビゲームに熱中していた大きな要因の1つだと思う)。だからジュディが、面白そうなゲームがある、と私の前に持ってきた時、私とジュディはルールまったく知らなかった。それも2日前の出来事である。しかしその間7度の対決で、私たちはルールをおおよそ把握し、言い方が少年ぽいけれど熱い勝負ができるようになった。それだけルールが単純明快で、それ故に奥が深いのがガイスターというゲームなのだ。



「先攻後攻決めましょうか」私は言った。「何で決める?」


 ジュディは、うーん、と唸ってから応える。「前はじゃんけんだったから、今回はコイントスにしよう」


 前回は昨日の日中、長距離鉄道の個室で行われたから、じゃんけん以外にポピュラー手段がなかったのだ。


「分かったわ」私は答えた。「じゃあ、コインを用意してもらえるかしら?」


 はいよ、と言ってジュディは再び立ち上がった。「晩ごはんのお釣りで小銭をたくさんもらったからね」


 ジュディは自身のシステムベッドデスク前に立ち、その机上に無造作に置いていた財布を手にして開く。数種のコインを取り出して、トスをするのに適した多きさ・重さのものを選別する。


 満足できる1個を選り抜けると、ジュディは軽い足取りで戻り座った。そして右手親指と人差し指で、持ってきたコインを摘んで見せた。「表か裏かはホイットニーが選んでいいよ」


 コインには100という数字が刻印されているのが見える。そちらが表で、裏には過去の偉人(男性)の横顔が刻印されている。このコインは前世の100円と同価値である。デザインは異なるが、日本で運用されていた紙幣・硬貨と対応したものがこの世界で使用されている。分かりやすくてありがたい。変に凝った設定をつくるよりも、こういった措置のほうがよほどユーザーに親切である。ちなみに通貨の名称はコモンという。


 ふん、と私は鼻を鳴らしてから言った。「表にするわ」


 「よし、いくよ」


 ジュディはそう言って、縦にした拳の親指の上にコインを乗せた。人差し指の腹で支えて、トスの体勢をつくる。


 せーの、と言ってジュディ親指を弾いた。鈍い音をたててコインは回転しながら宙を舞い、頂点にくると落下して、ジュディの左手の甲に着地した。彼女は右手で速やかに蓋をし1秒を置いてから、右手を外した。コインは100の面を天井に向けていた。


「ホイットニーの先攻ね」ジュディは言った。

次話は明日の21時台に投稿予定です。

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