4. 土曜日のケーキ作りと、弟の準矢
(土曜日のケーキ作りと、弟の準矢)
午前十一時頃になって、ようやくお姉さんが起きてきた。
「忙しそうねー」
「忙しいんだから、早くオーダー片付けてよー」
「はいはい、……」
お昼時は豪華ランチをやっているので、少しは忙しいが、基本的に暇な店だ。
土曜日の午後は、私の母の指導のもと、私たちにスイーツを作らせてくれる。
作ること自体も楽しいが、少し完成品を食べさせてくれるのが嬉しい。
キー子はケーキ職人になりたいという。パティシエだ。
私の母も、ただ物ではない。
何でもできる。料理はもちろん、お菓子作り、園芸も得意で店の周りの花々は、母が育てた。店内の装飾も彼女の作品だ。
好きだからと言えば、そうなんだけれども、どれをとっても一流と言える。
ひとつのお店が整うくらいだ。
しかし、私の母をここまで仕込んだのが、田舎暮らしに憧れて行ってしまったお婆ちゃんなんだから、私にも、母と同じように教えて欲しいと思っている。
私の母の教え方だと、教える言葉よりも、私への愚痴と文句の方が多い。
一朝一夕にはできないと分かっているが、母に言わせれば根気がないという。
言い換えれば根性がないと言いたいようだ。
今の時代、根性ドラマは流行しない。
でも、同じ血を引くお姉さんのずぼら差に比べれば、私の方が確りしていると自負している。
午後四時になって、キー子の弟準矢が寝たっきりの母親を車いすに乗せて店に来た。
「何やっているのよ! 外に出して風邪でも引かしたらどうするのよー」
母親は、まだ若いせいか、透き通るような白い肌で、奇麗な人だ。
でも、目はうつろで、表情がなく、口は少し開いていて、唇が渇いていた。
五年の寝たきり生活で、体は小さく、痩せている。
「珍しく目を開けていたから、たまには外の空気を吸わせようと思って、何処にも行くところがないから、お姉ちゃんのところなら大丈夫だと思って……」
母親の介護は、二人で交互に看ている。
平日の昼間は、デーサービスを利用して、二人とも学校に行っている。
「そんな余分なことしなくてもいいわよ!毎日デーサービスに行っているんだから……」
キー子は、車いすに付いているバックの中から、口腔ケアーの濡れナプキンを出して、彼女の唇と口の中を拭いた。
準矢は中学二年生、父親が家を出て言ってから介護に加わった。
まだ初めて半年しかたっていないが、良く面倒を見ている。
少し異常なくらいだ。
その行動には、父親への反発で、意地になっているのではないかとキー子は言う。
「あたしもう、上がりだから、ケーキでも食べていく?」
「そのつもりで来たんだよ」
「そうだと思った……」
キー子と準矢、それに母親、普通なら仲の良い家族に見えるのだが、この姉弟の背負っている荷物は重い。
でも、キー子は言う……
「あたしなんて、楽な方よ。食事介助が無いから、栄養ドリンクを流し込むだけ。一番大変なお風呂はデーサービスで入れてくれるし、後は寝ているだけだから……」
なまじ動ける親の介護の方が大変だそうだ。食事介助に加え、喚いたり、徘徊したり、介護する方は休む暇がない。
私は、今できたばかりの、私たちが作ったフルーツロールケーキとアイスコーヒーとクリムソーダを
キー子たちに出した。