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21. ハナの夢とカナの夢

(ハナの夢とカナの夢)


 四年前、……


「何で言ってくれなかったのよー」

「病気のこと……」

 私は、病室に入るなり怒鳴った。

 しばらく、大学に顔を見せなかったので、電話してみると入院していると言う。

 私は、授業をほっぽり出して、すぐさま病院に行った。

 病室は個室で、ハナは寝ながら点滴をしていた。

「だって、言ったってしょうがないでしょう。良くなるわけでもないから……」

「それは、そうだけど、心配しちゃったわ……」

「……、心配もして欲しくなかったのよ」

「水臭いことをいうのねー、一緒に寝た仲じゃない。もう普通なら夫婦と一緒よ。女同士の場合、なんていうのかしら……、婦婦かなー?」

「一緒に寝たなんて、知らない人が聞いたら変に思うわよー」

「だって十分、私たちって変よ、普通人参なんか入れないわよ。それも、より大きな人参で試すなんて……」

「あ、あーん、そんな楽しいこと、また思い出しちゃうじゃない。今度は、何にしようか……?」

「ナスが定番よ、どう……?」

「入らないわよ、大きすぎて……」

「じゃーゴーヤは……?」

「痛そうじゃない……」

「先を包丁で丸く切って面取りしたら……?」

「いいわねー、美味しそうで……」

「包丁で切るなら、大根も行けそうねー」

「大根―、……、壊れちゃいそうよー」

「大根足のような大根を想像しちゃー駄目よー、細身の真っすぐした大根よ」

「いいわねー、早く退院したくなったわー」

「じゃー、私、野菜たくさん買ってきておくから……」

「お願いねー、今度は大きさで勝負ねー」

「もー、何を勝負するのよー、さっき、壊れちゃうって言ってたじゃない……」

「大丈夫よ、大きくても、何をしても頑張っても、赤ちゃんなんかできないから……」

「また、それを言う……」

「一緒に入院できたら楽しいのにねー、カナ、どこか悪くなりなさいよー」

「ならないわよー、それより早く退院しなさいよー」

「それは、お医者様が決めることで……」


 ハナの病気は、再生不良性貧血、血液を作る機能が低下する病気らしい。

 だから、あの真っ白で美しい肌は、血液が薄いせいの様だ。

 それで、時より貧血を起こして入院する。

 血液が薄いため、抵抗力も薄い……

 今回は、感染症も加わって、長引くそうだ。

 発病は、彼女がまだ小学校四年生の時からだと言う。

 それから、今に至るまで、入退院を繰り返しながら生きている。

 彼女の積極的な生き方は、いつも死と向かい合っていたせいかも知れない。

 彼女が、部屋ではいつも裸でいるのは、パンツやブラジャーなどの体を締め付ける物を着ると、その締め付けているところに、時々出血班ができるのを避けるためだと言う。

 でも、今は彼女の趣味としか思えない。


 六月……、雨の日……

 ハナは退院した。

 退院祝いに、フルーツロールケーキを作って持っていった。

 ハナは、このケーキが好きだ。

 私たちは、部屋に入るルールとして、服をすべて脱いで、裸でいることにしている。

 ハナは、ワンピースパジャマを裸の上から着ていたので、私もクローゼットから、一枚出して着た。

「シトシト、嫌な雨ね……、私、ザーザー雨の方が好きよ。何もかも洗い流してくれそうじゃない。ザーザー雨の音も激しくて、賑やかでいいじゃない。見ているだけならね……、でも、あのザーザー雨の中で、裸で立っていたいなー、きっと気持ちいいわよねー」

「私、前に海で夕立に逢って、水着は着ていたけど、雨が止むまで、ずーと雨に打たれていたけど、そんなに気持ちよくなかったわよー」

「いいなー、私も裸で雨に打たれてみたい……」

「それなら、裸で、外に出たら、シトシト雨でも、気持ちいいかもしれないわよー」


 ハナの部屋は、二階にあり、部屋二つ分の二六畳の大きさで、お風呂場もトイレも付いている。もちろん、小さなキッチンもある。

 私の家とよく似ている。でも、私の家の部屋にはキッチンが付いていない。

 でも、ハナの部屋の半分はアトリエとして使っているので、大きなイーゼルが三台と小さなイーゼルが三台置かれている。

 壁には、ところ狭しと無造作に絵が掛けられている。

 観葉植物のパキラやベンジャミン、アレカヤシ、などの鉢物が窓際を占領している。

 一言でいえば、ごちゃごちゃな部屋だ。

 女の子の洗練された美しさも、可愛らしさも、微塵もない。

 ハナはここで、裸で暮らしている。

「そうねー、……」

 ハナは、いきなりワンピースパジャマの裾を捲り上げて、頭の方から脱ぎ捨て、外に出ようとして、窓際まで行って、止めた。

「……、やっぱり、ここでは、恥ずかしいわー」

「それが、懸命よー」

 ハナは、もう一度戻って来て、裸のまま椅子に座り、ロールケーキを食べた。

「でも、もし雨に打たれるのなら、台風の中がいいなー、そう言う映画あったじゃない……」

「……、『台風クラブ』ねー」

「私も、あんなことしたいなー」

「じゃー、しなさいよ。今年の夏、台風が来たらねー、あの映画も信州の映画だから、あっているわ……」

「じゃー、ハナの夢は台風の中、裸で雨風に打たれることねー」

「もう一つあるわ……、奥穂高のジャンダルムが見たい……」

「……、何、それ……?」

「知らないの……?」

「ジャンヌダルクは知ってるけど……」

 ハナは、ノートパソコンを開いて見せてくれた。

「……、こんな所、登りたいの?」

「登というよりも、見たいのよー、周りの山々と違って、可笑しいでしょう、この山……」

「でも、奥穂高なら、やっぱり山に登らないと行けないじゃないの?」

「そうなのよー、ジャンダルムを見るよりも、奥穂高まで行けるかどうかが問題なのよー」

「……、それは本当に、夢ねー」

「カナの夢は、……?」

「……、……、うー、ハナの夢を叶えることかな……」

「私の夢を叶えてくれるの……?」

「……、そうー、それで、嬉しそうに笑って、私に飛びついてくれるの……、その時が、私の一番の幸せだから……」

「じゃー、ジャンダルムも連れて行ってくれる?」

「もちろんよー、その前に夏休みに入ったら、上高地に行きましょう、大正池に河童橋、……、もちろん、キャンプでね。一緒のテントで寝ましょう」

「本当―、私まだ、キャンプしたことないのよー」

「そう、私はあるわよ。キャンプ道具もあるし……」

「私、持ってない……」

「じゃー、キャンプ道具、買うことから始めましょう。登山靴とか、シュラフとか、リュックとか、……、着る物もいるわねー」

「わー、なんか楽しくなってきた。夏休みが待ち遠しいわー」

「でも、ジャンダルムは、まだ駄目よー、少しずつ山と高さに慣らしていきましょう」

「そうしたら、行けるのねー」

「……、多分ねー」

「早く行きたいなー」

「……、だから、まだだってー」

「上高地のキャンプでいいから……」

「それなら、すぐに行けるわよー」

「……、テントでも裸で寝るの……?」

「風邪ひくわよー、山は寒いから……、エアコンないのよ。でも、二人抱き合って温まりましょう」

「嬉しい―、……」

 椅子に座って、裸で、手を振りながら、ばたばた体を揺すって、喜んでいるハナが可愛い……


「……、そう言えば、私、退院祝いに、シャンパン買ってきたわよ。ドンベリよー」

「ホンと、じゃー、ここからは、大人の時間ねー、大根、買ってきてくれたー?」

「いろいろ買ってきたけど、壊れちゃうわよー」


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