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2. 裸婦の前の席

(裸婦の前の席)


 店がお休みでない日は、平日午後五時から八時まで、私がバイトをしている。

 土曜、日曜日は、朝、起きられないお姉さんの代わりに私と私の母とで、午前八時から店を開けている。

 勿論、平日の朝は、私の母が一人で店を開ける。お姉さんが起きてくるのは午前十一時くらいだ。

 そして、土曜日の一番客は、中学の時のクラスメイトの勉だ。

 彼は、決まって私の裸婦の前の席に座る。

 それから、難しい本を出して、お昼近くまでいる。

「あなた、この席好きねー」

「……、まーねー」

「裸の絵が目の前にあるから?」

「そういうわけでもないけど、でもいい絵だよ……」

「ただのスケベ心でしょうー」

 彼は、薄笑いを浮かべて私を見た。

「君によく似ているね……」

「そうかしら……? ご注文は、いつものね?」

「うん……」

 あえて、私の裸よ、とは言わなかった。

 さすがに、この絵を見ている人の前では、恥ずかしい。

 特に、彼の前では……

 決して、いい男ではないが、印象的に静かな男だ。それに優しい……

 悪く言えば、暗い。

 一年間しか一緒のクラスではなかったが、周囲の男子とはちょっと違う。

 目立たないようだが、その雰囲気の違いに気づくと、目が彼を探してしまう。

 彼も、私を探しているのか、よく目が合う。

 でも、好きとか嫌いとかいう感情はないのだが、気になる男リストの末席に置いている。

 中学を卒業して、別々高校になって、春から母が店を手伝うようになり、私もバイトに駆り出され、誰に訊いたのか、それとも偶然か、あの裸婦を掛けた頃から店に来るようになった。

 それで、決まってコーヒーとミックスサンドを注文する。

 これが彼の朝ごはんなのか……

 そして、難しい本を読んでいる。


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