1.雨の日……
(雨の日……)
七月、雨の日……
小百合は、お店のドアのカギを開けて入る。
電気の付いていない店は暗く、寂しい……
今日は定休日だ。
この店の特徴は、喫茶絵画のお店で、壁一面に絵が飾られている。
決して、有名な絵ではなく、全て、このお店のオーナーの描いた絵だ。
その中に私の裸婦も入っている。
店に出さないでって言ったのに、この絵がとても綺麗で気に入っているからと、是非にと頼まれて仕方なく承知したのだが、私から見てもいい作品だ。
確かに、この絵の裸婦を見ていると、お姉さんの様な露出趣味ではないが、人に見せたくなる。
やっぱりモデルが美しいからに違いない。
この絵は、部屋の窓際で、髪の長い女性が上半身裸で、壁にもたれて、俯いて、デニムのパンツを開いて、たたずむ姿、開かれたデニムのパンツからは、少しだけ白のショーツが見える。
よく描かれるパターンだが、薄暗い部屋と窓の光、その陰影で描かれた裸婦の思わせぶりが、見ている人の想像を掻き立たせて飽きさせない。
何を考えているのか、何をしようとしているのか、俯いた美しい女性と共に愛おしくなる。
小百合は、しばらく自分の裸婦を見てから、キッチンの中に入った。
「よく降る雨ね……」
小百合は、独り言をいって、コンロに火を付けてお湯を沸かす。
お湯の沸く間に、オーブントースターに厚切りパンを入れる。
暗いキッチンの中で、コンロの青白い炎が温かい。
小百合は、慣れた手つきで、コーヒーを四杯分ドリップする。
お盆の上に、コーヒーサーバーとトーストと昨日の残りのサラダの盛り合わせを2人前乗せて、二階へ上がった。
「お姉さん、まだ寝ているのっ!」
小百合は、お盆をテーブルの上に置くと、そのコーヒーのにおいに誘われてか、純子はおもむろに起きだした。
「お姉さん、また裸で寝ているのー!」
純子は、まだ眠たそうに、ベットの上に座って、前に両手をついて俯いていた。
「もう、そんな時間なのね……」
今日は平日、高校生の小百合が帰ってくるということは、もう午後四時を回っている。
「どうせ、お昼ごはんも食べずに寝ていたんでしょうー! お姉さんのコーヒーとトーストも持ってきてあげたわよー!」
「……、気が利くわねー」
「いつものことだから……」
小百合は、早速コーヒーを二杯のカップに注いでから、自分はトーストを取った。
純子は、裸のまま、ベットから離れて、テーブルの椅子に座り、カップのコーヒーを一口飲んだ。
「お姉さん、七月って言っても、今日は雨で寒いんだから、そんな裸でいると風邪ひくわよ」
「そうなのよねー、一度お昼に起きたのよー、昨日の夜、着てるものも全部脱いで、洗濯したんだけど、干すのを忘れてねー、起きて見ると着る物がなくてねー、それに寒かったから、仕方ないから、またお布団の中に入って温まっていたら、寝ちゃった……」
「もうー、何やってんだか……」
小百合は、椅子から立って純子の干してあった下着を見ると、まだ生乾きだった。
「……、こんな日だから、なかなか乾かないわよー!」
「……、いいわよ、乾くまで裸でいるわー!」
「他に、下着も、着る物も、あるでしょうー?」
「だって、出して着たら、洗濯物が増えるじゃないー、増えると干すのがめんどくさいのよ……」
「もうー、そんなこと言ってー」
小百合は、もう一度座って、コーヒーを飲んだ。
「外に出ていかないのだから、裸でいいわー! それにお楽しみもあるしねー」
「なんの、お楽しみよー」
「え、じゃー教えてあげる……」
「……、いいわよー」
「でも、これから私も裸になるから、暖房入れるわよー」
「そうよねー、裸にならないとできないわよねー」
「なにを、やるのよー、そうじゃないでしょう、先週の続きをやるんでしょうー」
「……、そっちの方ねー」
「もうー、時間ないから、早く始めるわよー」
小百合は、立ってエアコンの暖房のスイッチを入れてから、クローゼットの前まできて、ニットのべストを脱いで、ハンガーに掛け、プリーツのスカートも脱いだ。
「……、ちょっとやっぱり寒いわねー」
小百合は、ためらいながらシャツを脱いで、ハンガーに掛けた。
そして、ブラジャーを外したところで……
「……、やっぱり寒いっ!」と言って、ベットの布団の中に飛び込んだ。
布団の中は、さっきまで純子が寝ていたぬくもりで温かい。
純子は、カップのコーヒーを飲み乾すと……
「じゃー、部屋が温まるまで、一緒に寝ましょうー」
純子は、小百合の寝ているベットの中に入って、小百合を抱き寄せた。
「お姉さん、冷たい……」
「さっきまで、裸で外に出ていたからよー、こうすれば、すぐに温かくなるわー!」
純子は、小百合の股の間に足を絡ませて、仰向けに寝ている小百合の上に乗って、ふくよかな胸で胸を擦り寄せた。
「……、あー、ん、お姉さん気持ちいいー、……」
その言葉に刺激されたのか、更に激しく体を揺すって小百合の体になじませる。
純子は、小百合の胸の乳首を口に入れて舌の上で転がした。
「あーん、……、乳首が、駄目よー、……」
純子が小百合の裸婦を描くようになったのも、雨の日だった。
小百合は、びしょ濡れで、カタリーナに飛び込んだ。
「お姉さん、急に凄い雨になっちゃって、傘忘れて、びしょ濡れよー!」
小百合は、制服を脱いで、下着も脱いで、すっぽんぽんになって、純子の前に立っていた。
「……、サリーちゃん、凄く綺麗よっ!」
純子は、小百合の所まで来て、その体の胸のあたりを撫でた。
「もーう、なにいってんだか、シャワー使ってもいい……?」
小百合は、純子に裸を見つめられたことも手伝って、その体を隠すように、お風呂場に駆けていった。
小百合は、バスタオルで体を拭きながら、お風呂場から出てくると、純子は二〇号のキャンバスを前に座っていた。
「サリーちゃん、ちょっとその椅子に座ってみない」
「……、なに、わたしをモデルにしようと思っているの?」
「あたり、前々から綺麗な子って思っていたけど、これほど美しいとは気がつかなかったわっ!」
「それ、わたしの裸のこと……、でも、お姉さんなら、いいわっ!」
小百合は用意された椅子に座り、バスタオルを開いて見せた。
「どんなポーズにするの?」
「まずは、そのままでいいわ……、美しいサリーちゃんの裸をキャンバスに描きとどめておきたいの……」
「じゃー楽でいいわねー! でも、これもバイト代の内よねー?」
「あら、安いモデル代ねー、でも、いけないんだー、援助交際っていうんじゃないの?」
「えー、絵のモデルでも援交になるのかなー?」
「だって、モデルだけでは終わらないでしょうー、……」
純子は、着ていた上着のパジャマを脱いで、小百合の前に立った。
パジャマのズボンは履いていなかった。
「お姉さんだって、綺麗よー! 胸も大きいし……」
「サリーちゃんこそ……、血のつながりねー」
あれ以来、お姉さんのモデルをしている。
でも本当は、お姉さんの描く絵は風景画、それも山の絵が多い。彼女自身、山ガールで山が好きで登っている。
そのお陰か、三十を過ぎても未だ独身で、男の影もない。
お姉さんとの関係は、私の母の妹なので叔母さんにあたる。
小さいときから、良く面倒を見てくれた。今は、私が面倒を見ている。
この店は、お姉さんのお母さんの店。親たちは、田舎暮らしにあこがれて、新潟県の限界集落に夫婦で移住していった。