競技2日目
2023年度、中国マスターズ陸上競技選手権の2日目。
ホテルで4時に起床。
窓外の湯田の町はまだ眠りの中だ。
昨晩、焼肉屋でしこたま食べて飲んだダメージは胃袋に残ってはいない。
五時、デジタルカメラを持って散歩に出る。
マスターズの試合で他県に行ってホテルに泊まった時は、いつもきまって朝の五時ごろ、人影のまだ見えぬ早朝の街を歩くのが私の楽しみだ。
今は7月なので、すでに通りは薄明るいが、秋に行われる試合では朝の5時だとまだ真っ暗だ。
和歌山、三次、奈良、鳥取…、前の晩飲み歩いたその街を、朝の寒さの中、一人旅情に浸りながら歩いたものだ。
さて、湯田温泉のメインストリートを右に折れてしばらく行くと中原中也記念館があり、「中原中也生誕之地」の記念碑がある。
中也が自らの故郷(つまりこの湯田の町)を詠った詩「帰郷」がある。
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「帰郷」
柱も庭も乾いてゐる
今日は好い天気だ
縁の下では蜘蛛の巣が
心細さうに揺れてゐる
山では枯木も息を吐く
あゝ今日は好い天気だ
路傍の草影が
あどけない愁みをする
これが私の故里だ
さやかに風も吹いてゐる
心置なく泣かれよと
年増婦の低い声もする
あゝ おまへはなにをして来たのだと……
吹き来る風が私に云ふ
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中也の生家跡に隣接して井上公園がある。
ここは明治の元勲・井上馨の生家跡につくられた公園。
幕末に京都の政変で都落ちしてきた三条実美ら七卿の宿舎にもなった。
井上馨の銅像や実美が宿舎にあてた建物を再現して建てられた「何遠亭」、中原中也の詩『帰郷』の一節を刻んだ詩碑、一時湯田温泉に住んだ俳人・種田山頭火の句碑などが園内にある。
狭い湯田の街だが随分と個性的な人物たちとかかわりを持っている。
5時40分、ホテルに帰り、コンビニで買ってきたざるそば、明太子にぎり、コーヒーといういささかミスマッチなトリオで腹ごしらえ。
6時50分、ホテルを出、スタジアムまで歩く。
妻と待ち合わせをするサブトラックに行ったところ、どうやら高校生の陸上大会があるらしく中に入ることができない。
8時、運動公園の入り口で広島からやって来た妻と合流し、スタジアム入り口で受付し、それぞれ自分の試合のアップに向かう。
屋外のあまりの暑さにたまりかね、冷房のきいている男子更衣室でウオームアップ。
更衣室でアップするのは初めてだ。
8時40分、選手招集所に行く。Tさんのニコニコ顔。
今日もフィールドはものすごい暑さ。
9時、砲丸投げの公式練習開始。
9時半、競技開始。
1投目:11m32
2投目:11m62(大会新記録)
3投目:11m38
4投目:11m33
二投目は肩の回転がうまくはまった。
自分の持っているM70(70~74歳)の中国大会記録を33センチ上回ったが、自己記録には7センチ足りなかった。
試合後、高校時代短距離ランナーであったTさんと話している時、彼から私の高校時代の先輩Oさんの名前が出た。
Oさんは当時、山口県高校陸上界のスーパースターで、多くのアスリートのあこがれのランナーだった。
試合後、フィールド内で3000m競歩に出ている妻をデジカメで撮り、「がんばれ」と声をかけていたら、競技役員から注意を受ける。
スタジアム内では競技者の写真撮影は禁止で、声をかけてもいけないとのこと。
妻の試合も撮影できないとは、いささか残念。
妻は自分の持っている中国地方記録には20秒ほど及ばなかったが、猛暑の中21分5秒85の大健闘。ゴールでぶっ倒れた妻に肩を貸して日陰まで連れていき、タオルで仰いだり、凍ったペットボトルで冷やしたり。
Sさんが二階席から拍手を送ってくれた。
その4時間後、広島駅で酒の肴を仕入れ、自宅に戻って二人で祝勝会。
二人にとって収穫の多い試合だった。
次戦は9月の兵庫マスターズ選手権。
(山頭火の一句)
炎天をいただいて乞ひ歩く