ケモ耳
「殺気した、から……殺られる前、に……殺ろう、って……」
「五月蝿い。そもそもお前らが来なければ、こんなことにはなっていない」
クレーターの中心。なんでこんな事になったのかを聞くと、そんな答えが返ってきた。
チッと舌打ちする彼は、やはり機嫌が悪そうである。
だが無理もない。お家を建てようとしてた場所が土壌ごと消滅して、今や惨状とよべる有様なのだ。
泣いてもいい。
「どうして殺気を……?」
「お前らが人里に行くなどとほざくからだ。飛び火する可能性がある以上、先に消しとこうと考えるのは自然だろう」
考え方が人を超越している。対話ができるのだから、暴力より先に言葉を使って欲しい。
まあでも確かに、もう少し慎重になった方が良かったのかもしれない。
騒ぎ起こさないように気をつけよ。
「なんで、やめたの……?」
「あ?」
にぎにぎと拳の感触を確かめながら、ウロスさんが彼に質問を飛ばす。
彼女が聞いたのは、なぜ戦闘を続行しなかったか。
確かに寸止めの理由も知りたい。本当に良かった、あそこでやめてくれて。
続いてたら多分地図が変わっていたもの。
「そもそも俺は攻撃を仕掛けるつもりなどなかったのだ。ただ殺気が漏れてしまっただけでな。それをお前が……チッ」
そこでウロスさんが突っ込んで対応せざるを得なくなったわけか……。
彼女を見れば、少しうずうずしている様子。
どうやらまだ戦い足りないらしい。
あれ、人里降りない方がいいかな……?
「それに今は訳あって力を……いや、よく考えれば、なぜ俺がお前らなどに説明せねばならんのだ」
そう呟く男。
どっか行けと言いつつ割と律儀に説明してくれた彼も、どうやらこの状況に嫌気がさしてきたらしい。最初から結構嫌そうではあったが。
彼は唐突に体を浮かせると、上からこちらに指を刺してきた。
「いいか? お前ら。人里に行くならそのダダ漏れで不快な魔力を抑えてから行け。絶対だ。俺の平穏の為に、それだけは守れ。それが嫌ならここで死ね。あと今後一切俺の前に現れるな。殺す」
最後に、クソがと言葉を残すと、どこかへ消えていった。
急にいなくなってしまいちょっと戸惑う。
しようと思ってた謝罪も出来なくなってしまった。
「忘れてた、ね……魔力の、こと……」
なにやら人に会うときは魔力を抑えないとダメらしい。
男が言っていた言葉をウロスさんも言ってきたので、そういうものだと信じる他ない。
合っているかどうかは分からないが、もしかするとあれだろうか。今まで森で避けられていた理由も、そこへ繋がるのだろうか。
「そうですね」
とりあえず、ウロスさんの真似をして魔力の放出を抑えてみた。感覚的に出来はしたものの、少し窮屈な感じがする。
慣れる必要がありそうである。
人の形のままなら、異世界だし意外とバレないんじゃないかと思っていたが、魔力に竜特有の何かがあるのだろうか。
良かった、教えてもらって。
次会ったら謝罪と感謝を伝えることにしよう。
「これで大丈夫ですか……?」
「うん、多分……」
ウロスさんにも確認してもらい、その後は飛行を再開した。
元々の方向に進んでいれば人里があるとのことなので、当然そっちに向かって。
「ウロスさんは、なにか趣味とかありますか?」
「趣味……? ん……分からない」
暇なので彼女と会話をしていたが、全ての会話がこんな感じで終わった。とてもミステリアスな女性である。
しかし、それなりに時間は潰せた様で、森の雰囲気がいつの間にやら変わっている。もしかしたらもう少しで、人里が見えてくるのかもしれない。
というか男が言っていた人里って、一体どれくらいの大きさなんだろうか。
村程度のものなのか、都市と言えるほど大きいものか。
「あ、誰かいますね」
「人、かも……」
そんなことを考えてると、二つの気配を察知。
ウロスさん曰く、人かも知れないとのことで、少しテンションが上がる。
少し飛ばしてそこへ向かった。
「戦ってる……」
現場へ急ぐと、どでかい熊みたいなやつと、灰髪のケモ耳娘が戦っているところが遠目にも確認できた。
武器を使うでもなく、全長3メートルはあるであろうその黒い熊と、野生的な動きで肉弾戦を繰り広げている。
戦闘が終わったら彼女に色々聞いてみようか。
とりあえず、空から登場というのは目立つので、少し離れたところに不時着。
「行かない、の……?」
「その、急に出てきたら向こうも驚──」
木々を薙ぎ倒しながら、すごい速度で熊が吹っ飛んで来る。
魔法で防御しようと構え、ウロスさんが動いてくれた。
前に出ると、その厳つい竜の足でどデカい熊を受け止める。
足の裏で当たり前の様にそれを止めると、速度は一気にゼロへと落ち、暴風に彼女の長髪が暴れた。
「あー……だれかいたかぁ?」
なんかすごい変な邂逅になってしまった。
誤字報告感謝します。