以外と手が早い
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ウロスさん曰く、この森を抜ければどこかしらに人里はあると思う、とのこと。
今は二人で空を駆け、延々と続く樹木がなくなるところを目指している。
「誰かいますね」
「ね……」
そんな中感じた一つの気配。
強そうには感じないが、なんか不思議な感じがする。恐らく普通の人ではない。
それは俺たちが近づいてるのに、全くその場を離れないことからも明白で、こちらを近づかせまいと放つ覇気もその予感に拍車をかけた。
「行ってみてもいいですか……?」
「うん……」
なのでとりあえずそこへ降りてみることにした。
こっちが二人いる故の行動である。いくら気になっても一人だったら多分行っていない。
やはり人は複数人でいると多少なりとも気が大きくなってしまんだな、という邪竜の悟り。
今後は気をつけようと思う。
「チッ……なぜ来た、クソどもが」
到着すると早々、こちらに罵声が飛んできた。
申し訳ないが、なぜと言われても、特にこれといった理由はない。
「竜は中立だろう。ここで俺が何をしても構わないはずだ」
「いや、ただどうしてここに居るのか気になってしまって……」
「そうかそうか、じゃあそれを聞いたら早くここから立ち去れ」
そう言う彼は、こちらが心底気に食わないようで、苛立ちを隠す様子もなく顔を歪めている。
「俺はここで家を作っている。なぜならここに住む予定だからだ。分かったか? 分かったな? それじゃあ早く俺の前から消えろ。二度と俺に近寄るな」
しかし、彼はその歪んだ顔ですら美しいと思えてしまうような、端正な顔立ちをしていた。
横に伸びた長い耳と、靡く白髪。それに差し込む陽光。
一枚の絵画として存在しても可笑しくはない程、優美で神秘的な光景だった。
そんな彼になぜこんなにも嫌われてしまっているのだろうか。会ったばかりのはずなのに。
昔の知り合いとかなのか? 単純に気になる。
「どうしてそこまで、その……」
「あ? お前らみたいなのが一緒にいると平穏が遠退くからに決まっている」
質問より早く飛んでくるアンサー。
詳しいことは分からないが、確かにドラゴン二体は平穏とは程遠いか。
「ストー、行こう……? あれ、煩い……」
「はあ? お前らが勝手にここへ来たんだろうが。いいからさっさと失せろ」
流石にこれ以上邪魔するのは申し訳ないし、ウロスさんもゴミを見るような目で彼を見ている。危ない。
とりあえずここから離れよう。
彼の素性は気になるが、まあ今はいいか。
ここに家を建てるらしいし、聞きたくなったらここへ来よう。
「……マジでもう来るなよ」
彼の願いの篭った、先を見透かした別れ言葉に、こちらも別れの挨拶を返してから空へ帰還しようとして──、
「待て、お前ら」
突如として彼に呼び止められた。
「そっちには人里がある。何しに行く」
「? その人里に、人に会いに行きます」
あれだけ言っといて向こうから話しかけてくるのは驚いたが、幸運なことにこの先には人里があるらしい。
教えてくれた彼に感謝を述べようとしたところで、
「っ……!」
突然彼の雰囲気が変わり──動いたのはウロスさんだった。
「ちょっと待……!」
彼女を中心に周りの重力が変わる。
全てのものが下へ下へと引っ張られる。
樹々は潰れ、地面は崩壊していく。
そんな中で既に彼女は男を破壊すべく、体を貫かんと右手を繰り出していた。
しかしそれは躱され、いつの間にやら背後に回った男の蹴りが飛んでくる。
「……」
「チッ」
それを防ごうと構えられた彼女の腕に当たる直前で、男の足は止まった。
それと同時に重力も正常に戻っていく。
クレーターできてるからもう手遅れだけどね。