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名前

「おー……」


 黒い鱗に覆われた、化け物のような手足。

 角、尻尾、翼、その長い髪に至るまで、全てが漆黒。

 先の巨体に見合った、恐らく2メートルを超える長身。

 そしてそれだけに止まらず、とにかく全てがデカい。

 言うなればムチムチ。いやムッチムッチである。

 眼福、というやつなのかもしれない。


(これ、久しぶり、かも……)


 どうして人型になったのか。もしかしたら自分に合わせてくれたのかもしれないが、詳しいことは分からない。分からないが、彼女の変身を見て体が思い出したらしく、竜と人を行き来できる魔法が分かった。

 色々と、ありがたい限りである。

 しかし、よく考えなくとも無茶苦茶な魔法だが、竜はみんなこんな無茶苦茶ができるのだろうか。


(待って、ね……口も、使う……)


 急に声を出すのは難しいらしく、「あー、あー」と彼女は声のチューニングを始めた。

 律儀にそこまで合わせてくれるようだ。


「……」


 竜になりたい。

 先に見た、ロマン溢れる黒龍の姿がどうしても脳にチラついてしまう。

 彼女のチューニングがどれくらいかかるかは分からないが、一瞬なるくらいなら許されるだろうか。

 普通に生きてて竜になれることなんてそうそう……いや絶対にないのだ。

 成人男性の童心が滾ってしまっても致し方あるまい。


「すみません、一度竜になってきてもいいですか……?」


(ん……)


 彼女の多分了承も得たところで、一度空へ舞い上がる。

 地上を巻き込まないであろう場所まで離れ、竜形態になれるよう念じながら魔力を放出した。

 自然と頭に浮かんできた、この厳めしく禍々しい竜が、恐らくこれから変身する邪竜本来の姿だろう。

 数瞬の後、目を開ければ──、


(うわ……!)


 ドラゴンになっていた。

 全てがミニチュアサイズに見える。

 しかしなんか手足が……というか、体全体の違和感がすごい。

 体が覚えているのか、割りと自由に動けはするのだが、何か錯覚を起こしているかのような違和感がずっと付き纏う。

 あとなんか、魔力を消耗する感覚もある。

 取り入れている魔力の方が遥かに多いので問題はないが、確かになにかを使ってこの状態を維持している感覚があるのだ。

 端的にいえば、人型の方が楽。

 慣れの問題なのだろうか。


(でも楽しい)


 とりあえず空を飛び回り、この体に慣れるよう専念する。

 全部は見えないけど、色はやっぱり緑っぽい。

 それと大きさは具体的には分からないが、彼女よりは全然小さい。多分半分ちょいくらいしかない。

 俺が小さいというより、恐らく彼女が竜の中でも相当大きい方なのだろう。きっとそう。

 自分が小さいなんて思いたくない。男はみんなそう。


「疲れる、よね……ずっと、人、は……」


 人型に戻り地上へ帰ると、巨竜な彼女は発声ができるようになっていた。


「そうですね」


 正直人型の時の方が楽だが……竜としてはかなりおかしな状態なのかもしれない。

 元人間であることが影響しているのだろうか。それともあの適当な神の仕業か……。

 いくら考えても仕方がなさそうだ。

 何にせよ人型が楽で良かった。元人間としては人と関わっていきたいし。


「本当に、好きなんだね、人間……」


 しかし彼女は恐らく、自分が竜形態になったときの魔力を消耗する感覚を、人型になっているときに味わっている。

 物騒なところもあるが、優しい竜なのかもしれない。


「あなたはどう……あ、その前に名前を伺っても大丈夫ですか……? 自分は須藤といいます」


 そういえば名前を名乗ってなかったし、聞いてもいなかった。


「ストー……。名前……確か、ウロス……」


「ウロスさんは人間、どうですか?」


 ウロス。

 外見もそうだが、名前もかっこいいな。

 一体何年森に篭れば、自分の名前が曖昧になるのだろうか。


「んー……興味ない、かな……」


 これは多分好きから一番かけ離れてるやつだ。


「いや、そもそも……知らない、かも……あんまり……」


 虫に全然興味ない人、みたいな感じだろうか。

 そう考えるとドラゴン的には普通なのかもしれない。


「なるほど……それじゃあ人に会える場所とかも、知らないですか?」


「知らない……最近、動いてない、から……」


 最近とは直近何百年のことだろう。少なくとも数年程度じゃすまなそうである。

 まあともかく、次は人に会いたいと考えていたので、彼女とはここでもう少しお話しをしてお別れだろうか。

 いやでも正直森の中で一人は寂しい。

 ……暇だという話だし、もしかすると流石に暇を持て余して何かしたいとか思ってるのかもしれない。

 一度聞いてみようか。


「この後、人間に会いに行くんですけど……一緒に来ますか?」


「うん、行く……」


 そんなわけでパーティーにウロスさんが加わった。

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