初めて会う人(?)
(あれ……聞こえてる、かな……?)
突然の出来事に戸惑いつつ、しかしなんとなく会話する方法はわかるので、応答してみる。
(聞こえてる……ます)
初対面でタメ語は良くないと思い、敬語を付け足す。練習しておけば良かった、会話。
見ての通り話すことは得意ではないが、こっちに来て初めての人だ。応答出来ていることを願う。
(こっちに、用事があるの……?)
良かった、声は届いてるよう。
(あ、と……? こ、こっち、ですか?)
(こっち……来てるでしょ……?)
(?)
(……?)
会話ってこれであってるっけ。
しかし、こっちとはどっちだろうか。
もしかするとかけ間違いの可能性も──あ。
(この先の大きい気配の……?)
(多分、そう……)
なんと有難いことに、正体不明の馬鹿でか魔力さんが、こっちにコミュニケーションを取りに来てくれたらしい。
思ってたのと違ってだいぶ友好的だ。それに声から推測するに女性のよう。
良かった。これで気を張らずに、かつ安全に移動ができそうだ。
(あー、ただ気ままに彷徨ってただけで、特にこの先に用事はない……です)
(そう、なんだ……)
これで多分向こうも安心だろう。
何せ得体の知れない不審者(邪竜)の目的が、自分じゃないと分かったのだから。
そう考えると申し訳ないことをしたかもしれない。
(うち、来る……?)
そして唐突に、彼女からおかしな提案が飛んできた。
不審者をお家へ招待とは、なかなかにワイルドな人だ。
だが呼ばれてしまってはこちらとしては行く他ない。
第一村人の歓迎である。そう無碍には出来ない。
それに異世界にはまだ一人もお友達がいないわけだから、築けるのであれば友好関係を築いておきたいし、何より異世界人と話してみたいし。
色んなことを聞けるかもしれない上に、こちらに来て初めて人と話せる。いいこと尽くしだ。
そんなわけで少しやり取りをした後、俺が彼女の元へ直接向かう運びとなった。
わざわざ迎えに来てもらわなくても、大まかな場所は掴んでいる。
そして場所は大体で問題ないはずだ。何せ、デカいから。
「わー、で、デカ……」
そんなわけで、速度を上げて移動し1分ほど。
無事彼女の元へ辿り着いた。
(来たんだ、ほんとに……)
竜が、そこにはいた。
まず印象的なのはその大きさ。学校の校舎、いや多分それ以上に大きい。
恐らく縦横100メートルに収まり切らない。意味分からないくらいデカい。
そして次に目を奪うのが、色だった。
余りにも深く綺麗なその色は、陽光を受けて尚、艶光ることもない。ただそこに黒があった。
(人間、好きなの……?)
彼女にそう聞かれて、それと実際に本物の竜を見て思った。
なんで自分は体が竜じゃないんだろう。
神曰く邪竜とのことだが、今はこうして人を模った姿をしている。不思議。
「人間……多分好きです」
そう返すと彼女は少し間を空けて、口を開いた。
(人間に……封印、されたのに……?)
「……それでも好きですね」
(そう、なんだ……)
邪竜は人間に封印されていたらしい。やっぱり勇者とかがいたりするのだろうか。
そしてそう考えると自分は今、どこから命を狙われてもおかしくないような、危ない立場にいるのかも知らない。
誰にも自分のことを話すつもりはなかったが、話すことで助かる可能性も……いや期待はできないか。
邪竜だとバレた時点で、自分の思想がどうであれ敵対者はお構いなしだろう。
しかし目の前の彼女は、自分が何者かを知っているにも拘らず、一見すると友好的である。
その上、声までかけてきてくれた。是非とも友好的な関係を築きたいものである。
「どうして声をかけてきてくれたんですか?」
(暇だった、から……)
ドラゴンとはやはりそういうものなのか。
自由気ままに生活し、暇を持て余している。そんな自分の中のドラゴン像とこの世界のドラゴンは、多分そんなにかけ離れていない。
エルフとか獣人とかとも会ってみたいな。
(あと、雰囲気も、前と違って……話せそう、だった……)
「前、ですか?」
(うん……封印前、と……同じ、だったら……逃げるか、殺すか、してた……)
やはりドラゴン、酷く物騒だ。
試しに前のことを聞いてみたが、封印前は同じ竜であろうと誰も近づかせず、ただ破壊を繰り返す、孤高の存在であったとのこと。
邪竜が好きとかいう神様は、解釈違いを起こして発狂とかしてないだろうか。
いや流石にこうなることは予期してただろうから、まあ多分大丈夫か。
(ん、私も、なる……)
突然、黒竜が一瞬にして光りに包まれ、消えた。
そして、さっきまでいた場所の中心に人影があった。
「わー……」
近づいてみれば、そこにいたのは俺と似たような際どい格好をした女性。人化というやつか。
異世界すぎる。