見た目
燃えて行く森林を、どこかぽーっと他人事のように眺める。
冷や汗はあるが、焦りはない。そのフェーズはすでに通り過ぎてしまったらしい。
「あ、自分の水……」
必死に頭を回転させると、一つアイデアが咄嗟に浮かんだ。
自分の炎なんだから、自分の水なら消えるのではないかという仮説だ。
できる限り急いで、水を生成する。炎を出した時と同じ要領である。
軽自動車ほどの水球を作り、頭の上から落とした。
「消えた……」
やはりそういうことらしく、纏っていた炎が全て消え失せた。
大丈夫、あとは森の方だけ。
「……」
物凄い火の高さに、素直に絶望した。
もう結構広範囲に広がっちゃってるっぽい。
これ、この量の水を生成できるだろうか……? いや、感覚的に多分できるとは思うのが、爆発とかは起こらない?
なんか火も水も邪竜のお手製だから、変な現象が起こっても不思議じゃないと思うのだが、ここ一体が弾けたりとかは流石にないよな……? それは変に考えすぎか。
しかし水を掛けるにしても、火の燃え移る速さに水の生成スピードが全く追いつかない。
どうしよう……。
「治まれ」
ダメもとで念じてみる。
当然そんなもので治まる訳も……あった。
「まじか」
森に広がっていた火が全て消える。
そこにあったのが嘘のような、夢でもみていたのかと錯覚するような、一瞬の出来事。
まあ草木はちゃんと焼けて真っ黒になってるが。
「……収穫は、あったな」
そう、代償がでかかっただけで収穫はあった。
驚くことに魔法で作ったものは自分で操れるようである。
試しに木一本だけ燃えるように念じてみると、灰になるまで火は消えなかったが、周りには全く燃え移らなかった。
もう少し詳細な検証は必要そうだが、なんか物凄いことができそうな予感がする。
ただ……やはり代償が、代償が気にかかる。
大丈夫かな、これ。怒られないだろうか? だいぶ緑が減ってしまったけど。
「……ダメか」
色々念じてみたけれど、元に戻すことはできなかった。
邪竜の名に相応しく、回復させるような優しい魔法は専門外らしい。
でもしっかり火は消してるから、大丈夫大丈夫。何も悪いことはしていない。
軽く自己暗示をかけつつ、密かに気になっていた自分の顔を水面で確認してみることにした。
「んー?」
少し見づらいが、目の色までわかるくらい、綺麗に体が水面に映し出される。
「あ、かわ……可愛い」
そして確認した顔は、大分可愛かった。
手足にこんなゴツゴツした厳つい鱗を生やしておいて、肌は真っ白に男とも女ともつかないような中性的で整った顔立ち。
黒髪で横髪が少し長いショートヘア。そして癖っ毛。少し垂れた目元と翡翠の瞳。
違和感を感じていた口の中は、やはり牙のような歯が生えている。ちょっと触って確認してみたり。
兎にも角にも、めちゃくちゃに可愛いご尊顔である。神様が気にいるのも頷ける。
そのままの流れで体の方もちゃんと確認しておくか。
「おー……ちゃんとドラゴン」
体はちゃんと人外。
翼や手足など、至る所に生えた緑色の鱗。
顔くらいの長さがある湾曲した角に、蝙蝠のようでいて分厚い羽。身長の半分以上の長さを誇る太い尻尾。手足の爪は大きく、化け物みたいなフォルムしていた。
足に至っては指が三本しかないし。
これを見てもそんなに気持ち悪く感じないのは体の記憶の影響か、それとも新たに発見してしまった自分の中のアブノーマルな性癖か。
手足を握ったり動かしてみたりして感触を確かめる。
「最高にカッコいいし可愛い……」
胸がぺったんこじゃなければもっと興奮していたかもしれない。