約束
「こん、の……!」
怒りに打ち震えたソフィアさんがウロスさんを睨みつける。
ピクピクした眉を見るに相当お怒りな様子。
「やっぱり、今、──殺す……」
「死ねッ!」
ウロスさんが与えた逃げるための時間を、攻撃するために使ったソフィアさんは、このままだと多分死ぬ。
人外的速度で巡る思考の中、そんな結論が導き出される。
このままソフィアさんが怒りの形相で魔法を解き放っても、その前にウロスさんが彼女をぐちゃぐちゃにする。
瞬間移動も同様で、彼女は恐らくウロスさんの攻撃より早く発動できない。その溜めが0コンマ数秒でも、ウロスさんにしてみれば明確な隙だろう。
どうしよう……今何をするのが自分の最善か、考えても分からない。
「んッ!」
「……!」
だからとりあえず、ウロスさんにタックルをした。
彼女の御御足に、結構思い切り。
轟音と共に、二人して森の彼方まで吹っ飛ぶ。
「ストー……?」
どのくらい樹々を倒したか、森に数百メートルの道ができた辺りで勢いは無くなった。
土埃が舞う中、立ち上がると、仰向けのウロスさんが視界の下に映る。
「ふー……」
ともかくこれでソフィアさんは助かっただろう。頭を冷やして逃げてくれてると助かる。
どうか追いかけてはこないでくれと切に願う。
もうこれ以上の修羅場は本当にいらない。
「ウロスさん、やりすぎです……」
「ん……」
「本当に殺そうとしてましたよね……?」
「うん……まあ、いいかな、って……」
中々に恐ろしい価値観である。
まあ竜とは得てしてこういうものなのかもしれないが。
「ストー……もう一回、寝る……?」
それよりも、といった様子でそう提案してくる。
どうしよう。このままだとその内とんでもないことをやらかしそうである。今さっきの含め、未遂は既に幾つかあるし。
人と繋がりたい自分としては、非常にまずい問題だ。
何とかしなくては。
「ウロスさん」
「なに……?」
「こういうことが続くようだと、一緒に遊べなくなっちゃいますよ」
「なん、で……?」
「あなたと一緒にいない方が、都合がいいからです」
彼女を連れて人前に行くのは、リスクが大きい。
この森の中と違って、人が生活する場所にはルール、秩序がある。彼女にとってその中で生活することは、恐らく窮屈で、簡単なことではないのかもしれない。
それでも彼女には、人は、他人は、いいものだと思ってもらいたい。それが彼女の生活をきっと豊かにしてくれるから。
なんて尤もらしいことを語ってみたけれど、こんなものは建前である。本音は、まだ彼女と別れたくない。ただそれだけ。
彼女が頑張ってくれたら、もう少し一緒にいられるかもしれない。そんな子供みたいな理由だ。
今まで通り森で暮らしてもらう方が彼女には楽かもしれないけど、それはちょっと寂しいじゃんね。
「やだ……」
「だからこれからは……」
「やだっ……!」
んー力が強い。
仰向けのまま思い切り抱擁をしてきたので立ちながら耐えていると、先に耐えられなくなった地面が根を上げた。轟音と共に辺りが崩壊していく。
駄々をこねる子供のようなのに、彼女がやると最早災害である。
「あの、ウロスさん」
「やだ……離れ、ない……」
「離れませんから、魔法だけ止められますか……?」
「……? ごめ、ん……無意識、で……」
彼女の腕の力が弱まり、重力の暴走も治まる。
フィジカルだけで災害を起こせるのに、感情が昂るとお得意の重力魔法を暴発してしまうらしい。……本当に人里には降りない方がいいかもしれない。
でもとりあえずこれで、これ以上被害は大きくならないはずだ。
もう立派なクレーターではあるけど。
「……落ち着きました?」
「うん……」
彼女は状態を起こし、座ったままこちらを抱きしめてきた。
身長差の関係で彼女の顔がお腹に来る。
少しくすぐったいがまた取り乱しもらっては困る。このまま話をさせてもらうことにする。
「ウロスさん、約束して欲しいことがあります」
「うん……」
「これからは、攻撃される前に攻撃をしないこと。そして、人前で魔法を使わないこと。……守れますか?」
「うん……」
……本当にわかっているだろうか。
「……破ったら一緒に居れませんからね」
「っ……うん……」
ギュッと腕の力を強めてくる彼女。
恐らくきちんと伝わったのだろう。
そんなわけで、急に一人はやっぱりちょっと寂しいということで、多少の葛藤はありつつもウロスさんを信じることにした。
自分もだけど、自然破壊は気をつけていこうね……。




