おかけになった電話番号は。
彼女にはつきあっている男がいた。
俺には結婚間近の彼女がいた。
俺達が出会ったのは共通の友人の結婚式の二次会だった。
ふいに絡んだ視線を、お互い無視できなかった。
「こうして逢えるのももう終わりだ。だから今日は思いきり君を貪りたい」
「ひどい男ね。結婚前の浮気なんて」
「君だって彼氏がいるじゃないか。プロポーズを受けるんだろ?」
「もちろんよ。だから最後に燃えるような恋がしたかったの」
彼女は無邪気に笑った。
彼女の恋人はおとなしそうな男だった。二次会ではしゃぐ彼女をにこやかにみていた。
「お父さんかお兄ちゃんみたいな感じよ。安心するの。私を絶対裏切らないってわかるの。でも物足りないのよね」
彼女が俺に跨がった。
「たまには肉食獣の喰われたい?」
俺は彼女の乳房を下から眺めて手を伸ばす。
「いいじゃない。あなただって彼女が物足りないから私に手をだしたんでしょ?」
「君に恋しただけさ。だから俺の恋は君で終わり。彼女は結婚相手として理想的だからね。物足りないわけじゃないよ」
「よく言うわ。でも私も恋はこれで終わりよ。あとは穏やかな愛に生きるの」
「意見があったな」
「そうね」
二人でクスクスと笑いあい、彼女は俺の指の動きにかわいい嬌声で軽くのけぞった。
裏切るほうはいつも気軽だ。
一瞬の出会いに躊躇なく心を燃やして、傷つく人間のことなど考えない。
必ず待っていてくれると、何故思ったのか。
真夜中、声が聞きたくて・・。
━━━おかけになった電話番号は現在使われておりません。番号をお確かめのうえ・・・
聞こえた無表情な声。
さよならさえも言ってくれなかった。
裏切った俺が言えるセリフでもないけれど。
何もない部屋ね。
すべて捨ててしまった。
二人で使ったもの、
二人が過ごした時間、
春、夏、秋と育んで。
信じたのが愚かね。
ほら、涙の粒が転がっている。
真珠のようね、拾いましょうか。
真珠の粒が
部屋のあちらこちらにころがって、
いっこいっこひろい集める。
雨の日、
晴れの日、
曇りの日、
雪の日だけが来ないまま、
真珠の粒をひろいあげ・・・。
さあ、前を向いて歩いてゆきましょう。
あの人には何も言わずに。
人生が終わったわけじゃないんだもの。
これから迎える冬の季節のその次は、
美しい、花咲く春がやってくるのを知っているから。
※この作品は過去に他のサイトで公開した、
『おかけになった電話番号は。』と
『真珠の色は透きとおり』の詩二作品を合わせて新たに書きたした作品です。