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第15話 魔術師の影


地竜に乗ったハナムラは大きく腕を振る。

「行くぞ」

商隊は再びレイセアを目指し進み始め、ハナムラはギダンの走竜に地竜を寄せる。

「どう思うギダン」

「あん?」

「開拓団さ」

「どうもこうもねえな」

ハナムラは腕組みをしながら、あご髭を触る。

「そうは言っても俺たちにも関わって来る話だ。ようやくここまで来たんだぞ。俺たち青狼旅団はよ」


ギダンは頭を掻きながら後ろ、開拓団が去った方向を眺める。

「ああ。そうだ。開拓団が手を出す場所が青狼王の領域なら数週間。毒王の領域、アイリスの情報通り王不在なら半年は待つだろう。とにかくいまは情報を集めるしかねえ」

「それにしたって分が悪いぜ」

「ぼやくな、ハナムラ。開拓団だって馬鹿じゃねえだろう。開拓はできる限りレイセアから離れた場所、バルドアに近い場所を選ぶはずだ」


「南、毒王の領域の可能性もあるか……」

ハナムラの視線がアイリスを捉える。


「だがいずれにせよ、大森林に手を出す事に違いはねえ。しばらくは綱渡り、間違いは出来ねえぞ。こりゃ正念場だ、ハナムラ」

ギダンは渇いた笑いをあげる。


ハナムラが考え込む。

「しかし誰なんだ、この絵を描いた野郎は。ケツを持っているのはポンダルト伯爵なんだろうがよ」

ギダンは少し考えていたが、何かを思い出したようにハナムラを見る。

「仕掛けた野郎か。数ヶ月前にポンダルト伯爵が魔術師団を雇い入れたって噂があったよな」


「ん?ああ。結局そのあと噂も動きもなかったから、ガセだと判断したやつか」


「さっきの開拓団だがよ。魔術師は白いローブを着た魔術師5人だけじゃねえ。あと何人かいた。気配しかわからねえが」 

「7人です」

アイリスがギダンに声をかける。


「なんだと?」

「結界を張って姿を隠していた魔術師が2人、こちらを警戒していたようではありませんでしたけど。1人は長い顎ひげ、白いローブ、魔術師の象徴の螺旋の蛇が入った紋章が付いていました。もう1人は濃紺のローブ、それしかわかりませんでした」

(ヌフフ。魔力の流れに関して、俺たちは欺けないのだ)

(ホホホ。エルマは気にも留めていませんでしたぞ)

エルマは走竜にぶら下がったままでにやりと笑い、ヴァルは顔を後ろに向け、遠くに去った開拓団に鋭い眼差しを送る。


ギダンがこめかみを親指で押さえる。

「螺旋の蛇が入った紋章か。ポンダルト伯爵の魔術師ギルド、フォーティンの紋章が、生命樹に螺旋の蛇だ。長いあご髭ってことは、副ギルドマスターのクロスト卿か?」

ハナムラもうなずく。

「あご髭は一人のはず。金で王国魔術師団から引っ張ってきたってやつか。そうなると、白いローブは魔術師ギルド、フォーティンのメンバーで五輪花騎士団付きってことだな」


ギダンはつぶやく。

「濃紺のローブが何者か分からんが、結界を張ってたってことは、少なくとも王国魔術師クラスか?」

アイリスはギダンに答える。

「濃紺のローブを着た方が、魔術師として上位と思いました」


ギダンは鋭い目でハナムラを見る。

「ハナムラ、すぐにマックスを呼び戻せ。嫌な予感しかしねえ」


「わかった。おい、テキ!」

ハナムラは近くにいたテキを呼ぶ。

「開拓団を追いかけたマックスを拾って来い、状況が変わった、やべえ、そう言え。徒歩だ、そう遠くまでは行って無いはずだ」


「了解です」

テキは馬型の魔獣の首を返すと、商隊から離れて行った。


(どういう事なんだ)

(わかりませんぞ)

エルマとヴァルは、ギダンの行動を理解できず、首をかしげ合う。

アイリスはそんな2人を見て、クスリと笑う。

(恐らくですが、魔術師を警戒したんだと思います。上位の魔術師の様でした。魔術師の索敵には、それなりの装備がないと対応できないですから)


ヴァルはうなずく。

(ホホホ。なるほど、普段から結界を張るような魔術師、警戒が強いと考えたわけですな)

(ええ、後は見つかったらまずい、ということでもあるのでしょうね)


ハナムラはテキの後姿を見送る。

「ギダン、なんでそんなに警戒するんだ?単に開拓団の後を追いかけるだけだぜ。街道を進む方向が同じだけだろう」


ギダンはため息をつき、開拓団が進んでいった方向を見る。

「濃紺のローブは、伯爵領に正式には存在しねえ魔術師団の可能性が高い。その上、わざわざ姿を隠して開拓団に参加してるとこなんざ、ロクでもねえだろう」


ハナムラは腕を組み、あご髭を触りながらギダンを見る。

「見つかったら捕まるだけじゃ済まねえってことか」


ギダンはうなずく。

「今のマックスの装備じゃ魔術師の結界に対処出来ねえ。うちが伯爵配下を警戒してると思われたら厄介だ、今は仲間を危険に置けねえ。仕切り直しだ」


ハナムラもうなずく。

「だがどうする。開拓団の動きが読めなければ、どのみち詰むぜ」


「それについてはちっと当てがある」

「当てだと?」

ギダンは後ろに乗せたアイリスをチラリと見る。

(うわー見てる!こっち見てるぞ!)

(完全にアイリスにロックオン!しましたのう)


(えー、困るなあ)

(やや!意外に好感触ですぞ。エルマ!)

(確かに温かく緩やかな波動!)


(ちょっと。2人ともそういうデリカシーが無いのは禁止します)

(ん?)

(ほ?)


アイリスはさらりと話題を変える。

(あ、ほら街が見えてきました。なるほど。城門の外に街が出来ているんですね)



アイリスの視線は、街道沿いに広がる街並みを捉えていた。

「これがレイセアの街の外周、城門街だ。1万人ほどが生活し、東に向かって成長している」

ギダンは気を取り直して、アイリスに街の説明を続けていく。


2mほどの木の板で出来た壁が街を囲っており、木柵で出来た入り口が街道上に見えてくるとギダンはハナムラを呼ぶ。

「ハナムラ、頼む」

「おう」


そういうとハナムラは木戸に向かい、木戸番の衛兵に鑑札を見せ、何かを身振りで伝えている。

許可はすぐ降りたのか、ハナムラが戻ってくると商隊は街道に設置された木戸を潜り、町に入っていく。


「僕は街に入って良かったんでしょうか」

「とりあえず青狼旅団預かりだから気にすんな。細かい話はあと、まずは荷下ろしだ」


木戸近くのそれほど大きくは無いが、しっかりした店構えの商店の脇に商隊は入って行く。

わき道から商店の裏に向かうと、そこには商店の店構えの数倍はあろうかという、壁が無く屋根だけの大きな荷置き場が建てられており、荷獣車はその中へ入って行く。


そこには、商店の従業員と思わしき揃いの「ウォレス丸商」を染め抜いた前掛けを締めた数人と、狼の焼き印を青く塗った装備を身に着けた青狼旅団の数人が待っていた。


荷獣車から降りたウォレスは大きく手を叩く。

「皆さん。無事に商品は望むものを仕入れできました。ゴードン、荷下ろしの監督と、商品の確認をお願いします」

ハナムラはゴードンと呼ばれた男の脇に立ち、荷下ろしを指揮している。

「おう、お前ら。丁寧に荷を下ろせ」


青狼旅団の屈強な男たちが数人掛りで荷の木箱を降ろし始め、箱は運ばれた先で開けられ、ゴードン達、ウォレス商会の従業員たちが中身を確認し始める。


アイリスは、所在なさげにギダンの走竜の脇に立っていたが、走竜が顔を摺り寄せ匂いを嗅ぎ始めると、エルマから生えていた木の枝を折り、ぼろ布を巻き付け走竜を拭き始めた。

(いたっ!ちょっ!アイリス!)

(え?いいかなーって、ちょうどいいところにありますしね)

(ホホホ、どうせすぐ生えてきますぞ)

(ところで、俺はいつまでここにぶら下がっているんだ?)

(青狼旅団の営所までじゃないですか)

アイリスがエルマを見て笑う。

(それはいつなんだ?)

(まあしばらくはそのままでしょうな)

(なんてこった……)

ヴァルが突き放すように言い放ち、エルマは萎れ気味にぶら下がったまま辺りを眺め、走竜はアイリスのされるがままに身を任せ、気持ちよさそうに目を瞑っている。

そこにテキが騎獣の後ろにマックスを乗せて、集荷場に入ってきた。

それに気づいたギダンが騎獣のくつわを取り、集荷場の片隅に誘導していく。


「おう。テキ、マックス、戻ったか」

「団長、なんだってんだ」


ぼやきながら騎獣から降りるマックスに、ギダンが手を貸しながら説明する。

「あの中に上位の魔術師がいた。うかつに近づくのはやばそうなんでな、1回仕切り直す。それでだ、マックスはアイリスに付き合って買い物に行ってこい」


ギダンはポケットから、小さな革袋を出すとマックスに投げ渡す。

「服一式と靴、下着類は新品でそろえてやれ。あとは、うちの営所に無い生活用品なんかが必要だな」


名前が出たことに気付いたアイリスはギダンに近寄っていく。

「いいんですか?」

「ああ、フォレストボアで元は取るし心配すんな。テキは荷の確認に立ち会ってくれ。マックス、一刻ほどで戻れよ。そのころにはこっちも終わる」

「了解だ、団長」


(俺も行きたいぞー!)

じたばたとエルマが動きだす。


「ええと、ギダンさん、切株を連れて行きたいんですけど」


「おう?おお、町中であれが動くのは目立つからなあ。だめだって言いてえ、とこだが……」

(いやだーー行きたいぞーーー!)

(わがままですのう)


自分の走竜の後ろの荷に括りつけてある切株が四肢をわさわさと動かしているのを見て呆れてため息をつく。

「なんかもう、じたばたしてるじゃねえか」

「ほっとくと余計に動きますよ。僕が背中に背負う、ってのはどうですか」


ギダンは右手の親指でこめかみを押さえていたが、顔をしかめたまま何度かうなずく。

「仕方ねえか。動かすなよ。ただでさえアイリスはきれいな顔をしてんだ。すぐ目を付けられるぜ。よくて盗まれるか攫われるか。街中じゃ俺ら青狼旅団の力は弱いんだ」

「はい」

「何かあったら、何が何でも営所に向かえ」


ギダンはマックスの肩を掴むと顔を寄せる。

「マックス、兵隊連中に目を付けられるなよ。アイリスの安全が最優先だ。万一の時は手段を選ぶな。それと」


ギダンはマックスに小声で耳打ちする。

(絶対に切株を動かすな。アイリスが困ったら絶対に動くぞアレ。気を付けろ)

マックスはアイリスと切株を交互に見て、無言でうなずく。


アイリスはギダンにエルマを走竜から降ろしてもらうと、エルマを背負おうと背を向ける。

「切株がアイリスの大事なもんなのか。魔術師ってのはよくわからねえな。ま、フォレストボアの肉もあるしな」

マックスは、そうつぶやくと、背負っていた荷物を降ろし自分の荷を外すと、背負子をアイリスに背負わせて、エルマを座らせ、腰に巻いていたベルトを2本外し、エルマを固定していく。

「よいしょ」

アイリスがエルマを背負って立ち上がると、マックスが声をかける。

「意外に軽いのか?それはよ。ま、行くか。アイリス」

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