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第12話 出会いの夜

ギダンは額から流れる汗を感じながら切株を眺める。

「お、おう、そうか」

(えー?なんだこれ。わかんねー!何なのこの子。魔術師なのにゴーレムで?物理で殴る子なの?なにそれ)

「あ!ゴーレムマスター!」

「違いますよ」

(うお!声に出てた!やべー)

ギダンは咳でごまかす。


(もう!この設定、本当に大丈夫なんですか?)

(わかんねえけど、本当のほうがやばいんだろ?)

(これは儂らでは役に立ちませんな。大丈夫と思いますがのう)


少し困ったアイリスはそっと話題を変える。

「ギダンさん、そろそろ日が暮れますが、どこかで野営をするんですか?街までの距離を知らないので、僕たちは早めに休もうと思ってます」


ギダンは無精ひげを弄りながら考え込むが、すぐに決断を下す。

「レイセアの街までまだ少しある。俺たちも野営を入れるつもりだ。それでだ、アイリス。俺たちと一緒にどうだ?毒王の話も詳しく聞きたいしな」


アイリスは意外な提案に少し驚く。

「僕を盗賊団の一員か何かと疑っていたんじゃないですか?」

「ん?んー。まあな。お前さんは傍からみたら相当な不審者だぜ」

(すげえな、この小僧。まだ10歳ってとこでゴーレムと使い魔を使役するわ、どうみても特殊個体のCクラス以上の魔獣2匹を無傷で狩る、その上こっちの意図を読むか。こりゃあ拾いもんかもな)

ギダンは顔をしかめることで驚きを隠す。


アイリスは服をつまんで笑う。

「そうですよね、こんな格好ですし」

ギダンはアイリスを見てから切株に視線を移す。

「俺からしちゃあ、服装よりゴーレムのほうが問題だな」

(っ俺!)

エルマがびくっと震える。

(エルマでございましたな)

ヴァルが冷たくエルマを見る。

(どうします?)

(いいんじゃねえか?いいもんもってるぜ。コイツ)

(そうですな、悪意なども感じませぬ)

「じゃあ、お世話になっていいですか?」


「おう、野営の予定地はすぐだ。そのゴーレムは足を速められるか?」

「はい、大丈夫かな?」

エルマは元気よく返事をする。

(おう!)


ギダンはうなずくと右手を上げ、指を立てる。

傭兵団は臨戦態勢を解き、商隊は速度を上げ、追いついてきた。

「アイリス、俺の後ろに乗んな、走竜は乗ったことがあるか?」

「はい。大丈夫です」

アイリスは差し出された手につかまりギダンの走竜に飛び乗ると、ギダンは走竜の速度を落とし、商隊に合流する。


商隊の先頭で見守っていたハナムラとマックスが近寄り、ハナムラが面白そうに笑う。

「なんだ。拾ったのか」


「ああ、この小僧、面白そうだ。マックス、1隊連れて先行しろ。野営地の安全確保と受け入れ準備を頼む」

「了解だぜ。お前ら、ついてこい」

近くにいた5人ほどに声をかけ引き連れると、マックスは足で獣竜の腹を軽く叩いて駆けだす。


「ハナムラ!指揮をそのまま任せる。少し足を速めて進行してくれ。

俺はウォレスさんに説明に行く」

「わかった。後で聞かせろ」

「ああ。あと、あの切株と担いでる魔獣がウォレスさんの目に触れないようにしてくれ」

「なんかの特殊個体だな。あの魔獣。理解した、まかせろ」


「アイリス。切株はハナムラ、コイツだな。こいつの外側で歩かせてくれ。あの魔獣は商人の目に留まると面倒になる」

ギダンはハナムラを指さし、アイリスに説明する。

「はい。わかりました」


ギダンはアイリスを乗せたまま、先頭の荷獣車に向かい並走すると、窓を叩き、顔を出したウォレスにギダンが説明を始める。

「ウォレスさん、問題はなかった」

「なんだったのですか?」

「ナガレの少年を拾った。うちで引き取る」


ウォレスは、信じられないものを見るような目でギダンを見る。

「相変わらず物好きですね。仕事をしっかりと遂行してくれれば私は構いませんよ」

「すまんね、速度を少し上げた。予定通り野営に入る」

ウォレスは冷たい眼差しをギダンに向ける。

「わかっていると思いますが、何かあった場合」

「ああ、うちの責任ってことでいいぜ」

ウォレスは満足そうにうなずくと、馬車の中に戻っていく。


「あの人、一度も僕を見ませんでしたね」

「世の中の人間てのは、大概、見た目で判断するのさ。ま、あいつは金には汚いがそれだけさ。もうちっと目利きを磨けとは思うが、そこまで悪い奴じゃないから気にするな」

そう言いながら、ギダンは商隊の先頭を進む。


野営地は青狼旅団が設置しているもので、街道脇の林の奥に、一見しただけではわからないようにきれいに整備されていた。

野営地についた商隊一行は、荷獣車を中心に集め、円陣を組むように陣を組んでいく。


マックスが周囲の状況を報告に来る。

「特に問題は無さそうだぜ。防柵なんかの拠点装備も問題無し、展開済みだ」


走竜を降り、アイリスとともに街道を眺めていたギダンがうなずきを返す。

少し後ろで、エルマが担いでいた猪とトカゲに布を被せていたハナムラが大声で叫ぶ。

「よし、お前らいつも通りだ。小隊毎で朝まで3交代。飯を食った後はいつも通り。

ギダン隊、ハナムラ隊、最後にマックス隊。飯担当はマックス隊だ。かかれ!明日にはレイセアだ。最後まで気を抜くなよ」


マックスの小隊は、用意したかまどに大鍋を設置し何かを煮込んでいく。


鍋に大きなスプーンを突っ込んで混ぜているマックスの横にギダンは並び、状況を確認する。

「商隊の連中は?」

「もう飯を食ってるぜ」

「早いな」

ハナムラが笑いながら近寄ってきて話に加わる。

「うちと違ってクソまずい携行食を齧るだけだ。早いに決まっている」

ギダンも笑う。

「飯は別の契約にしといて良かったぜ」

「よっ!流石、団長!」

「まずい飯だが、それでも温いってのは大違いだ」

ギダン、ハナムラ、マックスは笑い合う。


その後ろで所在なさげに3人を見ていたアイリスが、ギダンに話しかける。

「これから食事ですか?」

「おう、口に合うか分からねえが、青狼旅団名物の闇粥さ。何が入ってるか、俺らにも分からねえ」

ギダンが笑うと、ハナムラとマックスも笑う。

「まあ心配するな。不味いが食える」

「逆に何か分からねえからいいんだぜ」


アイリスが不思議そうに鍋の中を眺めると、茶色くどろどろとしたお粥のようなものが煮込まれている。

(ホホホ。これは、儂でも何が入っているか分かりませんぞ)

(いろんな野菜屑とか肉屑とか、いろいろ入ってるみたいだけどな)

(猪あげちゃいましょうか)

(それもいいかもな)


ギダンは、アイリスを見て思いついたように1人の傭兵を呼ぶ。

「おい、テキ!」

「なんでしょうか、ギダンさん」

傭兵団の中でも小柄で、アイリスより頭一つほど高いが、周囲の傭兵と比べれば少年と言っていいほどの体格の兎族の獣人がギダンの呼びかけに答える。

傭兵とは思えないほど軽装で、革を当てた上着と腰に小剣を差したのみ。

少し赤みがかった眼と短く垂れた耳を持つ。

テキはテント設営の手を休め、ギダンの元にやってきた。

「悪いが、汚れてねえシャツとズボンはあるか?」

「ああ、その少年にってことですね。あります。ちょっと待っててください」


そういうとテントに戻ると、自分の持ち物からシャツとズボンを出す。

「あまりいいものではないですけど」

「上等上等」

「靴も無いですよね」

「ああ、だが流石に靴の予備はねえだろ」

「補修用の革を使っていいなら作りますけど」

「お、頼めるか?」

「はい。大丈夫です。朝には用意しておきます」


アイリスはおずおずと礼を言う。

「あ、あの、ありがとう、ございます」

「いいんだよ。この傭兵団は困った時には助け合うんだ。それに僕もナガレだったからね」

テキは快活に笑う。


ギダンはブーツに挿していたナイフを鞘ごと引き抜くと、テキに渡す。

「代金の代わりだ。それでいいか?」

「え、そんな」

「いいんだテキ、いいナイフを欲しがってたろ」

「ありがとうございます!ギダンさん!」

ナイフを受け取り嬉しそうにテントに戻るテキ。


ギダンは受け取ったシャツとズボンをアイリスに渡す。

「思い入れのあるもんかも知れねえが、こっちに着替えな」


アイリスは服を受け取ると、布が被せられた魔獣とその横で転がっているエルマを見る。

エルマは転がったまま手を挙げ親指を突き出している。

「ありがとうギダンさん、ナイフまで。そうだ!猪の魔獣、あれを受け取って下さい。どうせ売ってお金にするつもりでしたし、お礼です」


「何!本当か!」

「おいおい、あれフォレストボアだろ。食ったことねえぞ!俺」

話を聞いていたハナムラとマックスが、食い気味に食いついてくる。

ギダンは手で2人を制して布がかけられた魔獣を眺める。

「お前らな。しかしいいのか?あれはフォレストボアって魔獣で、結構な高級品さ。売ればいい金になるぜ」

「いいんです。まだ鎧トカゲもありますし」


「そうか、ならありがたく頂くぜ。おい、マックス。よだれを垂らすな!うちで食うにしても街に着いてからだ」


「えええ!ちえっ!まあ仕方ねえか。明日が楽しみだぜ」

そう言い残して、マックスは自分の隊の元へ向かっていった。


「アイリス、俺のテントはそこだ。着替えてきな」

「はい」

アイリスはギダンのテントに入るとボロ布を脱ぎ捨て、テキの服を着ていく。

「下着もある。良かった。テキさんの下着は普通ですね」

細身のテキの服はアイリスには少し大きいだけで、裾を少したくし上げて、着替え終わる。


着替えが終わったアイリスはエルマを横に置き、ヴァルを肩に乗せ、ギダンとハナムラと焚き火を囲む。

「相変わらず不味いな」

ギダンは器にスプーンを突っ込み、混ぜながらつぶやく。

「分かり切ったことを言わずに、黙って食え」

ハナムラがいまさら何を、といった顔でギダンを見る。

「まあ無理して食わなくてもいいぞ、アイリス」

ギダンは嫌そうな顔をしながら、スプーンを口に運ぶ。


(食べて大丈夫なのか?)

(身体に悪いものは入っておりませんがのう。儂が魔力で調整しますぞ)


アイリスが無言で器の中身を平らげていく様子を、ギダンが興味深そうに見る。

「おお、食い切るか。素質があるな」

(ホホホ、なんの素質でしょうかな)

ヴァルがあきれ気味にギダンを見ている。


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