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第102話 チューイの謝罪

相変わらず話をまとめられていません………

まとまるまで思い出したように閑話的なエピソードを投稿していこうかと思います。

よろしくお願いします。

ジャハルに入った青狼旅団の先遣隊は、かつて街であったろう森に飲まれた廃墟から少し離れた場所、わずかな石組や瓦礫が残り、そこに人がいた痕跡を感じさせる場所に拠点を作り、周囲を整地し始めていた。


ミシェル隊。

青狼旅団の中でも特に気の荒い獣人や、戦うことしかできないような短気な傭兵を集めた隊であり、青狼旅団の切込みを担う武力の要。隊長のミシェルもいない状態であったが奇妙なことに文句も言わずに黙々と作業をこなしていた。

そこには、静かな興奮、心の奥底から湧き上がる熱気を、開墾や整地という作業に捌け口を求め、凄まじいスピードで開拓が進んでいく。


その胸には出発前のギダンの言葉があった。

「待たせたな。今までの戦いは、全てこの時のためだった。俺たちの居場所を作るぞ」


彼らは、ギダンという漢に惚れ、憧れ、その志に共感したからこそ弱小の傭兵団、青狼旅団に入り、戦うことしかできないからこそ、戦いで貢献してきた。

青狼の戦いは常に絶望と死と隣り合わせだったが、それでもギダンと、青狼で戦い続けてきた。


立ち止まり膝をついていたギダンに、それでも従ってきた。

見えない明日に不満はあった。

その不満に暴れることもあった。


だが、今、ギダンはなんと言った?

「待たせたな」

その万感の思いを、荒くれたちは受け取っていた。

荒くれたちは押し殺していたが、歓喜の中にいたのだ。


そしてもう1つ。

ミシェル隊副隊長チューイ。

援護や警戒を得意とするもう1人の副隊長マリオンと違い、ミシェルに次ぐ暴れ者のチューイ。

その男が全く口を開かず、黙々と木を切り、切り株をおこし、石を担ぎ、草を刈る。

皆その背を見て不満を口にすることなく働いていた。

途中でハナムラが居なくなったが、チューイは変わることなく寡黙に働いていた。


「マリオン。あの少年。彼は一体なんなのだ」

大森林の近くで野営し、魔獣を警戒していたマリオンの焚き火に、チューイが現れ、座ると薪を焚き火にくべながらつぶやいた。


「アイリス君?なんだろうね」

マリオンは真剣に取り合わず、鍋で木の実を炒り始める。

しばらく静寂が続いたが木の実が爆ぜる音が静寂を破り始めた。


「俺には何が何だかわからん。だが、俺の心が強く叫ぶんだ。王よ!と。」

「君に流れる鬼の血はそれほど濃くはないよね。それでも戦闘種としての本能が現れたのかな。でもアイリス君は鬼じゃないし、エルマとヴァルも鬼なんかじゃない。でも確かにあの時、僕もアイリス君の側に強大な力を感じたよ」


「俺はこのわずかな鬼の血を憎んでいた」

そう言いながら、左の額から生える短い角を触る。

「だが、その力に溺れ、驕ってもいた。そうだろう?マリオン」

マリオンの無言を肯定と捉えたチューイは悲しく笑う。

「恐怖だった。あの時、あの少年に剣を振り下ろした時に感じた感情だ。切株もそうだが、もう1つの気配。俺の中の鬼が、暴れよと喚き叫ぶ鬼が死んだ。恐怖でだ……」

「なるほどね。最近の君、以前ほどの怒りを持っていなかったから何かと思ってたけど。君の中の鬼は死んで鬼の血が残った。なら君はその血に従ってみたらどうだい?君の意思でさ」

「俺の中の鬼の血……」

無言で炎を見つめているチューイに視線を送るとマリオンは立ち上がり、闇の中から現れた銀狼に飛び乗る。

「せっかくだよ。今日はそこで一晩考えなよ。僕はちょっと銀狼に付き合ってポンダルトの息が掛った商隊を襲ってくるよ。ウフフ。ポンダルトの吠え面を想像すると楽しくて仕方ないや」


チューイはマリオンを見送ると、1人、焚き火を眺め続けていた。

太陽が出る前の朝靄を掻き分けて数頭の銀狼とともにマリオンが戻ってきた時、焚き火にはまだ火が残っていたが、チューイの姿はそこにはなかった。

マリオンは隣に立つ銀狼の頭を撫でながら独り言ちる。

「チューイは鬼の血が弱かったからこそ、戦闘種族としての群体に居ないで済んだ。それを思い出させるほどの鬼人族の王の気配ってさ。本当にアイリス君たちって何なんだろう。大体、心の中の鬼って死んだりするものなのかな?」

「ワオン」

首を傾げるマリオンに、従っていた数頭の銀狼も首を傾げる。


大森林の中を南に疾走するチューイは、生まれて初めて鬼の衝動ではなく、己の意思で鬼の力を引き出していた。

その心の、体躯の軽さは今までにないもので、チューイは自身の変化に驚き、戸惑いながら疾駆する。

レイセアの近くまで戻ってきたチューイは、全身汗に塗れ荒い息を吐きながらしばらく立ち尽くしていたが、アイリスに会うべく街道に出ようとする。

「しばらく待て」

チューイが驚き振り返ると、いつの間にか木を背にレネが腕を組んで立っていた。

「レネか……驚かせないでくれ」

「アイリスだろう。今にここへくる」

「待ち合わせていたのか」

荒い息を抑えながらチューイが街道を見る。

「いいや」

怪訝そうに視線を送ったチューイにレネがこともなげに言い放つ。

「お前がアイリスを呼んだのだ」

「なっ」

大きく息を吸ったチューイの横から涼やかな声でアイリスが答える。

「はい。でも僕と言うより、ディーンがあなたを気にしていました」

「ディーン?」

レネが首を傾げる。

「僕と共にある鬼人の王子です」

「ふむ」

チューイは突然現れたアイリスに驚きながら、両膝と両拳を突いて頭を下げる。


「少年よ、少年といい鬼の王子のいうディーンといい、俺にはなにもわからん。俺は激情に駆られて少年に剣を向けた。だが、それは俺が守るべきだったものだった。すまなかった」


ドクン!!


アイリスの胸に下げられた皮袋の中でディーンの魂たる宝石が脈動する。

「ちょっと、ディーン」

「ホホホ、ディーンはまだお前を許しておらんのう」

「俺も許してねえけどな」

少し困ったように胸の皮袋を優しく撫でるアイリスと、胸の前で組んで憤慨しているエルマとヴァル。


「敵対者は許さぬか?苛烈だな」

レネがため息をつく。

「僕は構わないんですけどね……」

ハッとしたようにアイリスを見上げたエルマとヴァル。

「まあアイリスがいいって言うならいいか」

「ほほほ、アイリスに免じましょうかのう」


レネが呆れて白い目でエルマとヴァルを見る。

「そうなるか……」


チューイは膝をつき、頭を下げたまま呻くように声を上げる。

「ディーンという鬼の王子は俺を許されないかもしれん。だが謝罪だけは受け取ってくれ……」

アイリスは胸に下げた革袋から白い宝石を取り出し、左の手のひらに置くと、そっと撫でる。

レネが驚きの表情を見せ、小さくつぶやく

「あれは?宝石に、人の命を?気配を感じるだと?」

リリリリリ

白い宝石が澄んだ音を鳴り響かせる。

「チューイさん。ディーンからです。鬼とは、鬼人とは何なのか、と」

「鬼、鬼人……」

顔を上げたチューイにアイリスが優しく微笑む。

「いつの日か、それをディーンに答えてください。それと、僕たちも青狼なんです。もう家族ですよ。あの時のことは気にしていませんから」


チューイの眼から涙があふれる。

「少年よ!すまない!」

「アイリス、そう呼んでください。チューイさん。よろしくお願いします」

「ああ、ああ。ありがとう。アイリス。よろしく頼む」

チューイは差し出されたアイリスの手を歓喜を持って強く握り、何度も何度も振って感謝を表す。


「でもチューイさん。本当に謝るべきはダーナちゃんですよ。あの時壊した花飾りはダーナちゃんに貰ったものでしたから」

「うっ、実はあれからダーナがあってくれんのだ」

父親の顔を覗かせ、遠い目で営所の方角に視線を送る。




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