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第101話 価値

漏れていた部分の投稿が終わりました。

ここから再開しますが、しばらく投稿は休もうと考えています。

仕事が忙しいこともあり、今取り掛かっている部分がうまくまとまらず。。。

4月くらいに再開できればと思っています。

それではよろしくお願いいたします。

次の日の朝、エメラルド辺境伯の王都屋敷を訪ねてきた青狼旅団の使いは、青旅旅団、団長ギダン・アンスラを名乗り、まさか団長が来ると思っていなかったエメラルド辺境伯を驚かせた。

5名ほどの騎士が配置された応接室に通され、ソファーに所在なさげに座るギダンはきれいにひげを剃り、身だしなみを整えて、普段のギダンとは全く様子が異なっている。

エメラルド辺境伯は、マリアンヌ伯爵夫人から、まずは緑布の専売権利を勝ち取ることを厳命され、苦笑まじりに家老オーロと家宰コリンと応接室に入っていく。

すぐにギダンは立ち上がり、頭を下げてエメラルド辺境伯を迎える。


エメラルド辺境伯が席に着くと、家老オーロが隣に座り、家宰コリンは後ろに控える。

家老オーロがギダンに声かける。

「座って構わんぞ。」


ギダンはソファーに座ると背筋を伸ばし、エメラルド辺境伯と目を合わせる。

戦士の雰囲気を纏うギダンを見て、武門の出であり、王国騎士団団長も務めたことがあるエメラルド辺境伯は、好感を感じたようだった。


「儂がエメラルドじゃ」

「青狼旅団団長、ギダン・アンスラです。本日はお招きに預かり恐縮です」


「うむ、そうかしこまらんでよい、マリアンヌが迷惑をかけたようじゃな」


ギダンは頭を下げる。

「迷惑など、とんでもございません」


エメラルド辺境伯は、家老オーロが机の上に置いた、青狼旅団の情報が乗った書類を眺めながらギダンに話しかける。

「青狼旅団、めずらしいのう、獣人が多く参加する傭兵団はいくつかあるが、そなたのところは家族ごと抱えておるとか」

ギダンはその書類を見つめながら答える。

「はい、初期のメンバーが家族持ちで、その後も団に参加する者たちに家族連れが多く、そのほうが団員達も安心できますので」


エメラルド辺境伯は、組んだ腕を指で叩きながらギダンを見る。

「それで生産ギルドの権利を持っておるのだな。生産ギルドは王都で設立しておるのか」

「素材ギルドは王国管理ですので王都のほうが許可が下り易く、ほかのギルドも同時に申請した都合上、やむを得ずそのようになりました」

「ポンダルト伯爵がよくそれを許したのう。金を惜しむであろう」

「我らは吹けば飛ぶような弱小傭兵団ですし、獣人も多く、ポンダルト伯爵の興味が向かなかったと思っています」


机の上の書類には、同時期に青狼旅団が貴重な迷宮産の武具類をかなりの数、王国に献上しているとある。

「ふむ、伯爵は金を惜しむが、お主たちは金を惜しまぬようじゃな」

ギダンは無言で頭を下げる。

「それでは、まずは緑布の話じゃ。あの布はまだどこにも売り出していないと言うのは本当であろうな」

エメラルド辺境伯は鋭くギダンを見つめ、ギダンはその眼差しを正面から受け止めうなずく

「はい」


エメラルド辺境伯は、満足げに大きくうなずく。

「まずは儂のもとに持ち込んだこと礼を言おう」

家宰コリンが数反の緑布を机の上に置く。

「この布はすべて儂が買い取りたい。今後もじゃ」

ギダンはうなずくと、辺境伯に断りを入れ、胸の内ポケットから封筒を取り出し、家宰コリンに渡す。

家宰コリンは封を開け、中を確認すると驚愕の表情を浮かべ、思わず声を出す。

「な、なんと」

エメラルド辺境伯は、あり得ない家宰コリンの失態に顔をしかめながら、震えながら差し出された書類を受け取り目を通す。

「むう」

思わずエメラルド辺境伯の口からも呻きが出る。

怪訝な顔をした家老オーロに、そのまま書類を渡す

家老オーロは王都で外交を担い、海千山千の相手とやりあう交渉のプロだったが、書類を見ておどろき立ち上がる。

「お主、これは!」

「オーロ!」

エメラルド辺境伯の声に、はっとした家老オーロが座り頭を下げる。

「申し訳ございませぬ」


エメラルド辺境伯がギダンを見ると、手を軽く組み背筋を伸ばしたまま、真剣な目で辺境伯を見つめている。

その雰囲気を、単に戦士のものとみていた甘さにエメラルド辺境伯は気付く。

それは単なる戦士が纏うものではなく、戦場往来の戦士の気配そのもの。

エメラルド辺境伯はかつて竜の背で立ち向かった魔獣大氾濫、その空気に似た雰囲気をこの場に感じ取る。


「おもしろい」

ギダンの覚悟を感じ取ったエメラルド辺境伯は、居住まいを正す。


「商品ではなく、製法を売りたいと申すか。その代償にそなたは何をのぞむ」


ギダンは軽く深呼吸して一息置き、エメラルド辺境伯を見つめる。

「青狼旅団の王都所属と総合ギルド開設の許可、そしてジャハルの再開発の許可」


意外な回答に、エメラルド辺境伯は思索を巡らす。

一介の傭兵団が再開発を狙うその意図は?本拠地を持たぬと聞くがレイセアに拠点があるはず、ポンダルト伯爵の影響力を避けている、さまざまな情報を吟味していく。

エメラルド辺境伯はいつしか手を組み、親指をすりあわせている。

机の上に置かれた布を見つめ、エメラルド辺境伯がつぶやく。


「ジャハルが再開発されれば、周辺の街道の安全が確保されることになろうな。旅団の王都預かりと総合ギルドの開設は王国命での開発で必要な要件じゃな。これは儂に利しか無いのう」


エメラルド辺境伯は鋭い眼差しでギダンに向ける。

「対価としては釣り合わぬな。お主の望みとこの布。儂にどれだけの価値があるか、お主もわかっているであろう」


ギダンは少し困ったように微笑む。

「この布は我らには扱いきれません。ポンダルト伯爵が知れば、我らのもとには端金すら残らず製法は取り上げられるでしょう。南には魔獣素材がありますので、思うように売れないでしょうし、それにエメラルド辺境伯領であれば、獣人たちに仕事も回ると考えました」


エメラルド辺境伯はギダンの顔を見つめていたが、うなずくとあご髭をしごく。

製造法を読み込んでいた家老オーロが、恐る恐る口を開く。

「殿、そうはいっても、これはとんでもないことですぞ」

そう言うとエメラルド辺境伯の側に寄り、口を手で隠しひそひそと囁く。

エメラルド辺境伯は家老オーロが示した製造法の記載箇所を見つめ、書類を受け取り、何度か指でなぞる。

「クズ素材は、素材省管轄ではなく、産業省の扱い。儂らは売り物にならぬクズ素材や、魔獣素材に寄らぬ産業の開発を求めておった。クズ鱗も押し付けられて、我が領に腐るほど積まれておる。お主、何を狙っておる」

ギダンは深く息を吐いて、エメラルド辺境伯に伝える。

「大森林は近いうちに動きます」


エメラルド辺境伯は怪訝な顔で問い返す。

「前回の大氾濫は5年前じゃぞ?」


ギダンは無言で首を振る。

エメラルド辺境伯は、あご髭をしごきながらギダンを睨む。

「まさか、ポンダルトか」


ギダンは答えず、静かにエメラルド辺境伯を見つめる。


「愚か!」

吐き出すように短く叫ぶと、エメラルド辺境伯は机に怒りを叩きつける。

「彼奴め!なるほど、ギダン。おぬしの考えは読めた。儂の、ひいてはフィリップ王子の後ろ盾じゃな。だがすぐにはやれんぞ」


ギダンはうなずく。

「そのためにジャハルを使います」


「なるほど。ジャハルは時間稼ぎと、ポンダルトとの距離を開けるためか。まず製法を確認させてもらおう。わしの領内のクズ素材が役に立つ日が来ようとはな」

わずかに笑みを浮かべながら、エメラルド辺境伯はあご髭をしごいていたが鋭い眼となりつぶやく。

「ポンダルトも調べねばなるまいが」


少し考えこんでいたエメラルド辺境伯だったが、にやりと笑う。

「よかろう。おぬしは傭兵団の団長よの。儂の信頼、見事勝ち取って見せよ。しかしポンダルトはドケチじゃぞ。厄介じゃな」



「ポンダルト伯爵領の調査を大掛かりに行っていただければ、それで済むかと」

「なるほど。交換条件か。おぬし、悪知恵が働くのう」

にやりと笑いエメラルド辺境伯は指を鳴らす。

「コリン、大金貨を用意せい。今の儂に出来る対価はそれが限界じゃが、足りぬな。オーロ、カミュ迷宮の封印を解き、迷宮利権、独占じゃ。青狼旅団に与えよ。」


ギダンと家老オーロが驚く。

「よろしいのですか?」

「閣下!」

「どうせ封印してある迷宮じゃ、攻略してくれれば儂も助かる。迷宮品を献上しておるぐらいじゃ。攻略もお手の物であろう。まだ公にはできぬが攻略は構わぬ。ギダン、お主の望みであろう。ものにして見せよ」


エメラルド辺境伯は呵々と笑うと、ふと思い出したようにギダンを見る。


「それとじゃ、何枚か染めてもらいたい布がある。マリアンヌのたっての希望でな」

ギダンは視線を動かさずに、エメラルド辺境伯の肩越しに執務室の壁の先に視線を送る。


壁の向こうで覗き穴からエメラルド辺境伯に視線を送っていたマリアンヌ夫人の手が強く握りしめられる。


「承知しました。ですが我らに過分に上質な布類の運搬は少し難しいですね。王都のアレンナ商会と素材ギルドのレヴァントに渡りをつけて頂けますか」

あご髭を扱きながらエメラルド辺境伯が首肯する。

「なるほど。買い付けにでも偽装させる腹積もりか。たしかにアレンナは儂に近すぎるか。レヴァントを噛ませると言うことだな」


ギダンは不敵に笑う。

「レヴァントの主力は討伐魔獣。レイセアではなく本店の信用できる方と伝手を得たく」


「確かにレイセアのギルドはポンダルトの影響は避けえまい。よかろう。コリン、手配を」

家宰コリンは慇懃に頭を下げる。



エメラルド辺境伯の翡翠の目がギラリと光る。

「大森林。もしもの時は」

「青狼旅団、先陣を承りましょう」

見事な呼吸でギダンがエメラルド辺境伯に相槌を入れる。



屋敷から出ていくギダンの後姿を眺めていた家宰コリンは、屋敷の門から出た瞬間に駆け寄ってきた学者風の男と2人で飛び上がり、ガッツポーズを決めるギダン達を見て、僅かに不安を感じていた。

その不安はすぐに逆の形で的中することになる。


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