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川下り

GO TOで川下りにやってきた

作者: 山本大介

 どうかなと思いつつ、書いてみました。


 私の名前は真瀬恵(まなせめぐみ)、28歳、OL。アラサー女子だ。

 つい先日、結婚目前までいっていた彼氏と別れた。

 気分はソーバットブルーだ。

 私は、今、柳川駅にいる。


 世間はコロナの再流行でもちきり、そんな最中のGO TO、4日間の連休、私は土曜日にここに訪れている。

 世間的には、NG自粛の雰囲気がぷんぷん漂っている

 そりゃそうだ、ここ福岡でも日に日に感染者は増加している。

 こんな状況でGO TOなんて浮かれていたら、次の二週間後にはどうなることやら・・・。


 私だって来るつもりはなかった。

 でも、家にいると陰々滅々として、気が狂いそうになるんだもん・・・だから、許して。

 気を紛らわす為に近場の川下りでも行って、癒されようとふと思いたち、現在に至る。

ちゃんと、マスクもしてるし、バッグにアルコール消毒液も入れてるし、ソーシャルディスタンスだって、ちゃんととる。

 あっ、言っとくけど、GO TOの恩恵なんて受けていないからね。

 あれはやり方がよく分からん、だから別にいい。

 

 二駅またいでだったけど、さすがに電車で来るのは怖かった。

 でも、車の免許ないし。

 まずは、この陰鬱な気分をどうかしないと。


 はぁ、おひとり様は少し寂しい。

 駅に川下りの待合所があるので、そこでチケットを購入する。

 待合所には、若いカップルと熟年夫婦らしき人達がいた。

 (・д・)チッ、リア充がっ。


 私はスマホをいじりながら、時間を潰す。

 ほどなくして、マイクロバスが迎えに来た。

 私は、最後に乗り込み、ちょこんと所在なげに座席に腰掛ける。

 これに乗って、乗船場に行くのだそうだ。


 近場といっても、初体験の私、神社の太鼓橋を越えると、すぐ乗船場があった。

 私より、多分、若いお兄さんの案内で、雰囲気のよい場所で腰掛けて待つ。

 そのお兄さんが、アルコール消毒とレインコートを手渡す。


「感染予防の為、アルコール消毒の協力をお願いします」


 私は両手を重ね手の平を見せる。

 お兄さんが数滴たらしてくれた。


「こちらは、レインコートです。今日は天候が不安定ですから、念のためお持ちくださいね」


「・・・・・・」


 そういうご時世なんだと、この状況を改めて感じた時、


「あっ、大丈夫ですよ。レインコートもちゃんと消毒しております」


 勘違いしたお兄さんが、念の為のフォローをしていた。

 私、ひょっとして彼を睨んでいたかしら。


 この舟の乗客は、私と先程のメンバーの五人だった。

 まぁ、そんなもんなんだろう。

 船頭が乗り場に舟を運んでくる・・・おじさんだ・・・やっぱりおじさんは落ち着くわぁ。

 何故か、私はおじさんを見て、ほっとした。


(あれっ、透明マスクつけてる・・・そっか)


 Withコロナを痛感する。

 乗船となった。

 木の椅子が横向きに並べられて、そこには二つ座布団が敷いてある。

舟の正面を向いて座るような格好だ。

昨日のホームページを見た時は、向かい合っていたような・・・そうか、飛沫か・・・これも対策なんだ。


熟年夫婦の次に、若いカップルそして、私の順番に乗り込む。

舟に乗ると、少し揺れる・・・ちょっぴりワクワクする。

プチ旅っていいね。

折からの強風で帽子が飛ばされそうになるのを、私は必死で抑えた。


「では、人数揃いました。それでは、出発します。当社、安全対策、心がけています。それから、今日は風が非常に強いです。帽子などの飛ばされないように注意してください」


 船頭はそういうと竿を片手に漕ぎ出した。

 舟はゆっくりと水面を進み始める。


「以前は、たくさんの海外のお客様が来てくれていました。7対3ですかね。海外のお客様が7で日本のお客様が3ですね。今は海外の観光のお客様はいません、たまに在日の外国の方が見えられますけどね・・・おかげで簡単な英語のガイドも忘れがちで・・・」


 船頭は自嘲気味に笑う。

 舟は並倉という柳川の人気観光スポットを背に、右へと曲がった。


「このあたりは、袋町ですね。緑の木々が生い茂って、ちよっとしたジャングル風ですよ」


 私は、スマホで辺りの景色を写メする。


「正面、見ててくださいね。木と木が折り重なってトンネルのように見えてまいります」


 私は息を飲んだ。

 そこは木陰で涼しく、静寂としている場所。


「私はここが一番好きな場所ですね」


 わかる気がする。

 すごく癒される。

 しかし、風があるといえど、蒸し暑い。

 夏の川下りがこんなにもハードだとは、風が強い分なんとか、マシだが。


「椛島菖蒲園さんですね・・・この辺りが丁度、中間地点です」


まだあるのか、私はちょっぴりそう思った。


「では、今よりお客様、一つずつアイスパックを配布致します。ご安心ください。未使用品ですので」


 お弁当に入れるサイズの小さなアイスパックを手渡される。

 ひんやり心地よい、私はタオルにくるんで、おでこにあてた。

 あー、生き返る。

 ・・・未使用品という説明もいるのか。


 舟は船頭のガイドやご当地ソング等を聴きながら、ゆっくりのんびりと進む。


「♪おだんの生まれは 柳川たんも 子どもん頃からまんのよか ごんしゃんたんねて 掘割きたら 柳とわくどがじゃれまくる こげんよかとこ どけでんなかったい だってんかってん 人んよか 柳川 柳川 おだんぶし おだんぶし♪」(「柳川おだんぶし」)


 舟は終点、沖の端に向かっている。

 私はほっと息をつく。


「皆さま、本日のご乗船、誠にありがとうございました。またのご乗船お待ちいたしております」


 船頭はそう言うと、照れ臭そうに笑った。


 私は帰りのシャトルバスに乗っている。

 気を紛らわすことと癒しを求めたけど、この状況化ということを考えさせられた。

 Withコロナ。

 みんな大変な時を生きている。

 私も前向きになろう、少しだけそう思った。

 だけど、家に帰ると、うじうじしちゃうんだろうなぁ。

 いけない、いけない。


 私は、今日のご褒美に駅前のお店で柳川名物、うなぎのせいろむしを買った。


 まだまだ大変な状況ですが、前向きにいきましょう。

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― 新着の感想 ―
[良い点] コロナで遠くに行けない分、自分もプチ旅行に行ったような気分になれて良かったです。 船頭さんの照れ臭そうな笑顔にホッとしますね^^ 読ませて頂き、ありがとうございました。
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