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鍵屋の憂鬱  作者: 坂門
口火

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不意打ち

 緑髪を揺らすミンの緑色の瞳と、長い黒髪をひとつに束ねているユリカの黒色の瞳。ふたりの瞳は、好奇心旺盛な輝きをユウとアラタに向けた。悩みを募らすふたりとは対照的にキラキラとした眼差しを向けるミンとユリカ。好奇心を隠さず、無言で事の成り行きをせがんで見せる。面白くもない話をしなくてはならないユウは大きく嘆息し、口を開いていった。

 ふたりは黙ってユウの言葉に聞き入り、何かが動き出す予感に笑顔を見せる。


「ようやく面白くなってきたじゃない」

「ですね」


 快活な言葉を放つミンとユリカは直ぐに笑顔を弾けさせた。


「呑気なやつらめ」

「何言っているのよ、暇なのをジッと我慢していたのよ。さぁ、どう動く?」


 “さぁ、さぁ⋯⋯さぁ!”と詰め寄るミンにアラタは露骨にイヤな顔を見せた。そんなふたりの様子を、ユリカは顎に人差し指を置き、“うーん?”と唸る。その姿にユウが声を掛けた。


「ユリカ、何か気になる事でも?」

「その『鍵』というのに心当たりは全くないのですが、帝国図書館にもしかしたら関係する文献が残っているかも知れませんね」

「なるほど。ユリカ、人を使って構わないので、図書館を当たって貰えますか?」

「ええ、もちろん構いませんよ。では、早速行ってまいります」


 ユリカはスキップしながら揚々と扉を後にした。その様子にミンは頬を膨らませて見せる。


「ええーずるいー。私も何かする。何かないの?」

「そんな暇なら、ここに忍び込んだ二人組を探せ。地下の衛兵を使って構わねえ」

「うーん。得意じゃないけど⋯⋯ま、いいか。行ってくるよ! なんかRPGのクエストみたい! ⋯⋯で、地下ってどう行くの?」

「おい! 誰か、連れて行ってやれ!」

「いやぁ、悪いわね」


 ミンも揚々と衛兵と共に部屋を後にした。

 【謁見の間】にはユウとアラタのふたりきりになる。


「マインとアンはNGだ。モモとミランダは読めねえ」

「マインとアンには気を付けないと⋯⋯ですか。しばらくは付かず離れず、様子を見るとしましょう」


◇◇◇◇


 激震が走る。

 ミヒャ、キリエ、コウタの三人が森のエルフ(シルヴァンエルフ)の隠れ里、湖畔の集落へと急いでいた。

 マインから届いた【魔法鳩(クリドゥルマジカ)】。ラムザが湖畔の集落へ出兵したと短い伝言が届いた。

 飛び乗った馬車は、激しく揺れながら三人を運んで行く。混乱と困惑が車内の空気を重くし、何が起こっているのか、起ころうとしているのか必死に考えた。


「詳細が分からないけど、胸騒ぎは止まらないね」

「コウタの言う通りですわ」

「⋯⋯マインの方も相当慌てていたのではないか? 取り急ぎ伝言を飛ばした感じが否めない」

「向こうも慌てていたのか⋯⋯。イヤな感じだね」

「そうね」

「⋯⋯湖畔の集落はクランスブルグ領だが、ラムザの方が近い。急ごう」


 三人の焦燥を煽るように、車輪が悲鳴を上げながら進んだ。

 コウタの言う通り、胸騒ぎは止まる事を知らない。

 流れる景色を見つめながらコウタは言葉を零す。


「これって、戦争になるのかな⋯⋯」


 一番考えたくはない事実。だが、一番考えられる事象。火だねに十分なりえる。

 この憂鬱を押し殺す術を持たない三人は、沈痛な面持ちのまま、ただひたすらに馬車を走らせて行った。


◇◇◇◇


「おまえらは何をやっていたんだ! こんなデカイ動きを読めねえなんて、どうかしてるぞ!」


 カルガの怒号が、狭い部屋に響き渡る。俯き、唇を噛むマインに言い返す言葉は見つからない。

 マインとアン。ユウとアラタのふたりはこのふたりを見事に出し抜いた。

 スピーディーに、そして秘密裡に事柄を進め、マインとアンのふたりが城の異変に気が付いた時には、すでに出兵して一日が経っていた。


「どれだけの戦力をつぎ込んでいる?」

「すまん⋯⋯」

「頭は誰だ? ユウか?」

「ユウではない、すまん」

「んだよ! 何も分からねえのか!」


 カルガの罵声は続いた。焦りが苛立ちを倍増させる。森のエルフ(シルヴァンエルフ)の集落に出兵したという事実は重い。僕達が世話になった人達に危険が迫っている。武器を装備している人間が向かっているという事は、穏便に事を進める気がないのは誰にでも分かった。状況は芳しくない。

 怒鳴るカルガと落ち込むマインの間にユランは割って入った。


「警戒をされていたという事だ。マインとアンはすでに今のラムザに仇なす存在⋯⋯それに近い存在と見られていたのだ。そんな人間に情報をマスクするのは常套ではないか。今さら吠えても始まらんぞ、カルガ」


 ユランの言葉は芯を食ったのか、カルガは大きく嘆息するとマインを責めるのを止めた。マインは自身の不甲斐なさをずっと悔いている。きっとアンもそうに違いない。


「マインも顔を上げよう。向こうが警戒しているって事は、マイン達を恐れているって事でしょう? 出来る事も、やるべき事もきっといっぱいあるよ」


 言ってはみたものの、僕の言葉ではきっと弱いよね。

 しかし、何かが心に引っ掛かっている。何かを忘れている気がするのだけど⋯⋯。


「あ! ユラン、街中の兵士募集の告知(ポスター)。あれってもしかしてこの為だったのかな?」

「あれか。どうかな? この為ではない⋯⋯」


 ユランは剣呑な表情を見せ、急に押し黙ってしまった。しばらく逡巡し、顔を上げる。


「もしかして、クランスブルグと戦争する気じゃないのか?」

「あ? 何の為に? そんな事する理由がねえ」


 ユランとカルガのやり取りに今度はマインが逡巡する。


「理由は分からんが、ユランの言う通りではないか? 森のエルフ(シルヴァンエルフ)の集落はクランスブルグ領。そこに侵攻するという事は、クランスブルグに宣戦布告するのと同義ではないのか? クランスブルグが知らんふりをするとは思えん。そうなったら⋯⋯」

「ええええ! ちょ、ちょっと、それは良くないよ。何とかしなくちゃ、戦争なんて良くないよ」


 マインは意を決し、顔を上げた。眼光は鋭く前を見つめ意志の強さを垣間見る。


「カルガ、ユラン、アーウィン、この動きを止めたい。手伝って欲しい。ラムザの勇者と袂を分かつ」

「まずは、森のエルフ(シルヴァンエルフ)の集落だな。後の事はその後考えるぞ」

「私はアーウィンの護衛だ。アーウィンに付き従う」

「ええ?! でも、僕で出来る事があるなら、もちろん手伝うよ。アウフやララン、アベール達が心配だよ」

「信頼出来る数人に声を掛ける。一刻半だけ時間をくれ。出発の準備を整える」


 僕達が頷くと、マインは部屋を飛び出した。僕達が到着するまで、何も起こりませんように。月に向かって祈る事しか出来ない自分がもどかしく、ひどく矮小に感じる。そんな姿を気にしてくれたのか、ユランがまたポンと肩に手を置いてくれた。


「アーウィン・ブルックスにしか出来ない事はある。準備しておけ」


 ユランの言葉に軽く何度も頷いて見せた。彼女は何故か、いつも僕に勇気をくれる。


◇◇◇◇


 林道をびっしりと埋める兵の数およそ30。先頭の馬車に揺られているのは、ミンとユリカ。遠足を心待ちにしていたかのように瞳をキラキラと輝かせ、鼻歌まじりに笑顔を見せていた。


「湖が見えたらすぐでしたっけ?」

「そうよ。ユリカ、準備はちゃんとしたの? あんた、そそっかしい所あるから大事ものとか忘れてそうよね」

「大丈夫だよ。ほら、今日はちゃんと持ってきているでしょう」


 ユリカは隣に立てかけてあった、大きな布の包みを抱きかかえて見せた。


「あんた、それいきなり使うんじゃないよ。まずは情報を聞き出すんだからね」

「分かっているわよ。ミンこそ、いきなりキレないでよ。あなた短気なのだから」

「言われなくても、分かっているわよ。今回のクエストは【魔法陣】についての調査。きっちり聞き出さないとね」



 帝国図書館に残されていたのは、【魔法陣】は【魔族】より受け継いだ技術という事。詳しい内容は黒く乱暴に塗り潰され、見る事は出来なかった。ならば、聞けばいいと【魔族】の集落を目指す事となった。

 軍を率いて行け、というのはユウの言葉。彼が言うには、【魔族】が【魔法陣】に精通しているのであれば、地下に現れた不審者は【魔族】の可能性があると。

 国の重要施設への不法侵入と、重要施設を攻撃した犯罪者を匿っている可能性。事態を重く見る国としては、調査するのはごくごく自然の事だと笑顔で言い放った。


「クランスブルグと戦争にならないの?」


 ミンは苦い顔でユウに問うが、ユウは満面の笑みで答える。


「今回の犯人はクランスブルグ領の人間の可能性が高いという事実。ラムザに対してあきらかな敵対行為。先に仕掛けたのは向こうだ。違うかい?」


 まるで、こうなった事を歓迎しているかのようにも見える。

 まぁ、面白くなって来たからいいわ。

 ミンもユウに笑顔を返した。



「ミンさん、ユリカさん。湖が見えて来ました」


 手綱を引いている兵士が、客車へと声を掛けた。

 どれどれとふたりは窓から顔を出し、前を覗く。キラキラと反射する湖面が視界に映る。


「やっと着いたわね」


 席に腰掛け直し、ミンは嘆息混じりに言葉を漏らした。



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