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鍵屋の憂鬱  作者: 坂門
ラムザ帝国

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51/95

拝観と願い

 寸分の乱れも見せない衛兵達が立ち並ぶ。剣を上段に構え、次々に剣のアーチを作り出して行った。

 そのアーチを悠然と歩いて行く金髪の男。

 その自信に満ち溢れた歩く姿に、ある者は感嘆の声を上げ、ある者は魅入る。またある者はほくそ笑み、ある者は怪訝な瞳でその姿を睨んだ。

 金髪の男は高い城壁から街を見下ろした。風が金髪をたなびかせ、ゆっくりと下界へと視線を落とす。

 その姿を住人達は見上げていた。未知なる者が立つ城壁を、好奇と羨望と困惑を込めて見上げる。

 赤く光る鎧を纏う金髪の男が、絵に描いた張り付いた笑顔を見せていく。


「うさんくせえ」


 カルガは街の片隅から一瞥だけして、誰に言うでも無く呟き、消えて行く。


「これより拝観の儀を行う! 新しい王への忠誠を!」


 衛兵の高らかな声に、兵士達は剣を目の前に掲げ、住人達は胸に手をやり、頭を垂れた。ユウ・モトイはその光景に、密かに打ち震えていた。笑い出すのを止めるのに必死で体は小刻みに震える。大きく息を吐きだし、城壁ギリギリまで前に出ると下に向けて堂々とした態度で手を振って見せた。新しい王の登場に歓声とどよめきが入り混じる。アン・クワイとマイン・リカラーズは表情を変えずに感情を押し殺す。ミン・フィアマはニヤニヤと笑みを零し、ユリカ・キタベは何かに期待するかのように瞳を輝かしていた。


「モモとミランダはどこだ?」


 マインはアンに耳を打つが、アンは黙って首を横に振った。相変わらず自由なやつらだ。モモとミランダにどう向き合うか⋯⋯。彼女達はこの状況をどう考えているのか。逡巡するマインにアンが耳打つ。


「少なくともミランダはヤバイ。あいつには気をつけろ」


 マインはその言葉に少し驚いて見せた。ミランダに持つ印象は明るくまじめ。誰にでも優しく温かな空気を纏う。艶やかな黒髪をなびかせ歩く姿は凛々しく、柔和で温かな笑みを常に絶やさない。

 しかし、アンがそこまで言うとなると話は変わって来る。


「全てが偽りか?」

「そう思っていい」


 飲み込みの早いマインを一瞥し、アンは前を向いた。クランスブルグと同じく割れていくのか。満面の笑みを見せるユウの横顔を、アンは無表情で眺めていた。


◇◇◇◇


 新しい王を迎え、人々の熱は過熱する一方だった。人々は根も葉もない噂に花を咲かし、根拠のない期待を寄せていく。

 カルガはその様子からひとり離れ、街の奥へと進む。裏通りの更に細い路地を通り、普通の人間なら寄り付かないスラムへと足を向けた。修繕などされるわけもない建物が立ち並び、ござを一枚引き、裸で寝ている人もひとりやふたりではない。そんな様子にも臆する事は無く、足早に目的地を目指した。

 

 傾いた扉はすでに扉の役目を拒否し、緩やかな風にブラブラと揺れている。開ける必要も無く、下へと伸びる階段をギシっと軋ませ目的の扉の前へ立った。コンと軽めのノックで扉を開くと、うす暗い部屋でも色付きの眼鏡で表情を隠す男が、一間もない狭い部屋の奥でテーブルと共に鎮座していた。一瞬強い殺気を放ったが、カルガの顔を見ると、すぐに口角を上げて見せる。


「よぉ、ヤクル。相変わらず辛気臭せえ所だな」

「はっ! 胡散臭せえヤツに言われる筋合いはねえな。今日は何だ? 何が欲しい?」

「そう急かすな。と言いてえ所だが、急いで調べて欲しい事がある」

「情報か?」

「そうだ。前金で中銀貨一枚、情報が本当だと確認出来たら中金貨一枚。どうだ、悪くないだろ?」


 カルガは机の上に中銀貨を置くとその硬貨の上に指を置き、ヤクルの前に滑らす。カルガは硬貨から指を外さずに続けた。


「乗るか? 乗らないなら他を当たる」


 相場の倍以上の提示に、ヤクルは喉を鳴らす。破格イコールやばい可能性は大。乗るべきか、下りるべきか、カルガと硬貨を睨み逡巡し身悶えしていた。カルガはその姿をニヤニヤと見つめていたが、机の硬貨をスッと自分の方へと戻していく。


「ま、無理するな。悪かったな、他を当たるわ」

「ちょ、ちょっと待て! やらねえとは言ってねえ。だからちょっと待て」

「ほう。じゃあやるのか?」


 中銀貨をポケットに捻じ込むと、唸り続けるヤクルに背を向け、軽く手を上げる。


「待てって! やる! やる! つったく、現金チラつかせるなんざぁ、汚ねえやり方しやがって」


 悔しさに顔をしかめるヤクルに、カルガは満面の笑顔を返す。


「何言っている。信用商売だろ、互いに嘘はなしだ。そら」


 キンと高い音を鳴らし、カルガの弾いた銀貨がヤクルへと綺麗な弧を描いて見せた。


「で、何やらそうって腹だ」


 ヤクルは眼光するどくカルガに向くと、すでにプロの顔へと変貌としていた。その姿にカルガはニヤリと口角を上げて見せる。


「子供を隔離している施設、場所を探して欲しい。多分、7歳くらいから成人前、14くらいまでの子供達だ。人種は雑多、人数は不明。ただ、ひとり、ふたりじゃねえ。三桁は行くはずだ」

「はぁ? ガキ共が何百人もいる施設なんていくらでもあるじゃねえか」

「だが、隔離までしている所は、知らねえだろう?」

「何だってまたそんなの⋯⋯。あ、いや、いい。聞かねえ。三日くれ」

「ダメだ。二日だ」

「おいおいおい。そんな雲を掴むような話、三日だって相当な譲歩だぞ」

「今すぐ動けば二日半ある。おまえなら出来る」

「チッ」

「まぁ、こっちものんびり構えている時間がねえんだ。頼んだぞ」


 カルガはそれだけ言い残し、古びた階段を駆け上がって行った。


◇◇◇◇


 少し湿っぽい店内。扉と窓を開け放ち新鮮な空気を取り込んだ。

 何日ぶりかな? 薄っすらと鍵が被る埃を叩くと盛大に舞い上がった。


「ぶっはぁ。こりゃ、ダメだ」


 リアーナもいなくなり、ユウ・モトイもどこかへ消えてしまった。僕に対する疑惑は晴れた(という名目)という事で、無事に解放だ。ジョンさんが、裏でいろいろしてくれたみたいだけど。

 何はともあれ、こうして店を開けるのは嬉しい。自然と顔も綻んでしまう。


「アーウィン! アーウィンじゃないかい! どこ行っていたのよ! ぇ⋯⋯」


 久々の元気のいいニアンさんの声に笑顔で振り向くと、ニアンさんが絶句したまま固まってしまった。

 あれ? あ! 片目になっていたのを忘れていた。


「そ、そ、そ、そ、その目、ど、どうしたんだい!? 一体!」


 動揺がそのまま声に出ている様に、苦笑いを返す事しか出来ない。どう言えばいいかな。少しだけ逡巡。早く弁明しないとニアンさんが固まったままだ。


「ちょっと出先で、怪我しちゃってね。治療に思いの他時間が掛かちゃった。もうすっかり平気」


 隻眼で満面の笑みを浮かべると、今度は泣き出しそうな顔でこちらを見つめる。


「何だってまぁ、大変だったね。何かあったら言いなよ。遠慮するんじゃないからね」

「ありがとう。何かあったらお願いするよ」


 何だか朝から元気を貰った。驚かしてごめんねと思いつつ、溜まった埃を掃除するべく店内に戻った。


「おい⋯⋯」


 ニアンさんの明るい声とは正反対、剣呑な雰囲気の声色が背中越しに聞こえた。さすがにお客じゃない事は僕でも分かる。しばらくは大人しく暮らせると、淡い期待をしていたのだが、もう終わり? 僕は商売人の笑顔で振り返る。


「申し訳ありません。まだ⋯⋯開店⋯⋯」

「そんなものは見れば分かる」


 現れたのは大柄な猫人(キャットピープル)の女。

 知っている。

 リアーナと一緒にいたヤツだ。僕の容疑は晴れているはず、堂々としていればきっと大丈夫⋯⋯なはず。


「何か御用でしたら、後ほどお伺い致しますよ」

「ああ。そういうのはいい。おまえに聞きたい事がある」


 聞きたい事?

 冷えた鋭い瞳を、アーウィンに向ける。殺気をはらんではいるが、敵意は感じられなかった。それをどう捉えるべきか困惑する。


「な、何でしょう?」

「リアーナはどこだ?」

「へ?」

「誰に聞いても知らぬの一点張りだ。おまえ、何か知らないのか?」

「僕何かより、あなたの方が彼女の事は詳しいのではないですか?」


 女は口を堅く閉じ、悔しさを噛み殺す。襲われると思ったけど何か様子が違う。僕が首を傾げて見せると、女は上目で僕を睨んだ。その鋭い視線に思わず体は硬直してしまう。


「おまえを襲った時、ドワーフがいたのを知っているか?」


 キリエとカタが対峙したというヤツか。僕は首を横に振り知らないフリをした。キリエが止めを刺したのだっけ? 


「おまえを相手している時⋯⋯そのドワーフは他のヤツと対峙し、焼かれた」

「それは何と言えばいいのか⋯⋯お気の毒様で⋯⋯」


 女の殺気をはらむ瞳は相変わらずだが、ひとつ大きく息を吐いた。


「そのドワーフを殺したのは、リアーナだ。私は親友を殺したヤツを許せない。おまえ勇者殺しだろ? 勇者でも殺せるよな? おまえの伝手(つて)で、リアーナの居場所は分からんのか? 悪人なら勇者でも殺していいんだよな? お咎めないんだよな?!」


 え? そっち?

 一気にまくし立てる女に、圧倒されてしまった。


「ちょっと待って! 落ち着いて!」


 興奮する女を落ち着ける。椅子を出し、座らせお茶を出した。冷静に考えると、この人にえらい目に合わされたんだよね。僕は一体、何やっているんだろう? こんな自分自身に溜め息を漏らしそうだ。


「すまん⋯⋯」


 落ち着き取り戻した女は、殊勝な姿を見せる。

 あれ、待って。確かそのドワーフってキリエが倒して、リアーナが飛び込んで来て、焼き殺したのはキリエだと喚いて⋯⋯って聞いた気が。キリエに罪をなすりつけようとしていたのか!? 

 下衆なヤツめ。

 僕の表情が険しくなっていたようで、女は顔を覗く。


「私はユランと言う。おまえをどうこうしようって気はもう無い。本当だ。何でもいい、教えてくれ。頼む」


 僕は一度宙を睨み、ユランへと視線を戻した。


「残念だけど、ユラン。君の願いは叶わない」

「なぜだ! アイツは動けない親友を殺したのだぞ! まだ助かったかも知れない⋯⋯」

「だって、もうリアーナはこの世界にはいないから。元の世界⋯⋯いるべき所に帰って貰ったよ」


 一瞬何を言っているのか理解出来ていない様子を見せたが、すぐにユアンの肩から力が抜けて行き、声を出さず涙を零す。それが喜びの涙なのか、自らの手で成し遂げる事が出来なかった悔しさの涙なのか、僕には分からなかった。


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