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鍵屋の憂鬱  作者: 坂門
結界

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帰還と王冠

 正直者が馬鹿を見る。

 くだらない世の中だな。

 住人達が破壊された建物の修理に勤しんでいる。その姿をカルガはじっと見つめていた。

 住人達はカルガ達をなじる事も無く、ただ黙々と壊れた柱を見上げ嘆息している。オレだったら一言じゃすまない、お人好しにも程がある。しかしまぁ、責められないのは正直助かるがな。カルガは嘆息し、その様子から視線を外した。

 その場から離れ、集落をあてどなく歩く。心に鎮座する煮え切らない思いはここの人達への罪悪感なのかもしれない。


「カルガ!」


 聞き覚えのある声に懐かしさを感じる。自然と頬が緩み、声の方に口角を上げる。


「おう⋯⋯ってどうしたその顔?」


 森のエルフ(シルヴァンエルフ)の女の子を連れて歩く、ゴーグルを首から下げている良く知る男。その良く知る男の見慣れぬ姿。右眼を失い隻眼となって目の前に現れた。目を剥くカルガに隻眼の男も目を丸くする。


「カルガこそどうしたの、その顔? 随分と酷い跡だね」

「アーウィン。そっくりそのまま、その言葉を返すぞ。その目どうした?」

「あ、これね⋯⋯リアーナにやられちゃったよ。まいった。カルガこそ、その火傷みたいな跡、結構酷いよ」

「おまえのに比べたら屁でもねえ。ま、こいつもリアーナだ」

「え?! ここがバレちゃったの?」

「バレたというより、嗅ぎ付けたって感じだな。アイツは厄介だ。で、その森のエルフ(シルヴァンエルフ)はどうした?」

森のエルフ(シルヴァンエルフ)? って、え? 何? エルフ? そうなの?」

「シシシシ」


 戸惑うアーウィンにくしゃくしゃっと笑みを向けるララン。その笑みに驚いた顔を見せながらアーウィンは続けた。


「あ⋯⋯こちらはララン・ミルシーラ。アウフの娘さん。【結界】のイロハを教えて貰ったお礼に王都に連れて行く事になった」

「観光気分か? 大丈夫なのか?」

「危ない所には近づけないよ」

「そうそう大丈夫だよ、カルガ。話しでは聞いていたけど、話ほど悪人面じゃないね」


 笑顔を向けるラランに、カルガは眉間に皺を寄せた。


「ほっとけ」

「それで、いつ戻るの?」

「今だ。すぐに戻るぞ。いいタイミングで現れた」

「随分と急だね。こっちはいつでも大丈夫だよ。準備は出来ている。しかし、随分と派手にやられちゃったね」


 壊れた街並みを見渡し、アーウィンは嘆息する。


「まあな⋯⋯とりあえず細かい話は王都に向かいながら話そう」

「分かった。ララン行こう」

「うん」


 正直者が馬鹿を見るくだらない世界にひとつ風穴を開けてやる。小さな穴でも塞ぐことの出来ない深い穴だ。このくだらない世界を塗り替える為の布石をまずは打つ。

 カルガの心が静かに滾っていった。


◇◇◇◇


 なんだかとても久しぶりに感じる。さすがにいきなり王都に乗り付ける訳にもいかず、僕達はすっかりアジトと化したジョンのログハウスに到着した。

 周囲の安全を確認し、用心深く中へと入って行くとエルフのリックルと狼人(ウエアウルフ)のアッカが出迎えてくれた。


「アーウィン? どうしたその目!?」


 リックルが開口一番、隻眼のアーウィンを見つけ驚いて見せた。カルガに始まり一通り驚かれるのを覚悟していたので照れ笑いを浮かべ、後ろ手に頭を掻いて見せる。

 ジョンとミヒャもきっと驚くよね。ミヒャ元気かな。そんな関係のない事を想いながら、各々が近況報告を兼ねて情報のすり合わせをしていった。


「ユウがいなくなったですって?? どこに??」


 行方不明のユウに、キリエもコウタも驚愕の表情を浮かべ困惑した。誰もが知りたいユウの行方。誰も分からぬその行方にカルガはひとり胸騒ぎを覚える。

 まともに見えるヤツほど、キレると厄介だ。あの優等生が消えた? カルガはこの胸騒ぎが、思い過ごしである事を祈る。(いや)、そう思う事にして胸の奥へと押し込んだ。これ以上の厄介事は正直、対処出来るとは到底思えない。


「あれ? ちょっと待て。て事は、リアーナもユウもいないなら隠れる必要ないんじゃねえのか?」


 カルガの言葉に一同が顔を見合わせる。狼人(ウエアウルフ)のアッカが少しばかり険しい顔を見せた。


「根回しは必要かな。今すぐって訳にはいかない。ユウ達のパーティーがいなくなってどう動くのか読めないし、リアーナも死んだわけじゃないのなら、ここに戻ってくる可能性もある」

「リアーナはしばらく動けないはずだ。その根回しってやつ、何とかなんねえか? そこがクリアーされちまえば一気に片が付く」

「分かった。何とかしよう。ジョンとミヒャは夜にならないと動けない。しばらく休んでいてくれ」


 アッカとリックルが目配せするとふたりは部屋から出て行った。

 扉の閉まる音を聞くと、僕の肩からスッと力が抜けたのが分かる。思っている以上に緊張をしていたみたいだ。背もたれに体を預け一息ついた。何かがゆっくりと動きだした気がする。確信にも似たその思いに、少しばかり気が急いていたようだ。

 動きやすいのならそれに越した事はないよね。気持ちが前のめりになっていく、きっと早くみんなの役に立ちたいのだ。足を引っ張ってばかりの僕に名誉挽回の好機だものね。

 アーウィンは逸る心を落ち着けようとカップを口元へと持っていった。


◇◇◇◇


 奥歯が砕けるのではないかと思うほど、噛み締めていた。燃えるようなルビー色の瞳が怒りの業火を燃やす。本人以上の怒りを見せるミヒャを、合流早々みんなでなだめていた。

 夜の帳が下りると足早にジョンとミヒャが現れる。目に飛び込むアーウィンとカルガの姿に顔をしかめていった。おおよそ予想通りの答えにミヒャの怒りは爆発寸前だ。


「でもさ、不幸中の幸いだよ。目をやられちゃったけど、アウフとラランに会えて【結界】について学べたんだ。そう考えたら僕の片目くらい安い物だよ」

「そんな訳がない! あなたは自分を安く見積もり過ぎる」

「ご、ごめんなさい」


 ミヒャが珍しく感情的になっていた。見た事のないミヒャの豹変に一同が呆気に取られる。アーウィンが反射的に謝ると、周りからは苦笑が漏れていった。


「ちょっと、ミヒャ落ち着け。アーウィンも苦労掛けちまったな、こっちで抑える事が出来ず申し訳なかった」

「ジョンさん止めて下さい、アイツを抑えるのはきっと無理ですよ」


 ジョンが頭を下げると、アーウィンは慌てた素振りで制止した。


「ツイていると言えば、ツイている。サッサとおっぱじめて終わらせようぜ。根回しは出来たのか?」

 

 カルガの問いにアッカが軽く頷いて見せた。


「危惧していたのは正義心に燃えて、ユウやリアーナの後を継ぐって輩が現れるという展開だ。話してみればみんなドライで拍子抜け。堂々という訳にはいかないが、顔を隠してこちらと行動を共にしていれば怪しむヤツはいない」

「それじゃあ、もう今夜やっちゃおうよ。早いに越した事はないでしょう?」

「アーウィン。珍しいな、オレも同意見だ」


 カルガが一同を見回し、反対意見があるかの確認をしていった。全員が頷いて見せるとカルガは口角を上げる。


「決まりだな」



 静まりかえった森の中を一同は、居住区へと向かう。

 いよいよ、始まる反撃の狼煙に僕の胸は自然と高鳴った。

 興奮している。自分でも分かる。落ち着けと何度となく深い呼吸を繰り返していると、闇に浮かび上がる大きな王城を横目に、居住区へと静かに滑り込んだ。


「アーウィン」


 アッカが声を掛けると、ピッキングツールの入った袋を手渡す。久々の感触。

 そういえば、あそこで使ったやつは【召喚の間】に投げ入れちゃったんだよね。袋を広げ、中を確認して行く。ジャラっと細い金属が擦れる音。思わず頬が緩む。この間から変わっていなければ問題なくいける。袋を丸め直し、後ろのポケットへとねじ込んだ。


 闇夜に紛れ僕達一行は王城を進む。僕とカルガ、そしてミヒャとなぜかラランもついてきてしまった。危ないって何度も言ったのに、『王様のお城なんて入れるチャンスないよ』といくら言っても聞かず、ついて来てしまった。頭を抱える僕にミヒャが『ユウとリアーナはいない。大丈夫だ』と肩を叩くと、ラランは僕に勝ち誇った笑顔で親指を立てて見せる。

 

 前回の時より警備が薄い? そんな雰囲気を感じていた。人数は変わらずだが、真剣味が薄い気がする。勇者がいなくなった事が関係しているのかな。近しい人間なら、いなくなった噂くらいは立っているだろうし、見かけなくなれば怪しむはずだ。何かが起きている、そんな心のざわつきが伝播しているのかも知れない。

 隠し扉を持つ小さな祭壇の部屋から灯りが漏れている。警備? とも思ったが様子が違う。燭台にしっかり火が灯り、何人もの影が動いているのが分かった。僕達は頭を低くして窓の側へと近づいて行く。漏れ聞こえる会話に顔を見合わせた。


(まだ、開かんのか! 何をしておる!)

(陛下。少し落ち着いて下さいませ)

(もう良い! 扉を破壊しろ。今日こそ【召喚の術】を執り行うぞ)

(はっ! かしこまりました。おい! おまえ達、聞いたか。すぐに破壊の準備にかかれ!)

(はっ!)

 

 バタバタと慌ただしい足音が響き、小さな祭壇の部屋が静かになった。ミヒャはそっと中の様子を伺い、僕達は頭を低くして息を殺す。


「どうするの?」

「今、考えている」


 僕は小声で問いかける。険しい顔のカルガは必死に打開策を探していた。

 あれが王様か。

 窓から漏れる王冠の影を睨む。アイツの指示で何人も⋯⋯そう思うと影を睨む僕の視線は厳しくなっていった。


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